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富士の高嶺から見渡せば

東トルキスタン問題の国際化

2018.08.24 03:25

中国による過酷なウイグル人弾圧に、ようやく世界の目が注がれ始めている。米国の議会や国連の委員会などでウイグル人が大量に拘束されている問題が取り上げられ、欧米メディアでも東トルキスタン(新疆ウイグル)の実情が詳しく報じられるようになった。つまり中国政府がもっとも嫌う「東トルキスタン問題の国際化」が静かに進行していることになる。

新疆ウイグル地区では、明確な理由もなく強制収容所に収容されているウイグル人とその他のイスラム系民族は200万人とも300万人とも言われ、ウイグル人などイスラム系人口1400万人の14%から20%に及ぶ。在日ウイグル人の証言では、強制収容所の隣には電気式の焼却施設が併設されてところもあり、施設で死亡した人が密かに焼却処分され、闇から闇に葬り去られているのではないか、という。これが真実なら、ナチスがユダヤ人に対して行った「民族浄化」政策と何ら変わりのない、国家ぐるみの人道に対する罪、21世紀の大規模な戦争犯罪でもある。不思議なのは、イスラム教徒に対してこれだけ深刻な宗教的民族的迫害が現に進行しているにも関わらず、イスラム諸国や同じトルコ系の国家は何の声も上げていないことだ。中国との経済関係を考慮し、そこからもたらされる「恩恵」を天秤にかければ、イスラム諸国の国家指導者の宗教的信念など、その程度のものなのか、と思わざるを得ない。

チベットやウイグルの民族問題に詳しい中国人作家・王力雄氏が、その著書『私の西域、君の東トルキスタン』(馬場裕之訳・集広社2011年)で「新疆ではまさに『パレスチナ化』が進行している」(p59)と警告したのは、10年以上前の2006年のことだ。その後、2009年には、王力雄氏の警告が的中するかのような「7・5ウルムチ暴動」が起き、「民族主義の徹底的な動員」で「民族的憎悪が広がった」。イスラエルとパレスチナのような出口の見えない民族紛争がその後も続き、新疆ウイグルは一触即発の火薬庫も同然の状態が続いている。新疆が「パレスチナ化」するということは、国際社会の注目が否応もなく注がれ、この問題が「国際化」するということでもある。そうしたウイグル問題の国際化の流れを、最近の動きの中から探ってみたい。

<ウイグル大量拘束、米国内で高まる中国非難>

アメリカのペンス副大統領は7月26日、首都ワシントンで講演し「中国政府は、数十万人、もしくは数百万人の規模でイスラム教徒の“ウイグル人”を再教育施設という場所に収容している。宗教の信仰と文化的な帰属意識を失わせようとしている」と厳しく指弾した。(NHKニュース7月27日

(ところでNHKは「ウイグル族」の呼称を使っているが、すべて「ウイグル人」に置き換える。以下同じ。NHKといえば、7月19日夜のBS番組「国際報道2018」で「中国ウイグル“人”大量拘束の実態」という特集を放送。日頃、中国べったりのNHKにしては、正面からこの問題に向き合い、かなり掘り下げた報道を展開していた。放送内容は以下の番組URLで確認できる)(https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2018/07/0719.html)

米共和党のマルコ・ルビオ上院議員は8月3日、自身のTwitter に「中国は新疆の何十万ものウイグル人が強制収容キャンプに投獄し、“民族浄化”政策を進めている。こうした非道がまかり通るのも、これまで国際社会が沈黙してきたからだ」と書き込んだ。まさに「民族浄化(ethnic cleansing)」という言葉を使って、中国政府の非道を非難したのである。

China is carrying out an ethnic cleansing campaign. Hundreds of thousands of Uighurs in Xinjiang region have been imprisoned in camps. It is an additional outrage that so far the reaction of the “international community” has largely been silence.

そのマルコ・ルビオ上院議員が委員長を務める「中国に関する議会・政府委員会」(CECC=Congressional-Executive Commission on China)は7月26日、 「監視、抑圧、大量拘束:新疆における人権の危機」(Surveillance, Suppression, and Mass Detention: Xinjiang’s Human Rights Crisis)と題した公聴会を開いた。

ルビオ氏はその開会のあいさつで「ウイグル人やイスラム教徒の少数民族に対する勝手気ままな拘束を、地元政府の役人は『腫瘍を根絶する』、あるいは『雑草を排除するために除草剤を散布する』などといった政治的レトリックを使って正当化している。こうした新疆ウイグルの実情は、『かつての南アフリカのアパルトヘイトに匹敵する人種差別政策と、北朝鮮にも勝る警察国家体制を特徴としている』という専門家もいる」と述べ、新疆ウイグルでの強制収容所での弾圧の実態や人権侵害の具体例を列挙して非難した。

