Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

レイフロ@台本師&声劇民☮

獣道(4人台本)

2023.09.23 08:36

●台本をご使用の際は、利用規約をご一読下さい。

●ページトップの画像は、ツイキャスで生声劇する際のキャス画にお使い頂いても構いません。(配役等の文字入れ可)

【人物紹介】


善(ゼン):♂

獣道に迷い込んだ男。生前は極悪非道を尽くし、警察との銃撃戦により死亡。叫びセリフあり。


イチ:♀

ニイとは双子。獣道の案内人。最初の関門を通れた者に道案内をする。無邪気。


ニイ:性別不問(女性が演じる場合はボクっ子で)

イチとは双子。獣道の案内人。最初の関門を通れた者に道案内をする。潔癖症。


サン:性別不問

獣道の番人。大蛇。普段は道を塞ぐようにして寝ている。叫びセリフあり。


シ(死):

獣道の最期の難関。名前だけ出てきます。セリフはありません。



※イチとニイは双子設定ですが、特に(声の)年齢を合わせる必要はありません。



【配役表】

――――――――――――

『獣道』 

作:レイフロ

善♂:

イチ♀:

ニイ♂or♀:

サン♂or♀:

https://reifuro12daihon.amebaownd.com/posts/48110210/

――――――――――――


以下、台本です。


サン:

永遠と続く一本道。


ここは、道を踏み外した、選ばれし者だけが

通りきることが出来る獣道。


自覚の有る者。

自覚の無い者。


通りきれるかは

お前次第。



(間)



イチ:

♪かーごめかごめー


ニイ:

ねぇ、イチ。


イチ:

どうしたのニイ。早く続き唄ってよ。


ニイ:

誰か来た。うしろ。


イチ:

それを言うならぁ…

♪うしろの正面~


善:

ダァレェ?


イチ:(首をしめられる)

あっ…ぐっ…!


善:

細い首だァ、こんなんじゃすぐにでも折れちまう…


イチ:

ゲ、…は…ぐるじ…


ニイ:

イチ。なに遊んでんの?


イチ:(ケロっとして)

ぷはあっ!びっくりしたぁ!


善:

…っ?!なんだ?

確かに今首を掴んでたのに…いつの間に抜けやがった!?


イチ:

今の遊びはすぅぅっごく楽しい!ニイもやってもらいなよ!


ニイ:

ボクは嫌だよ。他人に触られると鳥肌が立つ性分なんだ。


イチ:

ニイは 「ちきんはーと」 なの?


ニイ:

いや、それだとただの小心者みたいじゃないか!

それを言うならチキンスキンだよ、ト・リ・ハ・ダ!


イチ:

あはは、ニイが怒ったー!

じゃあニイが鬼ね!追いかけっこしよー!


善:

おい、てめぇら!無視すんじゃねぇ!!


イチ:

なんだ、アンタが鬼になりたいの?なら早く言ってよぉ。


ニイ:

てゆーか、アンタ誰?


善:

なんでテメーらみたいなワケの分からん奴らに名乗らなきゃなんねーんだ。

ここがどこか教えろ。


イチ:

ワケの分からん奴らだって~。

そもそもアンタにワタシ達がどう見えてるかもこっちはわからないし~。


ニイ:

まぁ一応会話は通じるから同じ国の人間には見えてるんじゃないかな。


善:

あン?一体何の話してやがる。


イチ:(化け猫に変化)

シャーっ!!


善:

なっ…!?


ニイ:(化け犬に変化)

グルルルル (←「ウーッ」と唸っても良い)


善:

どうにも現実とは思えねぇ場所だと思ってたが…。

テメーら人間じゃねーってか?

それとも俺は化け猫と化け犬に化(ば)かされてんのか?


イチ:(すごんで)

まずは名を名乗れ外道!!


ニイ:(すごんで)

それが先住の者へのせめてもの礼儀!!


善:

ふ…まさか人間のフリが出来る動物園だったとは恐れ入った。

いいだろう、俺は善(ゼン)だ。


イチ:(人間に戻って)

善ね!

ここに誰かがくるなんて久しぶり~っ!


ニイ:(人間に戻って)

ああ、数年ぶりかなー?


イチ:

ワタシはイチで、


ニイ:

ボクはニイ。


イチ:

イチは一番強くて、ニイは二番目~


ニイ:

名前と順番は関係ないだろ!?


