半歌仙「庵の月」の巻 連句解説 7
昨日の記事の続きです。
「古志」9月号掲載の半歌仙「庵の月」の巻の解説です。
第七、月の定座(じょうざ)です。
月の宴子規の病臥を取り囲み 嘉子
連句(歌仙、半歌仙)では、
生老病死、人生のあらゆる場面を詠みこむ必要があります。
ここは正岡子規の病床。
闘病の子規を励まそうという月の宴でしょうか。
触れれば消ゆる邯鄲の翅 りえこ
月の宴子規の病臥を取り囲み 嘉子
前句の翅の儚さにうまく付きつつ、
「月の宴」ということで、明るさもあり、
しっかりとメリハリができています。
発句が月の句でしたので、発句ともトーンを変えなくてはいけないのですが、
それもうまくいっていると思います。
続いて第八。
奈良の干柿誰の土産か 麻衣子
解説不要ではないでしょうか。
月の宴子規の病臥を取り囲み 嘉子
奈良の干柿誰の土産か 麻衣子
ベタ付けですが、よく付いています。
宴に参加している人の顔が見えてきます。
地名が出ていなかったので、それも補うことができました。
触れれば消ゆる邯鄲の翅 りえこ
月の宴子規の病臥を取り囲み 嘉子
奈良の干柿誰の土産か 麻衣子
「三句の渡り」ですが、
うまく離れることができました。
ベタ付けというと、とくに俳句の取り合わせでは悪いもののように扱われますが、
連句では、つまるところ「三句の渡り」で眺めたときにしっかり離れていればいいので、
状況によってベタ付けもうまく使っていくことが大事です。
なんでもかんでも離して付けてしまうと、
あとで読み返して、なんのことやらさっぱりわからない一巻になってしまいます。
第九です。
青空へ母と全段登りきる 政治
ご高齢のご母堂でしょう。
なんの階段を登りきったのかは明示されていません。
そこが大きなポイントです。
奈良の干柿誰の土産か 麻衣子
青空へ母と全段登りきる 政治
前句との関係性で読むと、奈良の古い寺社だろうというイメージが湧きます。
しかし、単独の句で読めば、介護の場面として、近所の階段などでもいいわけです。
そこで第十ですが、
ロボット猫も春に浮かれて 淳子
◯ラえもんを想起させます。ド◯ミちゃんかもしれません。
ここから花の定座、そして挙句(揚句)にむかって、
春の句に入るのですが、
ここでは春の浮かれた感じを出しています。
◯ラえもんはなんでも助けてくれるロボットですので、
この句が付くことで、
青空へ母と全段登りきる 政治
ロボット猫も春に浮かれて 淳子
介助してもらって、一緒に登ったような印象になりますね。
そして一緒によろこび浮かれているような感じです。
連句のおもしろさは、こういった付句によって、
前句の印象ががらっと変わるところにあります。
句と句の関係性を味わうという、俳句にはないおもしろさです。
次回、いよいよフィナーレを迎えます。
どうぞよき一日をお過ごしください。