亀は意外と速く泳ぐ
亀は意外と速く泳ぐ
2005年7月26日 テアトル新宿にて
(2005年:日本:90分:監督 三木聡)
「100人中50人がすごくつまらない、50人がすごくおもしろいっていうのがやっぱり理想的。100人中80人が面白いといったら疑問を感じちゃう」・・・・というのが三木聡監督のスタンス。
それは十分納得です。
どうでもいいようなことの連続、小ネタの連続、意味不明の行動、言動の数々、あまりこだわっていない映像。脱力ものの会話の数々。
「なにがおもしろいのかさっぱりわからない」
本格的な映画を観て評論致す!と意気込む人には向かないでしょうね・・・・むしろ、反感を持ってしまった人の方が監督の意図する観客なのかもしれません。
もうもう、意気込んで映画を深読みしようとする人であればあるほど、この映画の「罠」にはまりますね。
私は、そんな罠にはまってしまう人々を、ふぇっふぇっふぇっ・・・と思うだけであります。全体的にのどかで脱力映画なんですけど、四角四面にしか考えられない人へのシニカルな視線というのを所々感じてしまうのでした。
意外とあとに残るもの・・・切なさもありますし。
ヒマな主婦、スズメ(上野樹里)。働く必要もなく、旦那さんは海外出張中、なにも困ることはない・・・うらやましいような生活ですが、反面、スズメはやることがない退屈というものを常に持っています。あれ~自分って周りからは見えていないんじゃないのかなぁ~安定はあるけれども充実はないのです。
反面、スズメの幼なじみのクジャク(蒼井優)は、子供の頃からスケールの大きい事をしてみせる・・・ライバルというよりスズメとクジャクはお互い幼なじみなんだけど、お互いを信用していないし、どちらも「自分の相手じゃない」と思っている女の毒があります。
クジャクのスケールの大きさっていうのが、なんだかとっても意味不明のスケールの大きさですが、「中学のカバンに貼るシールのセンスが人生のセンスだったりするのだ」というトリビア的な発想に思わず、なるほど・・・などと思ってしまいました。
しかし、5ミリの大きさの「スパイ募集」の張り紙に気づいてしまったスズメは、スパイ活動をしているクギタニシズオ、エツコ(岩松了とふせえり)夫婦との出会いにより、はい、あなたスパイ決定。
スパイというのは「潜伏」つまり「平凡に普通に暮らす」「目立たない」ということ・・・・しかし意図して「目立たず普通にそこそこに暮らす」と指示されてみるとなかなか難しいものです。自己主張が強くて、目立つこと(それをポジティブ思考と考える)風潮の逆をいく、「そこそこ思考」・・・細かいネタの繰り返し。
そういう所に目が行く人の作った映画です。「そこそこ」って難しいですよ。
小ネタの連発なのでいちいち書ききれないし、別に書いてもネタばれにもなんにもならないのですけれど、さすが、シティ・ボーイズ・ライブの演出、数々のテレビ番組の構成をやってきた監督です。
『イン・ザ・プール』は、登場人物がくっきりしていたのですけれど、この映画は出てくる人が脇役にいたるまで小粒に光っています。
光っているっていうより、ぬるぬるしてる・・・ぬるぬるって気持ちいいよね・・・うん・・・という豆腐屋さんと最中屋さんの会話のよう。
実は、普通を演じている上野樹里や蒼井優は美少女とも言えるのですけれど、「綺麗でしょう~」という力みが全くなくて、他の人々も観ている間は本当に普通の人に見えるけれど、通して観るとみんな、変。それが現実なのかなぁ、なんて、縁側に座って「コーヒーもお茶もないからお湯飲みながら、ニコニコ~~~」の世界、とても独特な世界を作り上げています。