イチ:

イチは一番だもーん!犬コロなんかに負けないよ?


ニイ:

ハッ!ズル賢いお猫様は、負けると思った瞬間に逃げてうやむやにするだけだろ?!


イチ:

そんなことないっ!


ニイ:

そんなことあるっ!


同時に:(ケンカ)

イチ:にゃんにゃんにゃんっ!!

ニイ:ワンワンワンっ!!


善:

コントは終わりか?いい加減俺の質問に答えろ。


イチ:

善はせっかちー!

ニイ、説明したげて!


ニイ:

ここは、人道を踏み外した者が来る特別な道。

通称 “獣道” だよ。


イチ:

といっても、大抵の人はこの道の入り口にある死練(しれん)を越えることも出来ないから

ワタシたちに会える人は稀なんだけど!


ニイ:

アンタは第一関門を突破してここにきたってことだよ。

でも全身ズタズタの血だらけだね。茨(いばら)の道を通って来たの?


善:

クソうぜぇ道だったぜ。

茨の向こう側に、俺が今までずっと追い続けてきたクソヤローが見えたから、

俺はただ、茨を掻き分けてまっすぐ進んで来ただけだ。


イチ:

茨の棘でそんなにズタズタになるって、どんだけ凄い距離進んだらそうなるの?

すんごい執念!


ニイ:

右耳もプラプラしているし、指も何本か無くなっているみたいなのに

随分元気だね。


善:

んだと?

…っ!まじだ、中指と薬指がどっかいきやがった。

どおりでさっき嬢ちゃんの首を絞めた時に力が入らなかったわけだ。


ニイ:

あはは、痛覚はここでもちゃーんとあるはずなのに、

気づいてもいなかったのか?面白いね!


善:

あ?思い出したぞ?

俺は確か、警察に囲まれて蜂の巣にされて死んだ…。

チッ…、だとしたらここはあの世か?


イチ:

だからぁ、ここは“獣道”だってば!

全然話きいてないじゃん!なんかこの人めんどくさー!


ニイ:

ここに来るのは狂人の卵ばかりだから、話が通じない場合が多いんだよ、イチ。

無駄な体力を使うとお腹がすくだけだから、無駄な説明はしない方がいい。


イチ:

もうすでにお腹すいてきてるよぉ…。

あれ?よく見たらアンタ…真っ赤でおいしそうだねぇ?


ニイ:

確かに。傷口が熟れたトマトみたいで、割りとイケそう。

少しだけ食べてもいーい?


善:

あん?じゃあこれでも喰ってろ化け物ども。

ぐぅッ…!ほらよ!(耳をちぎって投げる)


イチ:

わぁ!ちぎれかけた耳なんて投げてこないでよぉ!

冗談じゃん!ちょっとビビらせようとしただけなのにぃ!


ニイ:

汚いなぁもう!

まぁ、このくらいでビビるようなヤツならそもそもここまで来れてないか。


イチ:

ちぇー。じゃあさっさと次に案内しようか。

サンは起きてるかなぁ?


ニイ:

寝てるだろうね。あのデカイ図体で道を塞ぎながら、

蜷局(とぐろ)を巻いてるに決まってる。


善:

おい。誰がそのサンとやらのところに案内しろと言った。

俺は俺の獲物を追ってここまで来たんだ。ヤツはどこにいる!!


イチ:

はぁ?善の獲物が誰かなんて知らないんですけどぉ?


善:

なんだと?アイツは茨の道の先に居た!

俺は奴を追ってここまできたんだ、ここに来たはずだろうが!


ニイ:

イチ、前に人が来たのは確か3年くらい前だったよね。

そいつのことじゃない?


イチ:

あ~トチ狂ってる男だったよね、確か。

煙草を吸ってたかと思ったら、短くなったら最後ムシャムシャ食べてたもんね!


善:

俺が探してんのはソイツだ!

でも…3年前ってのはどういうことだ!?


イチ:

そのままの通りだよ。善は、茨の道を通るのに3年かかったってこと。


ニイ:

ふふ、3年で何回死んだのかなぁ?

前に進めなくなるまでズタズタになっては生き返り、ズタズタになっては生き返り…


イチ:

それでも前に進む執念!それでこそ選ばれし者だよ!

ワタシたちのところまで来れたこと、誇りに思っていいよ?


