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経絡治療からみた浮腫みの治療と病因病理

2018.08.29 13:27
症例

☑患者 母親。

☑主訴 足の浮腫み。

☑現病歴 昨日から歩き過ぎたのか膝から下が浮腫んでだるくて痛い。

☑足首を周径すると、右23.8㎝左23.5。

☑脉状診 浮いて広がっている。

☑経絡腹診 脾心虚、肝腎実、肺平。

☑奇経腹診 陰蹻脉、陽蹻脉。

☑比較脉診 脾心虚、肝腎実、肺平

☑証決定 脾虚証。

☑適応側 女性であること、病症に偏りがないこと、天枢診により右側とした。

☑本治法 右水泉を補う→右陰陵泉を補う→右曲沢を補う→胃経に浮いた虚性の邪を切経して最も邪が客している左豊隆から枯に応ずる補中の瀉法→左水泉を補う。

✅効果判定 浮いて広がっていた脉が引き締まる。足に弾力性が出る。足首の周径、右23.6左23.3。

☑補助療法 宮脇奇経治療。左照海-右列缺、右申脈-左後谿に主穴に10壮従穴に6壮で無熱灸。

✅効果判定 足首の周径、右23.3左23.0。

☑経過 だる痛みが和らぐ。

☑考察 歩きすぎたということを鵜呑みにするならば、久しく行けば筋を傷るで肝か、四肢を主る脾の変動である。

僕が尊敬するSekiKenji先生は、多紀元堅(江戸時代末期の幕府医官。幕府医学館考証派を代表する漢方医。)は、肝は罷極の本を四極(四肢)の本だという解釈を述べていると教えてくれました。

脾が主になるか肝が主になるかは、四診を総合的に判断していきます。

今回は脾虚本証で上手くいきました。

良くなってよかったです。


オカンいつもありがとう。


浮腫みの病因病理

摂取した水分は胃に納まり、消化されます。

身体にとって必要な水分と不必要な水分に泌別されます。

前者を「清」、後者を「濁」とします。

清は「津液」となってあらゆる細胞・組織・器官・臓腑経絡・四肢・百骸を潤し養い活動力を与えます。

濁は汗や小便となって体外に排泄されます。

この循環をスムーズに行う働きを「脾臓」とします。

脾臓が失調すると、水液の運化が滞ります。

流れているうちは津液として全身を巡りますが、滞ると「湿」と名を変えます。

生気を蝕む病理産物ですから「湿邪」とします。

また湿邪は蒸されると「痰」を形成しますので合わせて「湿痰」とします。

脾が失調すると湿痰によって浮腫みます。


脾胃の消化には陽気が要ります。

この陽気を命門の火とします。

脾胃が鍋で命門が竈(かまど)の火です。

竈の火力が十分だと鍋の具がよく煮炊きできるように、命門の火が十全であれば脾胃の消化を助けます。

この働きを「腎臓」とします。

腎臓は水臓です。

ではどうして熱源となり得るのでしょうか?

ここからは発生学のお勉強です。

男子の一滴の精が女子の子宮に凝る時、胎が生じます。

父の精はその子の精となります。

精は陰であり水です。

陰は沈降の性質を有しているので、精は下に降ります。

精を蔵す器が必要なので腎臓ができます。

精は水です。

腎臓は水で満たされます。

ただし水だけだと冷えてしまうので、元々陽気が具わっています。

水中の中の決して消えることのない火です。

これを命門の火とか、臍下腎間の陽気とします。

この陽気によって水中が適温に保たれ、生命活動の根元的エネルギーとなります。

聖典『難経』では、「五臓六腑の本、十二経脈の根、呼吸の門、三焦の原、一に守邪の神と名づく」とし、命門の火、臍下腎間の陽気は生気の原であると、医道の深奥に達しています。

