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祝島はいま 〜原発と海をめぐって〜

2013.07.25 15:00

現地の状況について次のような報告がありましたのでお知らせいたします。

* * *

「埋め立ては認めないと選挙のとき言ったのに、なぜ知事は(埋め立て免許の失効を)先延ばししたんですか」。2013年3月4日。山口県議会に、県内の祝島から来た女性の声が響いた。中国電力(中電)が上関に原発をつくるための埋め立てについて、山本繁太郎知事の答弁がはじまり、傍聴席が騒然となっていた。「休廷します」と議長が宣言。「逃げるな!」「選挙のとき、埋め立てを認めませんと言うたでしょうが!」「それで当選したんじゃろうが!」と傍聴席から声が飛ぶなか、知事は退席した。

この埋め立て免許をめぐっては、08年10月、当時の二井関成(にい せきなり)知事が中電に免許を出した。だが埋め立て工事は周辺の祝島などの人びとの抗議で進捗しないまま、11年3月に東京電力の福島第一原発事故を受けて中断。6月議会で、延長許可の申請があっても認めない方針を二井知事が表明した。昨夏の選挙で任期を得た山本知事も当初、「前知事の法的整理を引きつぐ」と免許の延長を認めない方針を示していた。延長の申請があっても「認めることはできない」と、昨年9月にも答弁している。

それでも中電は昨年10月、免許が失効する前日に延長を申請。県はそれを受理した。行政処分の目安として県が定める標準処理期間は32日。だが県が中電に補足説明を4回も求め、4カ月以上すぎた。県へ回答が届くまでの日数はカウントしないからだ。

13年2月7日には、県内の市民団体が県知事に申し入れをした。「上関原発計画予定地の公有水面埋立について直ちに不許可とすること」、中電からの延長申請について県が中電に求めた補足説明について「内容の詳細を明らかにすること」。

県の回答は、第一に、審査過程で「申請内容に不明な点があったため補足説明の照会を」しており「公有水面埋立法にもとづき適正に審査」したい、というもの。第二に、「補足説明を求めた内容には法人の不利益情報も含まれ、示すことはできない」という内容だった。後者については後日、情報公開請求により開示されたが「一文も残さず黒塗り」の文書である。

13年3月4日は、間延びさせた「標準処理期間」さえ満了し数日たっていた。20分間の休廷を解くベルが鳴り、山本知事が答弁を再開する。「今後も審査を継続し、上関原発の位置づけが形式的にみれば実質的になんら変わらないことについて、事業者に対して、一年程度を期限に更に補足説明を求める」。ふたたび騒然となった。5回目の補足説明を求めるうえ、回答期限は1年。期限切れの埋め立て免許が、あと1年も失効しないのだ。「公約違反!」と傍聴席から怒声があがった。

この日、早朝から船とバスを乗りつぎ県議会の傍聴に駆けつけた祝島の人びとは、晩には祝島の公民館に集まった。漁業補償金のことでも動きがあったからである。

00年4月27日、中電と当時の共107共同漁業権管理委員会などは、上関原発の建設と運転に伴う漁業補償について契約書を交わした。この管理委員会は、上関の原発予定地の周辺にある8漁協(当時)が構成し、旧祝島漁協はそのひとつ。翌5月、総額約125億円の補償金のうち半額が支払われた。祝島漁協(当時)は受けとりを拒否。祝島分の約5億4千万円は、この管理委員会が法務局に供託した。

残りの半額が支払われたのは08年、県知事が公有水面埋立免許を出した直後である。祝島漁協は合併して山口県漁協の祝島支店になっていた。祝島支店が受けとりを拒んだこの約5億4千万円は、県漁協が仮受けした。

00年に供託された5億4千万円は、10年5月半ばまでに受けとらないと国庫に収納されるという。それを取りもどすか否か、祝島支店の組合員たちは採決を迫られた。09年2月は無記名投票の結果35対33で、翌10年1月は挙手投票の結果43対23で、取りもどさないと決議される。

ところが県漁協は10年5月、この5億4千万円を払いわたす手続きを勝手に行った。08年の第2回支払い時に仮受けした5億4千万円と合わせ祝島分の漁業補償金約10億8千万円を全額、県漁協が「預かる」ことになる。