善:

何を言ってやがんだ。訳がわからねぇ。


イチ:

ようこそ。ここは道を踏み外した者だけが通れる修羅(しゅら)の道!


ニイ:

この一本道を通ることが出来れば、キミは生まれ変わることが出来る!


善:

生まれ変わる、だと?


イチ:

そう。次の人生ではもっともっと暴れられるよぉ?


ニイ:

今以上の狂人として生まれ変われるんだ!


善:

なんだそりゃ。


イチ:

まぁその辺りの話はサンから聞いてよ。


ニイ:

キミが探してる男も、先にサンのところに行っているから、もしかしたら会えるかもね?


善:

そういうことなら早く案内しやがれ。


イチ&ニイ:

はーい!



(間)



善:

…お。いつの間にか傷が治ってやがる。指も元通りだ。


イチ:

そうだよー。ここは諦めなければ何度でも怪我は再生するんだ。

たとえ首なんかが取れてもね?


ニイ:

そうやって茨の道も通り抜けてきたんだよ?記憶に無いの?


善:

アイツを追うことに夢中だったからな。いちいち痛みなんぞに構ってられるか。


イチ:

へぇー。ニイ、善はもしかしたらこの獣道、最期まで行けるんじゃない?


ニイ:

どうかな。この程度なら今までもたまーにいたけど…。

茨の道を通るのと、サンと戦うのとでは訳が違うよ。



(間)



善:

うぐ…っ!なんだ、この臭いは…!


イチ:

サーン!来たよー!


ニイ:

ひさしぶりー。


サン:

むぐむぐ(何か食べてる)

ん…?お主ら。久しいな。


イチ:

元気だったー?


サン:

まぁ、いつもと変わらんな。


善:

バカでかい蛇、だと…?!


ニイ:

なに食べてるの?


サン:

はて?なんだったか…?


イチ:

蛇も咀嚼ってするの?


サン:

いつもは丸飲みだが、こいつはタバコの味がしてな。


ニイ:

たばこ?


サン:

忘れたか?コレは、お主らが3年ほど前に案内してきた男だろう?

ペッ。(吐き出す)


(SE:べチャ)


イチ:

うわぁ!グチャグチャ!


ニイ:

うわぁ!フケツ!キモチワルイ!


善:

……っ!!まさか…!


イチ:

3年も噛んでたの?


サン:

口寂しくてな。

まぁ、蛇(じゃ)に歯はないでな。正確には磨り潰しておった。


ニイ:

磨り潰せば磨り潰すほどタバコの味が出た?


サン:

あぁ。こやつはとんでもないヘビースモーカーだったようだ。

磨り潰した時のほろ苦さがなかなか癖になってな。


善:

…親父。


イチ:

え?善が探してたのってお父さんだったの?


善:

フフフ…


ニイ:

善?


善:

ははははははは!!ざまぁねーな!

この汚らしいのが20人殺しの神矢(かみや)だってのか?!

あははは!ひぃぃ腹いてぇ!


イチ:

笑ってるね。


ニイ:

大爆笑だね。


サン:

その五月蠅いのは何だ?


イチ:

この人は善だよ。


ニイ:

その汚いグチャグチャを追いかけて来たみたい。


サン:

この男も、諦めぬうちは何度咀嚼されても生き返り、足掻(あが)いておったが

いつの間にやら静かになって、今やこのざまだ。


イチ:

3年近くもサンにモグモグされていたなんて…

なんか楽しそう!サン!イチもモグモグして!


ニイ:

ボクは嫌だなぁ。他人の唾液とかまじで無理すぎる。


善:

ひははははは、ゲホッゲホっ(笑いすぎてむせる)


サン:

またオカシナ奴を連れてきたものよなぁ。

ふぁぁ(あくび)


イチ:

サン、善もガムみたいにクチャクチャしちゃうの?


サン:

こやつもタバコの味がするか?ジュルリ。


ニイ:

てゆーか、寝てたんじゃないの?


サン:

寝ながらクチャクチャしておった。


イチ:

行儀悪いなぁ。


ニイ:

行儀悪いねぇ。


善:

おい、そこのでけぇ蛇公(へびこう)!!

サンとか言ったか。


サン:

あぁ。主(ぬし)、タバコを持っておるか。


善:

ああ、あるぜ。そこのクソヤローと同じやつがなぁ。


サン:

ふっ…。それは良(よ)いな。くれぬか。


善:

ヤダね。


サン:

ここを通りたいのであろう?


