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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

現代芸術9-ウィーンの残照「薔薇の騎士」

2023.09.15 11:46

1911年1月26日、リヒャルト・シュトラウスの代表的オペラ「薔薇の騎士」が大成功のうちに初演された。このオペラは、サロメなどの前衛的手法から一転、モーツァルトやヨハン・シュトラウスなどのウィーンの伝統に戻り、それを高度化させたものである。しかも時代はマリア・テレジアの古き良き時代。

台本はホフマンスタールが書いた、このテーマは古き時代への別離と新しい出発である。元帥夫人は青年貴族と不倫関係にあるのだが、青年は結婚申込の薔薇の騎士役をさせられたことで、その結婚すべき若い女性に恋してしまい、元帥夫人は自分の時代は終わったと受け入れ、二人を結びつける。

このオペラのメインストーリーは簡単だが、モーツァルトの「フィガロの結婚」のようなドタバタ喜劇になっており、ウィーン風の優雅な音楽がつなぐ3時間21分の長さである。長いのでシーンだけが管弦楽と声楽で演奏されることも多い。

当時のオーストリア帝国は、海外植民地もなく、まさに老帝国だったが、ウィーンを中心に新進の文化が花開いた。このまま文化大国になればよかったところ、皇帝フランツヨーゼフ1世は過去の栄光に捕らわれ、バルカンという小さな地域の領土獲得にのめりこんで、帝国を崩壊させる。潔く美しく老いるのは現実世界では並大抵のことではないようだ。