ルビオ上院議員は「新疆の人権侵害は、アメリカの利益にも直結している」とも指摘している。その分かりやすいケースが、米国政府が運営する国際放送RFAラジオフリーアジアやVOAに雇われた何人ものウイグル人ジャーナリストの家族が次々に拘束され、行方不明になっていることだ。ある女性ジャーナリストの場合、ウイグルにいる親戚家族23人が次々拘束され、その後の消息がいっさい分からなくなっているという。公聴会では、実際にRFAのウイグル人ジャーナリストが証言に立っている。

米国務省がこの8月に発表した「信仰の自由に関する国際報告書2017」では、「アメリカの国務長官や大使、大使館や総領事館の代表は、繰り返し、宗教の自由の侵害について、あらゆる機会を通じて繰り返し、公式に懸念を表明してきた。8月15日、ポンペイオ国務長官は「中国では、宗教的信念を実践する数万人もの人々を拷問し、拘束し、投獄している」と非難した。信仰の(自由に関する国際報告書International Religious Freedom Report for 2017

また国連特別代表のケリー大使も米議会公聴会で、「私たちは中国に対して、このような逆効果な政策を中止し、理由もなく拘束された人々を解放するよう呼びかけている」と証言している。

<強制収容者は300万人に及ぶ>

さらに、8月13日、スイス・ジュネーブで開かれた国連の人種差別撤廃委員会では、中国の人権状況に関する報告が審査された。そのなかで報告者のゲイ・マクドゥーガル氏は、「『宗教過激主義』と戦い、『社会の安定』を確保するという名目の下で、中国共産党政府は、新疆ウイグル自治区を「人権のない地域」(no rights zone)として扱い、自治区全体を大規模な収容所キャンプに変容させようとしている。イスラム教徒であるウイグル人は民族的宗教的アイデンティティーを認められることなく、あたかも『国家の敵』(enemies of the State)であるかのような扱いを受けている」と指摘した上で、「100万人を超えるウイグル人とその他トルコ系イスラム教徒(カザフ人、キルギス人、タジク人)の人たちが、いわゆる「過激主義防止センター」(counter-extremism centres)に収容されているほか、さらに200万人もの人々が政治・文化を教え込むためのいわゆる「再教育キャンプ」(re-education camps)に強制的に送り込まれている」とし、具体的な数字を挙げて弾圧・迫害の実態を訴えた。さらに「すべての拘束者は一切の弁護なしに、裁判で争うこともなく処罰され、彼らの拘束についてその法的根拠がいっさい明らかにされないなど、そのすべてのプロセスにおいて基本的人権が侵害されている」と指摘し、中国の対応を厳しく非難した。

マクドゥーガル氏はここで100万人、200万人という具体的な数字をあげ、あわせて300万人にのぼる人々が「再教育キャンプ」など何らかの収容施設に入れられていることを明らかにした。同じころ。東京では民間団体主催のフォーラム(「呉竹会アジアフォーラム」8月12日中野サンプラザ)が開かれ、日本ウイグル連盟会長のトゥール・ムハメット氏が「東トルキスタン(新疆ウイグル)ではウイグル人など300万人がナチス型の強制収容所に拘束され迫害されている」と訴えた。

ことし2018年初めには、新疆ウイグルで拘束された人数は、100万人とか89万人とか言われてきた。それが、ジュネーブと東京で、時を同じくして、同じ300万人という数字が報告されたことは注目される。それだけウイグル人に対する弾圧が拡大していることを意味している。

さらにトゥール・ムハメット氏の報告で驚かされたのは、いくつかの強制収容所には、電気式の焼却施設が作られ、死体が密かに焼却処分されていると報告したことである。これが真実なら、ナチスによるユダヤ人収容所アウシュビッツと何ら変わらない、悪魔の所業ということになる。トゥール・ムハメット氏は「中国共産党政権の体質として、政治運動で迫害する対象を決めると、達成目標やノルマを決めて実行する。反右派闘争や文化大革命、文革の際のモンゴル人迫害も人口の10%という目標を立てていた。今回、ウイグル人に対する民族浄化は、300万人を収容し、そのうちの10%、30万人の殺害を計画しているとしてもおかしくない」と訴える。

<拡大・増強される収容所施設>

新疆ウイグルに外国メディアが入り、現場を取材するのは極めて難しいといわれるが、米メディアのウォールストリート・ジャーナルは最近、ウイグル問題でしばしばリポートや社説を掲載している。8月17日の記事(ウォールストリート・ジャーナル記事18/8/17)では、新疆南部カシュガルの郊外にある強制収容所を、それぞれ去年4月と今年8月に撮影したの2枚の衛星写真を比較し、その敷地が2倍あまりに拡大されていることを明らかにした。ウォールストリート・ジャーナルの記者は去年11月にも、この収容所を現地で取材しているそうだが、その時にはなかった施設が、衛星写真でははっきりと捉えられている。収容所の周囲は高さ4.5メートルの高い塀に囲まれ、塀の上は有刺鉄線が張られている。衛星写真では、収容所のなかの建物も5棟から13棟に増え、塀の外周にそって一定間隔で監視塔が設置されていることがわかる。