腎が変動すると原気の別使でる三焦が巡らないため水液が停滞します。



肝は五行では木に属します。

木の性質は曲直です。

曲直とは屈曲と伸展です。

成長・昇発・条達の性質があります。

樹木が伸び伸びと枝葉を伸ばしていくように、気血を円滑で淀みなく隅々まで行き渡らせます。

これを「疏泄」とします。

四六時中目を凝らして適材適所に適量の気血を巡らしています。

これを「将軍の官謀慮出ず」とします。

肝将軍の疏泄による滋養と防衛は無意識に行われています。

これを「魂」とします。免疫機構です。

このような一連の働きを「肝臓」とします。

肝が十全であれば、気血を円滑に伸びやかに運行させることができるため、津液も淀みなく巡ることができます。

肝が変動して気が滞ると水も滞るので浮腫みます。


肺は五官を主ります。

五官とは視覚・臭覚・味覚・触覚・聴覚です。

これを「魄」とします。

肺魄によって外界の情報を取り入れます。

その最前線が体表の皮膚です。

腠理(そうり)です。

呼気によって、濁気を吐き出し、津液や衛気を全身に宣発し、肌膚を温め潤し、腠理を開闔(皮膚の収縮と弛緩)し、外邪に対する防衛的な役割をします。

また吸気によって、清気を吸い込み、五臓の最も高い位置から華蓋として、津液の運行を管理調節し、軌道を清潔に保ち、中焦~下焦へと津液を粛降させ、全身に散布します。

このような働きから「肺は水の上源」とします。

これらの働きを「肺臓」とします。

肺が変動すると、宣発が失調し、腠理の開闔がバカになり、防衛力が低下するので、外邪の侵襲を受け、上焦で津液が停滞します。

風邪を引くとおしっこが出にくくなるのはよく経験するところです。

あるいは粛降できないので上に溢れて顔が浮腫みます。


天空の太陽が地上の海面と大地を温めます。

温まった海面や大地に含まれる湧水が蒸発します。

蒸発した水蒸気が雲を作ります。

そして雨を降らします。

どこに降らすかは風のきまぐれです。

太陽は心です。

海面は腎です。

大地は脾です。

水蒸気は三焦です。

雲は肺です。

風は肝です。

心腎が交流しないと海面を蒸発させることができません。

脾が変動すると大地の保水力が低下します。

肺が変動すると雲ができないか乱発を招きます。

肝が変動すると風は吹かないか吹き荒れます。

その結果、

地上の水が上昇しないと下が水で溢れます。

手足が浮腫みます。

天空の水が下降しないと上に水が溢れます。

顔が浮腫みます。


治療

脾の変動は湿病、腎の変動は水気病、肝の変動は痛風歴節病、肺の変動は風水に分類されます。

また、圧痕がつくのは浮腫で脾腎の変動、圧痕がつかないのが水腫で肝の変動ということですが、絶対ではありません。


病機十九条に「諸湿腫満は皆脾に求む」とあるように、浮腫みの中心は脾の変動です。

つまり、

  1. 脾虚証(脾心の虚)
  2. 肺虚証(肺脾の虚)
  3. 肝虚脾実証(肝腎の虚、脾の実)
  4. 腎虚脾実証(腎肺の虚、脾の実)

が立つことになります。

どの証にせよ、合水穴を補います。

合水穴には、大根に塩をふると水が出てしなびれるのと同じ作用があります。

本治法の前に適応側の水泉を補い、本治法の後に非適応側の水泉を補います。

水泉は内踝尖と踵の後端を結んだ線上の陥凹部あるいは圧痛硬結に取ります。

奇経治療。

照海-列缺を単独で用いるか、照海-列缺+申脈-後谿です。

宮脇奇経腹診で鑑別すると便利です。

腎兪、膀胱兪に知熱灸。

足の三焦経を調整する。

「三焦は決瀆の官、水道これより出ず」とありますが、決は切り開く、瀆は水路、官は役人ですから、三焦は水路を切り開いて水に流れをよくする役人と同じ働きがあります。

膀胱経と胆経の間をこの足の三焦経は流れます。

三焦経の下合穴である委陽から崑崙までの硬結を処置していくと水はけがよくなります。

「膀胱は州都の官、津液これを蔵し、気化させ則ち出すことを能す。」とあるように、膀胱経の下合穴である委中も反応があれば調整します。

基本は脾を健やかにし、湿痰をこしらえないことです。

脾が変動すると湿痰を温床します。

以下の3つが病因となります。

  1. 暴飲暴食
  2. 運動不足
  3. 思慮過度

暴飲暴食すると清濁の泌別に負担をかけます。

腹八分目、場合によっては六分目を心がけましょう。

運動不足は脾胃を弱らせます。

中世の名医岡本一抱の説です。

脾胃は石臼の上下の石です。

取手は四肢です。

取手を良く動かすと石臼がよく回って細かく挽けるように、四肢つまり手足をよく動かすと脾胃が良く働き消化を助けます。

と仰っています。

適度な運動は消化もよくなるしお腹も空くので、是非心がけましょう。

散歩が一番お手軽です。

思慮過度もまた脾胃に負担をかけます。

食事は飲食物の清濁の泌別ですが、善悪の判断は精神の清濁の泌別です。

考え過ぎは脾胃に負担をかけます。

あれこれと考え過ぎないように心がけましょう。

最後に最も大事なことはストレスを回避することです。

各臓腑が失調すると浮腫みを発症しますが、その根本的原因はストレスです。

肝鬱気滞瘀血がその背景にあります。

肝鬱つまりストレスがあるから食べ過ぎに走るのです。

現代においては、ストレスこそが最強の外邪です。

ストレスを回避できるように、抱え込まないように工夫してください。