12年2月、祝島支店の組合員集会が開かれた。漁業補償金の受けとりについて3回目の採決である。こんどは10億8千万円全額について、受けとる意思があるか、という。組合員たちは議長を選ぶ段階から揉めながらも、挙手採決の結果40対17で受けとりを拒否。「祝島支店では補償金を二度と議題にしない」という緊急動議も議決した。

にもかかわらず13年2月28日、県漁協本店は議案「漁業補償金について」の総会の部会を祝島で開催したのである。

冒頭、「補償金を受けとるか受けとらないか、環境の変化にともない再度お聞きするため」総会の部会を開催すると、県漁協は説明したという。「環境の変化」は3つ。まず、水揚げが減り組合員の生活が厳しくなっている支店や社会の状況である。支店の赤字は組合員が分担して負担する。一人あたり昨年度は8万円台だったが今年度は13万円を超す見込みとされた。

さらに、祝島分の漁業補償金を県漁協が仮受けして3億円以上の法人税を納めたことを「立て替え」とし、祝島支店の組合員に補償金が分配されるとき「10億円戻ってくるか、(分配までの期間が)長くなるほど不安」なこと、「立替金という仮勘定にある金は一定の期間内に処理するように」と県漁協が会計監査の指摘を受けたことを挙げた。

組合員から疑問が相次ぐも、それを遮って議長が選出され、無記名投票の結果21対31で、補償金の受けとりを拒む声が認める声を初めて下回った。県漁協本店はこれをもって、祝島支店が上関原発の建設に伴う漁業補償金の受けとりを承諾した、とした。果たしてそうか?

まず、議決に必要な数(可決割合)に疑問がある。この日、「議決に必要なのは半分以上か3分の2以上か」と問う組合員に、県漁協の仁保宣誠専務理事は「私は基本的には『半分』と思っている」と応え、過半数(27以上)ではあるが3分の2(35)には満たぬ票数をもって「補償金の受取りが議決された」とした。

だが山口県漁協の定款によれば、この漁業補償金については「3分の2以上の多数による議決」が必要とされる「特定区画漁業権若しくは共同漁協権又はこれらに関する物件の設定、得喪又は変更」(第46条2の3)にあたる、と上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表は言う。たとえば前述した8漁協(当時)のうち平生などでも、漁業補償金について議決に必要な数は3分の2以上だったというのだ。

また、議長の選出方法も疑問だ。仁保専務理事はこの日、議場から「挙手で」と声があがっていながら、議長の選任方法は「執行者で決める」として無記名投票で議長を選出したと聞く。だが清水代表によれば、県漁協の規約には「招集者は… 議長の選任方法を議場にはかり、議長を選任」(第8条)とあり、招集者が決めるとの定めはない。

13年3月。人口約460人の祝島で、漁業補償金に関する議決権をもつ漁協の正組合員は53人。「漁師だけの問題じゃない」という声も聞こえる。16日、祝島支店の正組合員31人と准組合員8人が、この漁業補償金は受けとらないと1人1枚の書面に意思を記したうえで署名捺印。22日にこの39名の代表3人が下関市にある県漁協本店を訪れ、それを提出した。

しかし県漁協はこの6月、「漁業補償金配分基準(案)について」との議題で6月21日に祝島支店で総会の部会を開くと通知してきた。10億円を超える漁業補償金の配分基準案が、配分委員会をつくって検討することもなく、いきなり出来てきたのである。「原発つくらせんために30年みんなで頑張ってきたのに、自分だけ銭をもらってどうなろう」「漁師だけの海じゃないんじゃけぇ」。祝島の人びとは発奮し奔走した。すると県漁協は前日の夕方になって荒天を理由に延期を通知、今後の開催日はおって知らせるという。

7月3日、先述した祝島の漁協組合員39人は、延期中の総会の部会での決議方法や可決割合などについて問う文書を県漁協へ送付。1週間以内の回答を要請した。前政権の「原発ゼロ」を自民党の安倍政権が「ゼロベースで見直す」揺りもどしにも、祝島の人びとは一心に原発を拒みつづけている。「誰の海でなし。みんなの海なんじゃけぇ、守らんと。」もはや私たちも迷う余地はないはずだ。どんな揺りもどしも時計の針は戻せず、時代の波は止められないのだから。

(報告者:山秋真)

掲載先:日本カトリック正義と平和協議会ニューズレター『JP通信』No.181 (2013/7/25発行)