善:

別に通りたいってわけじゃねぇ。


サン:

なんだと?


善:

そもそも俺は詳しいことなんぞ何も聞いてねーからな。


サン:

あーン?

イチ、ニイ。お主ら説明はしたんだろうな?


イチ:

ヒッ…サンが睨んだぁ!恐いよニイ!


ニイ:

ごめんよ、サン。めんどくさくて。


サン:

はぁ…ほとほと呆れる…。


ニイ:

この道を最後まで進めれば、狂人として生まれ変われる、とは言ったよ。


イチ:

言ったもん!


サン:

そこの男。名は何と言ったか。


善:

善だ。


サン:

フフ、皮肉な名だ。

善とやら、狂人として生まれ変わりたいか?


善:

正直、さっきまでは生まれ変わりなんぞどうでもよかった。

でもあんたのおかげで解ったよ。


サン:

ほう?何を。


善:

そこのゴミを見て目が覚めたよ。俺はちっさかった。

あんなもんを必死に追いかけてたなんて吐き気がすらぁ。


サン:

フン、私怨(しえん)なぞ、くだらぬ。


善:

そうだな。俺はそいつのせいで人生を損した。

もっと、ヤリタイことがあった。


サン:

やりたいこと、とは。


善:

善行(ぜんこう)、だよ!

「害虫駆除」だ!


イチ:

ニイ、害虫駆除って何のことぉ?


ニイ:

地球上で一番の害虫は、もちろん「人間」だよ。 


サン:

ほう…。計らずともあのうつけの意(い)には添っているようじゃな。


イチ:

サン!またカミサマのことを「うつけ」だなんて!

言~ってやろう言ってやろ~♪


ニイ:

あはは!サンに罰(バチ)が当たる!カミサマの罰が当たるよー!!


サン:

黙れッ!!


イチ&ニイ:

ひゃあ!!


サン:

神が何だ。自ら箱庭を作っておきながら、傍観するのに飽きたクソガキではないか。


善:

へぇ。面白そうな話じゃねーか。


イチ:

カミサマはね?この獣道を作って、現世に生まれるべき狂人を厳選しているんだよ!


ニイ:

厳選された狂人を箱庭に送り込んで、どうなるか観察しているんだ!


サン:

歴史に名を残した独裁者や連続殺人鬼なんぞは、全部この獣道で選ばれた狂人だ。


善:

あはは!へぇ、そうだったのかよ!


イチ:

だから善もこの獣道を最後まで進むことが出来たら、

歴史の教科書に載っちゃうようなスゴイ人になれちゃうかもしれないんだよ~!


ニイ:

もちろん、悪い意味でね。


善:

ハッ!悪人なんて、環境や境遇が作り上げるもんだとばかり思ってたぜ。


サン:

それはそうさ。でも飛びぬけた狂人は最初から「種」を持って生まれてくる。


善:

「悪の種」ってか?


サン:

そうだ。だが其(そ)れが華咲くかもまた、わからんがな。


イチ:

大悪人(だいあくにん)になるのも楽じゃないねー。


ニイ:

でも稀にスゴイ方向に華咲くこともあるから面白いんだよねー。


イチ:

ああ!えーっとなんだっけ?

なんとかっていう何かをぉ…何かした人もいたよね!


ニイ:

それ情報がひとつもないよ、イチ。


サン:

読むと気が狂うと言われている本を書いた奴のことか?


イチ:

そう!


ニイ:

それ!


善:

なんだそりゃ?


サン:

狂人の種を持ちながら、狂人を生み出す側になるヤツもいるということさ。


善:

へぇ。種を持っているからって全員が全員殺戮者になるってわけでもねぇわけだ。


イチ:

そこが面白いところだよ!


ニイ:

カミサマはそういうのを見て楽しんでるんだ!


サン:

ほくそ笑んでいる、の間違いだろう?全く、趣味が悪い。


善:

じゃあこの道に来たはいいが、途中で脱落した者はどうなる?


イチ:

それはもちろん!


ニイ:

地獄行きだよ!


サン:

本来の罪でな。


善:

チッ…


イチ:

地獄をナメちゃダメだからねぇ?


ニイ:

きっとサンに3年間咀嚼されるなんて、死ぬほど楽な刑だったと思えるよー?


