帰郷
帰郷
2005年6月29日 新宿武蔵野館にて
(2004年:日本:84分:監督 萩生田 宏治)
帰郷・・・なんてストレートで素直なタイトル。
まさに主人公の30前の東京でサラリーマンをしている晴男(西島秀俊)が、「再婚することになったので、結婚式します。母。」という葉書をいきなりもらって、帰郷する話です。
この冒頭のいきなり葉書で再婚??と初めて知るというだけで普段から晴男は母と会話がない事がわかります。
そして、地元に久々に帰ってみれば暖かい家庭というより、昔のまんまの友人(光石研)やちょっと浮かれている母、初めて会う義父・・・びっくりしてなじめず、居場所がない、落ち着かない気分の晴男。
この映画は全編、晴男の姿を追います。このとき、別の所では・・・という展開は一切ありません。
晴男が、かつてつきあった事のある同級生、深雪(片岡礼子)と再会して、7歳の子供を連れて離婚して戻ってきた・・・子供は7歳。つきあったのは8年前・・・おもわせぶりな言葉を言って、チハルという女の子を残して失踪。
母を探すチハルと行動を共にする内に、晴男の中では、いやおうなく「父性」が目覚めてしまう。
このチハルが『ニワトリははだしだ!』の妹をやった守山玲愛。ちょっと見ない内に大きくなっちゃって・・・かなり生意気で純粋で、強がりで寂しがりやで楽天家です。
朴訥を絵に描いたような晴男は、当然ながらそんなチハルに振り回される。その姿をカメラは追います。バスに乗って、海辺に出て、町に戻って・・・「自分の子供なのかなぁ」という確信を持てないながら情けないような、いつも虚をつかれたような、棒を飲んだような、表情で戸惑いながらも、自然とチハルを「父」として見るようになる。この西島秀俊のなんだか、唖然としたような、困ったような表情がとてもいいです。
いい人なんだけど、あまり面白みもなくて、仕事もあるし一応、生活はしているけど、あまり友人と遊んだり、はしゃいだりできない暗さを持っている雰囲気。全編、西島秀俊の映画なんて私には瞳の快楽。いいなぁ、この朴訥さ。冗談は言えないけれど、嘘もつけない、というお人柄。
この映画がロケされたのは千葉県の白浜あたり。房総半島の先端の方。私は千葉県なので、ここら辺は知っているのですが、チハルと晴男が訪れる「白浜フラワーパーク」なんて、本当に閑散としていてなにもないところを、本当になにもないところに撮っていて、この独特な閑散さって・・・・個人的には笑ってしまいました。
ここに出てくる家族って皆、不安定です。そんな不安定な現実を否定せずにありのままの姿に描いた監督の朴訥さ・・・が主人公晴男にだぶりました。プロデューサーと脚本が利重剛監督っていうのも、なんか雰囲気同じですねって納得です。