彼女を信じないでください
彼女を信じないでください
Too Beautiful to Lie
2005年6月16日 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズにて
(2004年:韓国:115分:監督 ペ・ヒョンジュン)
この映画が、他の韓国映画の「彼女もの」と一線を画しているのは、ずばり田舎映画だからです。
また、英語タイトルよりも、『彼女を信じないでください』という日本語タイトルの方が、内容に合った、気の利いたタイトルでもあります。
ソウルから電車で何時間もかかるカンドンという山に囲まれた町。このカンドンという田舎という設定がなければ、主役の「彼女」キム・ハヌルや彼女に捲き込まれてしまう「彼氏」カン・ドンウォンのどたばた騒ぎは起こりえないのです。
彼女、ジュ(キム・ハヌル)はプロの女詐欺師という事ですが、映画の冒頭は刑務所に服役している所から始まります。
・・・ということは、ジュは詐欺で警察につかまるドジを踏んでいるという事になり、何故刑務所に入ったかは説明がないのですが、その後のジュの嘘つきぶりは、見事ではあるのですがどことなく甘く、それがかわいらしさにつながっています。完全な悪女になりきれない詐欺師。
姉に会う為に列車に乗ったジュと向かい合わせになった青年、ヒチョル(カン・ドンウォン)が出会ってからが、あらあらの大騒ぎ。
ジュがヒチョルに会う為にヒチョルの実家のあるカンドンに行ったのも、別にヒチョルを騙そうという訳ではなく、成り行き上、なのですが、ここが狭い町。出会う人々、みんなヒチョルの関係者で、ちょっとした一言からどんどん嘘をついていかなければならない、彼女、ジュのあわてぶりもしっかり描かれています。
しかし「嘘をつくのは簡単さ」というヒチョルに、ジョが「何ですって?嘘は高度な頭脳ゲームよ。つじつまの合った語り、優れた記憶力と瞬発力が必要。時には創作の苦痛もあるのよ」と言い張るように、ヒチョルはその優れた嘘能力を発揮して町の人を味方につけてしまう。
真実を言っているのに「彼女を信じないでください!」と訴える、ヒチョル、逆にぼこすかぼこすか・・・・。
そこら辺の語りの上手さは、脚本の上手さがあるのでしょうが、ジョが「つじつまの合う、優れた記憶力と瞬発力」を発揮していく伏線のはり方がとても上手く、観ていて引き込まれるのと同時に感心していまいます。
もうひとつ、田舎らしいと思うのは、ヒチョルが、不本意ながら参加することになる「唐辛子祭り」のMr.唐辛子コンテストのくだり。
この祭りのノリが、すご~く田舎くさい、というかNHKののど自慢のノリそのもの。
しかしここでのハプニングのたたみかけ方は凄い。
唐辛子の生産で有名な町、というだけあって立派な生唐辛子がたくさん出てくるのですが、「唐辛子早食い競争・・・称してヒリヒリ競争」では、口いっぱいに生の青唐辛子ほおばって、目をまっ赤にして涙ボロボロ流して、鼻をふくらましてヒクヒクいっているカン・ドンウォンの顔のアップで「・・・本物食べてる」と思いました。生唐辛子っていうのはめちゃくちゃ辛いです(経験者)
お互い反発しあう2人がだんだんお互いを意識しあっていく・・・というラブコメディの定石ながら、その見せ方がとても独特で、ユーモラスなんです。ジョ役のキム・ハヌルの美人のような、そうでもないような、普通のような、でもスタイル抜群で、田舎のださい服装が妙に似合って周りにすんなりとけ込んじゃう表情、カン・ドンウォンは、ハンサムなんだけど、ちょっと田舎っぽくて、「かっこいいけど、すぐ「薬剤師」って言うし、イヤミな顔だよね」なんて言われてしまう、田舎出のインテリという雰囲気かわいいです。本当はカン・ドンウォン他、カンドンの人たちの喋る言葉は方言バリバリでそこのギャップも楽しいらしいのですが、そこは字幕ではわからないのが唯一、残念です。
この映画はとてもかわいらしくて、テンポもメリハリもはっきりしていて、結局悪人の出てこない世界。こういうスッキリした映画は観ていて気持ちいいです。