サン:

何を言っているか。少しは優しくしてやらんと誰もこの道を通れなかろう?


ニイ:

9割方、サンのところで脱落してるんだけど?!


サン:

私が誰も彼もここを通したとて、

次に待っている“死(シ)”の区域を通り抜けることなど出来ないではないか。


善:

死?


イチ:

ボクはその呼び方好きじゃないなぁ。

イチ、ニイ、サンと来たら次は「ヨン」で良くない?


ニイ:

いいや、あそこには“死(シ)”という呼び名こそピッタリだよ。それ以外あり得ない。


サン:

“死(シ)”はただただそこにあるだけだ。意志も信念も意義も何もありはしない。


イチ:

飲み込まれれば最期。フフ。


ニイ:

地獄に行く事すら出来ない。クク。


サン:

むしろ私のところで脱落させてやることは一種の優しさとも言えるだろう。


イチ:

そうだね!それじゃあ善もサンのガムになっちゃおう!


ニイ:

グチャグチャに磨り潰されて咀嚼されちゃおう!


イチ:

ねー!


ニイ:

ねー!


善:

勝手に決めてんじゃねぇ。


サン:

ではここを通りたいと言うのだな?童(わっぱ)。


善:

ああ。俄然興味が湧いたぜ。俺はテメーのデカイ図体をどかして、

“死(シ)”だかなんだかわからんところも通り抜けてさっさと現世に戻るぜ。


サン:

そのセリフは聞き飽きたわ。

ここに来るほとんどは私の外見に恐れを為すか、

お前のように何の根拠もない啖呵(たんか)を切ってくる。

自分の矮小(わいしょう)さを思い知って、とっとと地獄で罪を清算してこい、クソガキがぁ!


イチ:

空気がピリピリしてきたね、ニイ。


ニイ:

少し離れていよう、イチ。


善:

俺を親父と一緒にするんじゃねーぞ。

来いよ、蛇公!その長い図体で蝶々結び作って、可愛くしてやるよ!


サン:

抜かせ。ここは主(ぬし)が諦めぬ限りは何度でも傷が癒える場所。

それだけ大口を叩いておいて、どれほどその正気を保てるか見物(みもの)だなぁ?


善:

ハァァァ!!(走り出す)


イチ:

わぁ!善のやつ本当にサンと戦う気だぁ!


ニイ:

イチ!巻き込まれるから前に出すぎるな!

あと血とかが飛び散ってくるからシンプルに汚いし!


サン:

カスの相手など尻尾だけで十分よ!!


善:

ぐあぁぁぁ!(尻尾で弾き飛ばされる)


イチ:

キャハハ!今すごい音がしたぁ!どこか骨が折れたんじゃなぁい?


ニイ:

善~っ!ふぁいとー!がんばれー!



(間)



サン:

もう仕舞いか!まだ私はここから一歩も動いてもおらんぞ!


善:

ガハッ…はぁはぁ…これからに決まってんだ、ろーが!うぉぉぉぉ!



(間)



イチ:

はぁ…お茶美味しいねぇ…


ニイ:

戦闘が始まってこれどのくらい経つっけ?むぐむぐ


イチ:

うーんと、5年くらいかな?

あ、ニイ!桜餅の葉っぱよけて食べるのやめてよ!そこが美味しいのにぃ!


ニイ:

虫じゃあるまいし、葉っぱなんて食べたくないよ。


サン:

ふぁぁぁ(あくび)

もう飽きて眠いわ。そろそろ主も諦めて地獄へ行け。


善:

そうかよ…。だったら目覚まさせてやらぁ。

これでも、食らえッ!!!


(SE:刺さる音)


サン:

なっ…!ぐぎああああああ!!


イチ:

え?!うわぁぁなにあれーっ!

サンの目に何か白いモノが突き刺さったよぉ?!


ニイ:

あれは、骨?

善のやつ、自分の千切れた左腕から骨を引き抜いたのか?!


善:

舐めくさって、ボケっと、し、てるからだ、蛇公、め…

はぁ、はぁ…ぐっ…(倒れる)


イチ:

あ、倒れた。


ニイ:

サン、大丈夫?!


サン:

チッ、油断した…。


イチ:

サン、目に刺さった骨カッコイイね!「ぼでぃぴあす」みたい!


ニイ:

眼球にピアスはちょっと斬新すぎるんじゃない?!

どのロックスターもやってないよ?!


