発生学・発達学の誤用に注意しましょう②
おはようございます。理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
前回の続きです。脳機能を改善すると謳うリハビリ理論について話をしています。
発生学の知識として、脳と皮膚(表皮)は共に外胚葉由来です。
ですので、皮膚に刺激を与えることで、脳に変化が起こせると主張する理論があります。
今日は、この様な理論に対して私が考えていることを書きます。
私は、この手の話を聞くと以下のような疑問を持ちます。まだ誰からも納得のいく答えを頂いていないので、詳しい方がいたら教えて頂けると嬉しいです。
Q:なぜ、『そのタイミング』に注目したんですか?
私の記憶が確かであれば、発生の過程は・・・
①精子と卵子が合体して、一個の細胞=受精卵になる
②受精卵が細胞分裂して外胚葉、中胚葉、内胚葉になる
③その後も細胞分裂を繰り返して様々な器官になる
(脳とか皮膚とか筋肉とか舌とか耳とか・・・)
なぜ、他でなく②の段階に注目したのか?これに関する合理的な説明がないと、このリハビリ理論の説明は腑に落ちません。
もし、①の段階に注目したならば、音楽を聞かせても、ご飯を食べさせても、皮膚に刺激を与えても有効ということになります。だって、この段階では、脳と耳と舌と皮膚は同じグループ(受精卵)に属しているんだから。。。
逆に、③の段階に注目したのであれば、皮膚に刺激を与えても意味がないことになります。だって、もうすでに脳と皮膚は分かれてしまった後だから。。。
なぜ、①でも③の段階でもなく、②なのか? 発生学を治療の理論的背景に利用しているリハビリ理論の多くは、これらの理論を都合よく解釈して使っている(誤用である)ことが多いです。
発生など、人体を作り上げる過程の凄い所は、シンプルな現象の相互作用で非常に複雑な人体を作り上げて、制御していることです。ですので、合理的な説明なく、『脳と皮膚は発生の一段階で一緒のグループだったから、皮膚を刺激すると脳が変化する』というのは、理論が飛躍しすぎと私は思います。
補足です。
得意の(?)、『反対にして考える』という手法を使うと、皮膚刺激で脳が簡単に改善するなら、皮膚刺激で脳にダメージを与えることもできるのかな?という疑問も沸き上がります。
『誰かの肩に軽く触れたら、脳にダメージを負わせてしまった。』こんな事件、聞いたことないけど。。。
しかしながら、この手の推論は今回の趣旨と逸れるので、無視します。
補足終わり。
以上から、私は、このリハビリ理論の『理論的背景』はしっくりきません。ですが、『科学的根拠に基づいたリハビリ』の考え方からすると、想定されているメカニズムが正しいか否かはあまり問題ではありません。わたしが「しっくりくる」か否かは問題ではないんです。
患者さんを対象として、科学的な手法に則ってデータが収集され、統計的に有効性が証明されれば、メカニズムがよく分からなくても有効性だったり、治療と回復の因果関係の証明は可能です。メカニズムの解明は、後の課題としてもいいわけです。
・・・・では、このリハ理論には科学的に有効とみなせるデータはあるのか?
→ないそうです(当時の同僚の話より)。そもそも臨床研究自体が為されてなくて、『今後の課題(講師の先生談)』だそうです。エキスパートの先生の経験的には超有効とのことです。
・・・・・うん(*_*;。
今後この理論の有効性が証明される可能性を否定しません。ですが、新しい理論が、臨床研究も行われていない段階で、受講者を集めて講習会を開催している。その結果、リハ専門職の間でこの理論が広まっていき、患者さんのリハに使われる、という状況には違和感を覚えます。
『新薬が怪しい理論的背景だけを根拠に、治験の段階を踏まずに、患者に提供される。』、先進国でこのような事態が起きれば、提供した側は大変な目にあうと思います。
リハビリも医療の一環であるならば(私はそう思ってます)、リハビリだけが科学的に検証されるフェーズをすっ飛ばしてよいとは思えません。
この様な考え方のリハ専門職が多数派ではないと思いますが。。。。。
歯切れが悪いですが、「こんなことを考えてます」という話でした( 一一)。
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございました。
理学療法士 倉形裕史