カンニングを疑われたある生徒のお話
先日、小田急線に乗っていたら、車内で声をかけられました。
「先生、久々じゃん。え?ちょっと太りました?」
声をかけてきてくれたのは、元生徒。太りましたかは余計でしたが、久々の再会に話は弾みました。今はシステムエンジニアを目指して頑張っている様子。元々ガッツがある子ですから、どんな道でも大丈夫でしょう。
話しながら、そして、話し終えた後の帰り道、当時の彼の思い出が蘇ってきました。そういえば、こんなことがありました。
カンニングを疑われたある生徒のお話
彼が塾へやってきたのは、中学3年生の夏前。
「このままだと高校に行けない」と親が連れてきた格好でした。本人にも多少危機感はある様子でしたが、あんまり態度も良くない感じでした。
好きなゲームの話で盛り上がり、危機感と希望を伝えて入塾が決定。すぐさま夏期講習というタイミングで、体力に自信があった彼は、なんだかんだそこからほぼ毎日塾へとやってきました。
「項が一つの式の名前は?」「いっこうしき」
「自然数ってどんな数?」「自然の中で暮らす数」
「パンケーキを半分に分けたら何分の何?」「じぶんのもの」(奇跡!)
彼が繰り出すトンチンカンな回答は今も思い出すと笑ってしまいますが、「珍回答は頑張っている証!」と鼓舞して、学習を進めていきました。
特に、5科目の中でもちょっとだけ自信があると話していた数学は、一年生の頭からの総復習、いや、小学生からの総復習により、「わかった!」を沢山手に入れて、計算分野においてはかなりの実力をつけていました。
2期制の中学校ですから、夏休み明けにはテストがあります。「ここでビックリさせてやろうぜ」と本人を乗せて、ガッツリ勉強をしてもらいました。後半は自分から進んで学んでいる姿勢が印象的でした。数学と国語は何も言わずともカリカリ自分から解いてましたね。
そして、やってきた勝負の日。テストを終えて帰ってきた彼の口からは「音楽は死んだけど数学は自信ある」との言葉。音楽は無念でしたが、数学についてはちょっと嬉しそうでした。
さぁ、いよいよ返却の日。テーマを「大逆転!」として頑張ってきたこの夏の集大成。3年生の前期期末テストの数学の点数は、70点台後半。本人も保護者の方も見たことのない点数でした。だけど、当の本人は浮かない顔をしていました。
「カンニングしたんじゃないの?」
点数を知ったクラスメイトから、そんな言葉をかけられたそうです。それはショックですよね。本人曰く「先生もちょっと怪しんでいた」とのこと。まぁ、それは被害妄想かもしれませんが、とにかく本人は傷ついていました。
その時、面談席に呼んで、こんな話をしました。記憶をたどって書いてみます。
あなたは本当によく頑張った。それはあなた自身も、自分も、先生たちも、お母さんも、みんな知っている。誇っていいよ。胸を張りなさい。
そして、そのことも踏まえて、成長したあなたに、ちょっと大人の話をしよう。
信頼残高って聞いたことある?ないよな。信頼残高っていうのは、簡単に言えば、その人がどれだけ信頼できるかってことだ。信頼残高が多ければ多いほど、その人が信頼できるっていうこと。じゃあ、この信頼残高はどうやって貯めるんだと思う?
小難しい話に彼は少し戸惑っていた記憶がありますが、眼差しは真剣だったので僕は話を先へ進めます。
信頼残高を貯めるのは、日々の行動や言動だ。それを見て、周りの人があなたを信頼するかどうかを決める。
そこで、遠慮なしに聞くけど、◯◯(生徒の名前)は今まで信頼残高を貯めるような行動をしてきたって自分で思う?この夏よりも前の話ね。
ちょっと悩んで、彼ははっきりと言いました。「思わない」
もしかしたら、そのクラスメイトもそう思ってるのかもね。今回はさ、ちょっときつい経験だったかもしれないけれど、理屈はそういうこと。
よくドラマとかでもあるよね、更生しようと思った不良が過去のしがらみで苦労するやつ。頑張っていなかった過去が、頑張っている今を邪魔するんだ。
少し目を伏せた彼に、僕は目を合わせてから言いました。
でも、あなたは今、変わっている。ちゃんと信頼残高をコツコツ貯めてるよ。それは自信を持っていい。口ではそう言われたけど、今回のその結果は、クラスメイトや学校の先生にとって、あなたへの大きな信頼の貯金になっていると思うよ。
だって、考えてみて。もし次のテストでも今回や今回以上の点数をとったら、もう誰もあなたの不正を疑わないでしょ。何なら100点取って言ってやれ、「え?誰のカンニングするのさ」って。
彼が少しだけ笑いました。そこからは、ちょっとの雑談と次のテストへ向けてのスケジュールの話をしたような。
彼はそこからも奮起し続け、(英語はなかなか上がりませんでしたが)、記憶が正しければ、数学は次のテストでも過去最高点を叩き出したはずです。高校も公立に合格。よく頑張りました。
どの生徒もそうですが、彼らがやりたいことへ向けて頑張っている姿を見るのは、やっぱりとっても嬉しいですね。ひたすら突き進んでいってほしいです。
今も「信頼残高」のようなそういったお話を生徒にすることはよくあります。例を出せば、人間誰しもが普通にやっていることですから、どの生徒も理解はしてくれます。喩えとしては、オオカミ少年の話なんかがわかりやすいですよね。
信頼は、日々の言動がつくる。子どもだけじゃなく、僕ら大人だって同じです。そのことを肝に銘じながら、僕も奢らず弛まず日々日々精進していこうと思います。
なんて好感度を上げながらお別れしましょう(別に上がらない)。
本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
大人が子どもから教わることもたくさんある。