サン:

そうかピアスか。

若者ぶっていると思われると何やら恥ずかしいなぁ。


ニイ:

何の心配なのそれ?!


サン:

いいから早く抜いてくれ。片目では不自由だ。


ニイ:

えー。抜いたら色々と目汁(めじる)が飛び散るから嫌だよ。


サン:

目汁(めじる)って…


イチ:

じゃあアタシが抜くー!


サン:

一気に頼むぞ?


イチ:

グリグリグリグリ♪


サン:

イだだだだだ!!!!


ニイ:

遊んでないで早く抜けよ…

って、わぁぁ!目汁をこっちに飛ばすなぁぁ!!


イチ:

いっくよー!ほーい!(骨を引き抜く)


サン:

アッ…イタキモチィ…


ニイ:

サンって結構Мだよね


イチ:

エムってなぁに?

♪えーびーしーでぃーいーえいちぶいっ♪

あれ?エムなんてない!


ニイ:

すごいスッ飛んでる!!


サン:

さぁ続きをやるぞ善、立てっ!


イチ:

でもさぁ、サン?さっきの善の骨攻撃で、塞いでた道、あけちゃってるよ?


サン:

あ…


ニイ:

サンをどかせたんだから善は合格?道を通れる?!


イチ:

合格?合格なの?ねぇねぇねぇねぇ!


サン:

五月蠅い!

はぁ…仕方ないな。通ってもいいだろう。


イチ:

わーい!すごいや!善!寝てる場合じゃないよ!

サンがここを通ってもいいって!


ニイ:

イチ、そんなに揺すったら血が飛び散るっ!汚いっ!


善:

痛゛ぇなこのヤローっ!!


イチ&ニイ:

ひゃあ!


善:

まだ傷が再生してねぇのに遠慮なく揺らしやがって!!


イチ:

痛いの痛いのとんでけー♪


善:

ナメた口聞いてっと、その喉切り裂くぞ!


イチ:

どうせだったら頭を落としてよ!


ニイ:

そうだね、そうしたらイチの頭でサッカーが出来る。


イチ:

そうそう!サッカーやりたいっ!


善:

チッ…イカれたヤツばっかだぜ。


サン:

善。だいぶ甘めに見て、合格としよう。


善:

合格って何が。


イチ:

何がって、善は生まれ変わるために一生懸命サンと戦って

この道を通ろうとしてたんでしょ?


善:

あー…そうだった。このムカつく蛇公に一矢報いることに必死で忘れてた。


ニイ:

途中さぁ、首から上を噛み千切られちゃった時は終わったかと思ったよねー!


イチ:

うんうん!なかなか再生しないからついに心が折れちゃったのかと思ったよ!


サン:

こやつに心などあるものか。


イチ:

確かに。


ニイ:

確かに。


善:

確かに。


サン:

自分で言うか!

はぁ…こんな阿呆を転生させても大物になるとは思えんが。


イチ:

化けるかもしれないよぉ?


ニイ:

今までにいなかった新しいタイプの狂人になるかもよぉ?


サン:

まぁ、あとは最後の番人“死(シ)”にまかせよう。


善:

その“死(シ)”ってのはどんなヤツなんだ?


サン:

“死(シ)”は姿形があるわけではない。ただそこに在るだけだ。


善:

なんだそりゃ。


サン:

簡単な話だ。ただこの道をまっすぐ進めば良い。


イチ:

そういえば “死(シ)”はどうやって道を通れる者を選別してるのかなぁ?


ニイ:

そうだね。基準とかあるのかなぁ?


サン:

ないのだろう。選別もしていない。

“死(シ)”はただそこに在るだけなのだからな。


善:

訳がわからん。

…お。傷も治ったし、俺は行くぜ。


イチ:

がんばってね、善。


ニイ:

がんばらなくてもいいよ、善。


サン:

地獄に落ちろ、善。


善:

はぁ…ろくなヤツが居やしねぇ。



(間)



イチ:

……行っちゃったね。


ニイ:

善は生まれ変われると思う?


サン:

さてな。あの馬鹿が“死(シ)”を理解し、己に昇華しなければ…

心が折れるまで延々と長い道を歩かされるだけだ。



(間)



善:

(もうどれくらい経ったか…ただ真っ暗な道があるだけだ。

自分の足音も聞こえねぇと思ったら、声も出ないようになってやがる…

俺はどこに向かってるんだ?



