村の写真集
村の写真集
2005年5月12日 東京都写真美術館ホールにて
(2004年:日本:111分:監督 三原光尋)
職人気質で故郷、徳島で頑固に写真屋を営む男(藤竜也)と東京でカメラマンとして成功しようとあがいている息子(海東建)。
ダムで村が沈む前に、山村の一軒一軒の家族写真を撮る依頼から、離れていた父と子が、一緒に山道を歩くことになる。
山道をひたすら歩く父子というのは、中国映画『山の郵便配達』という秀作があるのですけれど、この映画では反発しあう、結局似たもの同士の父と子の葛藤が描かれます。
徳島県の山奥で、写真家、立木義浩氏が撮影を担当した写真が次々に出てくるというのが贅沢。
父は、車を使うことを拒否してひたすら歩く。
父は何も言ってくれない。
父は短気で頑固で、すぐに手がでる。
・・・・そんな父は、若者にとっては鬱陶しいだけでしょう。他人から見たら「いいお父さん」とか言われても家族にある距離というのは、微妙にずれているものなのです。
その辺のずれ加減の出し方がいいです。家族の中の距離映画。
明るい可愛い妹(宮地真緒)だけが、家族の中でほっとする空間。妹はあまり描かれませんが、それでも普通の甘やかされた子供とは違う、しっかりした物の見方をしているとわかります。
父と子の物語は比較的わかりやすいのですが、監督がアジアを旅しているときにこの映画の原案を思いついた、というように、視点は常に息子の迷いをごまかそうとする、見栄をはりたくても上手くいかないことにじれているという姿です。
写真というものを通して、自分の表現したいものは何か・・・それは映画では答えを出しません。しかし、父の代わりに写真を撮ってみて、自分の力不足を認めたとき、息子の道が開けたような気がします。
そして息子はアジアへと旅立つ。映画は多分、その先・・・・を見つめているのだと思います。