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紅く色づく季節

これが恋に落ちる瞬間

2023.09.14 04:49

【詳細】

比率:男1:女1

現代・ラブストーリー

時間:約7~8分


【あらすじ】

華の金曜日。

仕事帰りに居酒屋に寄った晃成と志乃。

心配するような飲み方をする志乃に苦言を呈する晃成だが……


【登場人物】

晃成:鈴木 晃成(すずき こうせい)

   社会人。志乃の先輩。


志乃:班目 志乃(まだらめ しの)

   社会人。晃成の後輩。




●居酒屋・夜

   半個室の部屋で二人で飲む晃成と志乃。


志乃:だから~、私、きっぱりと断ったんです!

   アンタみたいな男なんてこっちから願い下げだって!

晃成:そうかそうか、うんうん、えらいえらい

志乃:ちょっと! 先輩! ちゃんと聞いてます?

晃成:聞いてる聞いてる

志乃:本当ですか~

晃成:はいはい、こっちに身を乗り出さない。服汚れるかもしれないだろ?

志乃:ぶ~

晃成:とりあえず、ほれ、水

志乃:私は水じゃなくて、お酒がいいです

晃成:ダメです

志乃:なんでですか~!

晃成:なんでもなにも、この状況で更に酒を差し出す馬鹿がいるか

志乃:いますよ

晃成:どこに?

志乃:この前の合コンの人たちは、「もっと飲みな~」って、いっぱいすすめてくれました

晃成:馬鹿か。そんなのお持ちかえり目当ての男の発言だろうが

志乃:おぉ、先輩、よくわかりますね!

晃成:そんなん誰だってわかるだろ

志乃:え~? そうですか~?

晃成:そうだよ

志乃:そんなもんですかね~?

晃成:ほれ、そんなんどうだっていいから水を飲め

志乃:は~い


   志乃、水を飲む。


晃成:……お前さ

志乃:はい?

晃成:いつもこういう飲み方してんの?

志乃:こういうって?

晃成:限界まで飲むような飲み方してんのか?

志乃:してませんよ~? ってか、そもそも私強いんで

   意識飛ばすとかそういうのしないんで安心してください!

晃成:そういうところ心配してるんじゃなくて……

志乃:それに、私みたいな女、だ~れも手を出そうなんてしませんから

晃成:は?

志乃:贋物のがんちゃん

晃成:え?

志乃:私のあだ名です

晃成:がんぶつ?

志乃:そう、贋作とか贋札とかって言葉あるじゃないですか。その贋と同じ贋の、贋物

   つまりは偽物って意味なんです

晃成:偽物?

志乃:先輩、私の下の名前知ってます?

晃成:あぁ

志乃:じゃあ、話しは早い!

   志乃って名前から聞いて思い浮かべる女性像ってどんな感じですか?

晃成:思い浮かべる……古風な名前だとは思うが……

志乃:おぉ、半分当たり!

晃成:半分?

志乃:『志乃』って聞くと、みんな、お淑やかでつつましくて、大和撫子みたいなそんな女性を想像するらしいんですよ

晃成:なるほど?

志乃:で、私はこんなんじゃないですか~

晃成:こんなんって……

志乃:みんな言うんですよね~

   「期待と違った」「しゃべらなければいいのに」「賑やかし担当だよね~」って

晃成:……

志乃:別にいいんですよ?

   私は、合コンが楽しい場になればって思って行ってるし、私が呼ばれてる理由もわかって行ってるんで

晃成:呼ばれてる理由?

志乃:私には誰も女性としての好意を持たないから

晃成:は?

志乃:ほら、私こんなんですから~

   人数に入れとけばライバル減るし、賑やかしになるし?

   とにかく一石二鳥な存在なんです

   まぁ、その分会費とかちょっとおまけしてもらってるんで全然いいんですけどね~

晃成:……

志乃:なので、贋物のがんちゃんって言われるんです。偽物の大和撫子的な?

   さっき言ってた奴も、「可愛いね」とか言ってきて、最終的にお持ち帰りしたいだけの馬鹿でしたし?

  「無理です」ってこと強めに言ったら「お前みたいなやつ、身体以外の目的で声なんてかけねぇよ」とか言って逃げてきましたし。そんなエピソードばっかですよ

晃成:……

志乃:ってなわけで、お水全部飲んだんで! 先輩お酒を……

晃成:……


   晃成、無言で志乃の隣に行く。


志乃:先輩? どうしたんですか? 急にこっちの席に来たりして……


   晃成、志乃の手を掴み壁へと押し付ける。


志乃:きゃっ! せ、先輩?

晃成:ほれ、振りほどいてみろ

志乃:え?

晃成:振りほどけないだろ?

志乃:ちょっ、先輩?

晃成:班目、お前は女の子なんだよ

志乃:え?

晃成:男には力じゃかなわないんだよ。酒が入ったら尚更な

志乃:そんなこと!

晃成:じゃあ、振りほどいてみろよ

志乃:くっ!

晃成:ほらな

志乃:……

晃成:だから、もうこんな飲み方するな

志乃:え?

晃成:ってか、合コンにも行くな。例え賑やかしであったとしても

志乃:いやいやいや。そんなの……

晃成:断れないなら、俺を使え

志乃:え?

晃成:……どうせ、お前は俺のことなんてただの先輩としか思ってないだろ。じゃなかったら、こんな飲み方しないもんな

志乃:え? え?

晃成:俺、なんとも思ってない奴に時間なんて使わないから

志乃:……

晃成:次、合コンに呼ばれたら、「鈴木先輩に誘われてて」って言っとけ

志乃:でも、それじゃあ、先輩にご迷惑が……

晃成:別にいい

志乃:え?

晃成:ってか、迷惑でもなんでもない。こっちからしたら好都合

志乃:好都合?

晃成:お前には俺がいるって他の奴らに周知できるからな

志乃:えぇ!

晃成:お前がそう思われるの嫌なら言わなくていいし、合コンにも参加したらいい

志乃:先輩……

晃成:この意味、分かるよな?


   晃成のスマホが鳴る。


晃成:……

志乃:せ、先輩? スマホ、鳴ってますよ?

晃成:(軽く舌打ちをする)

志乃:せ、先輩?

晃成:誰だよ、このタイミングで……おい、班目

志乃:はい!

晃成:俺が戻って来るまで勝手に酒飲むなよ

志乃:は、はい!

晃成:よし


   晃成、スマホを片手に席を立つ。


志乃:……び、びっくりした……でも、あのまま先輩に……って、なに考えてるの、私!



―幕―




2023.09.14 HP投稿

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