運命じゃない人
運命じゃない人
A Stranger of Mine
2005年8月30日 渋谷ユーロスペースにて
(2004年:日本:98分:監督 内田ゆうじ)
タイトルがいいですよ。まず。『運命の人』ではく、『運命じゃない人』
主人公のサラリーマン、宮田君(中村靖日)は、まさにドラマチックな運命的な出会いをする人ではない!って映画が始まってすぐにわかってしまうあたりからもう笑いがこみあげてきました。
訳あってお洒落なマンションに住んでいて、同僚から『アパートの鍵貸します』そのまんまのお願いをされて、「DVDぐらいあるんだろ?」「あ、うちないです。」「プレステ2もないの?」「ないです」・・・その辺のやりとりからして、宮田君のお人柄ってものがわかるのです。
真面目ないいひと。ただそれだけ。格好良くもないし、失恋してるし。友人神田にはナンパ説教されても返す言葉なし。
しかし、ある金曜日の夜~翌土曜日の朝まで、こんな宮田君の周りでは、女詐欺師、やくざ、探偵、謎の女・・・・しかも2000万円の行方までからむ詐欺ゲーム、コン・ゲームが繰り広げられてしまうのです。会話の連続による会話劇でもあります。同じ台詞も状況、聞く人が違えば全然違う意味になってしまう面白さ。
婚約破棄されて行き場のない女性、真紀が入ったレストラン。真紀はいきなり前のテーブルの男性から一緒に食べましょうよ、とナンパされる。これが宮田君の友人で探偵の神田(山中聡)で急に呼び出された宮田君がいる。
宮田くんにナンパ学をひとしきりした神田は、さっさと席を立ってしまう・・・取り残される気まずい2人。
さて、ここからが、時間軸を自由に使いこなした、また、それぞれの登場人物の視点がくるくると変わるコン・ゲームの始まりです。
テンポよく、さっきのナンパは何故?何故、神田は急に席を立ってしまったの?家に真紀を連れてくれば、何故か別れたはずの恋人、あゆみが訪れてくる。急に連絡とれなくなった神田。あゆみに怒って、家を出てしまう真紀。追いかける宮田君。
文章で書くとこういうことなんですけれど、映画ではそれぞれが、時間を逆転させてみせてくれる。そうして「謎とき」と「ゲームの行方」の両方を見せてくれる、という実によく構成が練られた映画なんです。
色々あっても、いいひと宮田君は、結局な~んにも気がつかない。何があったかわからない。でもそれでも傷つかない。それは他の人間も同じです。色々、あっても殺されたり、傷つけられたりはしないけれど、なんだか「運命」のようなものに翻弄されてしまう。
そんなテンポの出し方がとても軽快で観ていて気持ちいい。一瞬出てくるタクシーの運転手さんがいい味だしてますね。
これは第14回PFFスカラシップ作品なんですけれど、大作ではないながらも質の高い上手く出来た映画をたくさん輩出しています。
内田監督は、アメリカで映画を学んだ人だそうですが、『男はつらいよ』の会話のテンポがとても好きだそうです。たしかに会話と会話の間のズレを上手く使っていますね。こういう可愛げのある洒落た頭の良い映画はとても好きです。