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とある冒険者の手記

V.青い花

2023.08.31 23:37

星5月1日。

ヴァルはキッチンに篭っていた。

家主でありパートナーのガウラは、気分転換と称してラベンダーベッド内を散歩しに行っていて不在。

ガウラは今日が何の日かすっかり忘れているらしく、いつもと変わらなかった。

自身の誕生日すら忘れるほど、自分に無関心な彼女。

内心苦笑いしながら、ヴァルは料理を作っていた。

出来上がったのは豪華な料理の数々。

以前作った時に、ガウラの反応が良かったものばかりである。

中には、彼女の好物であるアップルパイもある。

そこにタイミングよくガウラが帰宅した。


「ただいま」

「おかえり」

「な、なんだい?この豪華な料理は?」


料理を見て驚くガウラに、小さく笑うヴァル。

この料理を見ても、思い出さないのが面白くて仕方ない。


「さぁ?なんだろうな?」

「え……ヴァルの誕生日は、たしか来月だったろ?私の誕生日も来月だし……星5月……なにかあったっけ?」


懸命に思い出そうとしているガウラ。


「思いつかないってことは、ガウラにとっては、そんなに重要じゃないって事だ。気にせず昼食にしよう」

「え……あ、うん……」


なんだかモヤモヤしてるような表情のまま席に着く彼女。

そんな表情すら、ヴァルにとっては可愛くて仕方がない。

そのまま食事を始め、食後にはアップルパイを切り分けて食べた。

食べてる間に、ガウラの顔は普段の表情になっていった。

そして、ヴァルが片付けをしてる間に、ガウラはシャワーを浴びに行く。

その数分後にガウラはバタバタとシャワー室からヴァルの元へ走って戻ってきた。


「ヴァルっ!!」

「どうした?」


片付けの手を止め、ガウラの方を見る。

脱ぎかけだったのだろう、シャツの胸元がはだけている。

その胸元には、エターナルリングを通したネックレスが光っている。


「今日!エタバン!記念日!」

「あぁ、気がついたか?」

「言えよ!」

「いや、あまりにも普通に過ごしてるもんだから、逆に面白くなってしまってな」


笑いながら答えるヴァル。

恐らく、服を脱ごうとした時に指輪を確認して気がついたのだろう。

すると、ガウラはシャツのボタンを閉め、「出かけてくる!」と言って家を出て行った。

ガウラの急な行動に一瞬驚いたが、ヴァルは直ぐに小さく笑い、そのまま片付けを再開したのだった。

片付けが終わり、次第と日は傾き、夕刻。

夕飯の支度をしていると「ただいま!」とガウラが帰宅した。


「おかえr……っ!?」


帰って来たガウラの手には、青いバラをメインにした花束。

その花束をガウラはヴァルに差し出した。


「ヴァルにピッタリだと思って、選んできた」

「あ、あぁ、ありがとう」

「ヴァルは、花言葉とか詳しいかい?」

「いや、全く」

「このバラの花言葉は1度変わってるんだ」

「変わってる?」

「あぁ、青いバラってのは自然に咲かない。作ることが出来ないと言われてて、その時の花言葉は不可能だったんだ」


ヴァルは花束を受け取りながら、ガウラの話を黙って聞く。


「でも、色々と技術が確立されて、青いバラが完成した時に花言葉が変わったんだ」

「不可能から、何に変わったんだ?」

「…夢叶う、奇跡。ヴァルの今まで生きてきた人生を考えたらピッタリじゃないか?不可能だと思っていた事が、今は覆って夢叶ってる」

「確かにな」


ヴァルは、受け取った青いバラを見る。


「まぁ、その、なんだ。あっという間の1年だったな。これからも…よろしく…」


少し照れくさそうに顔を背けて言うガウラ。

ヴァルは至福の笑みを浮かべた。


「素敵なプレゼントをありがとう。こちらこそ、よろしく」


2人はそこで「ふふっ」と笑うと、エターナルバンド·アニバーサリーの予約をいつにするかを話し合い始めたのだった。