ドイツのウイグル問題研究者アドリアン・ツェンツ氏によると、新疆ウイグルにはこうした施設は1300以上にのぼり、新たに建設あるいは確保する計画のものがほかに78か所あるという。

こららの施設は、鉄条網を張り巡らし、爆弾にも耐えられる頑丈な屋根やドア、警備室などで要塞化されている。警備の職員による日常的な拷問、劣悪な医療や治療拒否、独房での監禁、睡眠の妨害、気温が低い冬でも十分な衣服を与えない、などさまざまな虐待が繰り返され、命を失う収容者も出ている。

そこでは中国語の学習を強要され、中国や新疆での法律や規則の条文を暗唱させられ、政府支持のプロパガンダビデオを見せられる。共産党と習近平総書記に感謝の意を表明することを迫られ、民族的アイデンティティや宗教的信念を捨て、イスラム教徒としての文化的宗教的実践の放棄を宣誓させられる。

元収容者の証言によると、収容所に拘束される人の多くは、海外旅行をした、国外にいる親族と連絡をとった、スマートフォンにチャットアプリがあることなど、法律的には何の問題にもならない理由がほとんどだという。国外にいるウイグル人の証言でも、親戚の多くが海外と連絡をとったというだけで拘束され、しかもその多くが政治活動を行う恐れなどない年老いた家族だった。一度収容所に入れられると、その後はいっさい連絡がとれず、消息もまったく分からなくなる。高齢者の場合、収容中に死亡するケースも多いが、その場合、遺体が戻されることはないという。また回復の見込みがないことを見越して出所させ、その直後に死亡するケースも相次いでいるといわれる。「再教育センター」はブラックホールと同じで「一度入ったら、出られない」とも言われる。

収容所内の中国語の看板には「党の親切を思い、党の言葉に信じ、党の指導に従う」という標語が掲げられている。収容所の中国人職員からは、「宗教なんかどうでもいい。お前はなぜ宗教なんか信じるのか?神なんかいないのに」と尋問されたという証言もある。政治教育では「共産党がなければ新中国はなかった」という歌を歌わされ、「アラーの神に感謝するより、習近平に感謝しろ」と強要されたという。

トルファン市内の再教育センターに収容された経験をもつウイグル人男性の話によると、この男性は海外にいたとき、トルファン警察から電話があり、「帰国しないと家族がトラブルに巻き込まれるぞ」と脅迫された。帰国するとすぐに拘束され、トルファン郊外の再教育センターに入れられた。施設のなかでは何日も拷問を受け、手足を椅子に縛れたまま9時間も座らされたことがある。毎朝5時に起床し、45分のランニングをのあと、「共産党好(ハオ)」などと叫ばされ、4時間の再教育を受けた。お祈りやコーランの携帯、ラマダン月に断食することを禁じられ、イスラム教徒にとっては禁忌の豚肉を食べるよう強要されたと証言する。

拘束者に正当な手続きの説明はなく家族との接触も認められず、拘束期間も数か月から期限の定めのないものまでさまざまなケースがある。すべての拘束者はそのプロセスで権利は侵害され、彼らの拘束に関して法的根拠を争ったり、裁判で弁護するチャンスも与えられていない。

中国の人権問題を扱うNGO(中国人権防衛)が公表した分析によると、去年中国で逮捕された人の21%は新疆地区の人で、前年に比べ7.3倍にも増えている。しかも、この数字には法律的な根拠もなく拘束された「再教育センター」の収容者は含まれていないのだという。

<国際問題化する人権侵害・民族迫害>

米議会の公聴会や国連人権委員会で指摘された新疆ウイグルでのウイグル人に対する迫害と人権弾圧の実態を改めてまとめておきたい。

ウイグル人やイスラム教徒に対する規制・圧力を高めるため、新疆ウイグルでは新しい法律や規則が次々につくられた。新たに制定された規制・規則は、2015年制定の国家安全法、2016年制定の反テロ法、2017年4月制定の「過激主義防止法」やサイバーセキュリティ法、2018年2月の宗教事務規制法などがある。しかし、どれもテロリズムや過激主義についての定義が曖昧で、いかにも解釈でき、結果的に乱用や恣意的な運用、差別的な処罰や有罪判決を許している。

中国の最高検察庁と最高人民法院は、2016年11月、過激主義の服装を強要する行為を有罪とすると規定した。具体的にどんな衣服やデザインが過激と認定されるのか、具体的な指示はない。長いスカートや身丈の長いシャツを着ているウイグル人女性が街を歩いていると、安全監視員の女性にいきなり呼び止められ、その場で強制的にスカートをハサミで切られ、丈を短くする行為が公然と行われているという報道が最近あったばかりである。

ウルムチでは、女性が顔を覆うベールをかぶることや、男性が「極端な髭」を蓄えることも禁止されている。また政府の建物内での宗教活動が禁止され、宗教活動を組織したり、活動への参加を勧誘したりした組織や個人は罰せられることになった。9年間の義務教育が終了するまでは、学校外での宗教教育を受けることも禁止されている。子供を私塾で学ばせることも禁止されている。

また2018年2月には、イスラムやキリスト教、仏教などの26の宗教活動を違法と認定し、4月1日から運用が始まった。これによって宗教活動へのさまざまな制限が高まり、たとえば政府の事前の許可がないかぎり宗教学習の教室は持てない。おなじく政府の許可がないといかなる宗教グループも宗教活動や布教活動、改宗、牧師の任命などはできない。当局の認可がなければ宗教出版物や視聴覚教材の編集、翻訳、出版、配布、販売などもできなくなった。また宗教グループのメンバーが海外旅行をする場合は許可制となり、「外部勢力の支配」をうけることが禁止された。

イスラム教徒としてごく一般的な行為や表現、例えば日常的な挨拶やハラル認定された食品の所持、ひげを蓄えたり、顔を覆うスカーフの着用なども、刑事犯罪と見なされる。たとえば国営テレビの視聴を拒否する、半ズボンを穿くことを拒否する、酒やたばこを忌避する、豚肉を食べることを拒否する、ラマダン月に断食をする、伝統的な葬儀の方法に従うなどは、過激な宗教的な考えをもっている証拠だと見なされるという。

親が自分の子供にムハンマド、イスラム、ファティマ、アイシャなど、伝統的なイスラム教徒の名前をつけることも禁止され、イスラム名を持っている16歳以下の子供は当局から名前を変えるよう要求されたという。

特に憂慮されるのは、若い人たちにイスラム教を教えることは、それが親であっても、犯罪であるとされ、処罰されることだ。次の世代である子供たちにムスリムの経典や儀式を教えることができないということは、ムスリムの伝統や文化はやがてこの地から消滅することを意味する。そもそも小中学校や大学の授業で、ウイグル語やその他の民族言語を使うことは禁止されている。新疆ウイグルでは、住民に対する「無宗教化」と「中国化」が強権的に進められ、民族浄化とイスラムの伝統と文化の排除が進められているのである。

<最先端技術を駆使した超監視社会>

ウイグルのイスラム教徒やチベットの仏教信者は、雇用や住居、就業のチャンスなどで深刻な社会的な差別を受けている。新疆ではウイグル人と漢族の緊張が続いている。一方、ウイグル人に対する監視、警備は最新のIT技術を使って高度化・ハイテク化されている。デジタルデータを駆使して住民の行動を監視するシステムでは、数千万台の監視カメラが作動し、顔認証技術で瞬時に個人を識別する。住民の健康診断を装った「新疆広域健康キャンペーン」の一部として、強制的に血液型やDNAサンプル、3D立体画像、虹彩や声紋などの生体データが収集されている。声紋データを集めることで電話の話し相手が識別できる。スマートフォーンのなかの暗号化されたチャットアプリを検出するための携帯装置を警察官は持ち歩き、スマートフォンの中身をモニターできるアプリを強制的にインストールされる。車にはGPS装置をつけられ、常時、行動が監視される。

「便民警務站」(convenience police stations)と称する「交番」が数百メートルごとに設置され、住民に身分証の提示を求め、手荷物を検査するチェックポイントが街のいたるところにある。新疆ウイグル全体が「青空監獄」だといわれるほどだ。

漢人の党員が「ホームステイ」と称して、ウイグル人の住民の家の中まで入り込んで生活を監視し、中国化を促す。生体データの収集や携帯電話の通話監視は、個人の内面にまで踏み込み、人権を無視した監視システムである。

ウォールストリートジャーナルは「ウイグル人への弾圧を世界は注視すべきだ」と題した社説(8月13日)で、「中国の最高指導者・習近平は、毛沢東以降みられなかったプロパガンダ戦術、監視、拘束といった手段を駆使してウイグル人を弾圧している。中国の警察は、まず新疆(ウイグル自治区)で新技術や監視技術を試験的に導入し、その後、こうした技術を全国的に展開しようとしている。組織的なウイグル人弾圧は、習政権の本質をあらわにしている」と訴えた。

これほど強権的で人道に反した警察監視国家の出現を、国際社会が許すことは決してあってはならない。