時間の感覚がわからん。

ん?なんだ?

どおりで歩きづらいと思ったら足の爪が割れて血だらけだ。

なのに痛みはない…一体どうなっている…)



(間)



イチ:(猫)

シャーっ(威嚇)


ニイ:(犬)

グルルルル(ウーッでも可)


同時に:(ケンカ)

イチ:ニャンニャンニャンニャンッ

ニイ:ワンワンワンワンッ


サン:

主ら、早く自分の持ち場に帰れ。

五月蝿くておちおち寝てもいられんではないか。


イチ:

だって花札で勝ったのに、ニイが頭取るのは嫌だって言うんだよぉ?


ニイ:

イチがズルするからだろ?!今のはなしー!


イチ:

ズルしてないもん!


サン:

はぁ…(ため息)

ニイ、こっちを向け。


ニイ:

なに?


サン:

あぐっ(ニイの頭をかみちぎる)


ニイ:

ギャー!!


サン:

ペッ!!(吐き出す)


イチ:

わーい!ニイの頭が取れたー!これでサッカーが出来るー!


ニイ(頭を蹴られながら)

酷いっじゃないかっサンっ!ぐえっ!イチのドリブルはっ!はぐっ!下手くそすぎて!ぎゃぴ!


サン:

…つまらん。

また善のようなやつが来ないものか…。


イチ:

サン行くよー!ミラクルスーパーシュート決めるから見ててー!


ニイ:(ゴロゴロ転がりながら)

やぁぁめぇぇろぉぉぉっ!!


サン:

はぁ…平和すぎて身体に苔が生えそうだ…。


ニイ:(頭、元に戻る)

はぁはぁ…ヒドイ目に合った…


イチ:

そういえばさっ、“死(シ)”の道だと確か、怪我は回復しないんだよねぇ?


サン:

そうだ。

“死(シ)”の道ではさっきのようにニイの頭でサッカーは出来ん。


ニイ:

どうすれば“死(シ)”に認められるのかなぁ?

例えば、爪が剥がれて足がもげてでも前に進み続ければ、執念を認めてもらえる?


サン:

いいや。 “死(シ)”はそこに在るだけなのだから、認めるも何もない。

そもそも、「在る」ことに気付かなければ、「無い」も同然なのだからな。


イチ:

うーん…禅問答みたいだね。


ニイ:

イチから「禅問答」なんて言葉が出てるなんてっ!

どうしたんだイチ!何か悪いものでも食ったのか?!


イチ:

知ってるよ、それくらいぃぃ!!


サン:

イイところをついてはいるな。

“死(シ)”が合否を決めるのでないとすれば…


ニイ:

あ、そっか…!


イチ:

ニイわかったの?!


ニイ:

自分で悟るしかないんだね?


サン:

あぁ。然(しか)れば道は切り開かれん。



(間)



善:

(全く先が見えねぇ…。

かかとも削れて肉が見えてるじゃねぇか…

足が駄目になって這ってでも前に進み続けて、

生への執着を見せろってことなのかよ、ちくしょう


はぁ、はぁ…


…ん?なんで俺は息切れなんかしてやがんだ?

光も音も痛覚もねぇ…

そういや喉の渇きもねぇのに

空気だけは、「在る」…?)



(間)



サン:

生者にとって最も大切で、でも目に見えないものはなんだと思う?


イチ:

はい先生っ!!愛ですっ!!


ニイ:

そんなとこだけ乙女かよ!


サン:

まぁ愛も子孫繁栄には必要かもしれんが、

もっと生きるための大前提のものだ。


ニイ:

酸素だね。


イチ:

えぇーちょーつまんなぁい。そんな当たり前なことぉ?


ニイ:

いちいち空気が在ることを確認してから息を吸ったりしないだろ?

それくらい在るのが当たり前なんだよ。


サン:

死も同じだ。生ける者のすぐ傍には必ず死が在る。

死に触れれば、人は死ぬのだ。

死に触るタイミングがそれぞれ異なるというだけで、それは必ずその者の傍にいつだって在る。


ニイ:

狂人が悟るべきことって何なんだろう?


サン:

決まった答えはないが、善の場合、恐らく答えはものすごく…


3人で:

バカそう…!


3人で吹き出して笑う:

ぷっ!あはははは!



(間)



善:

(全ての感覚を失っても、空気だけは在ることを認識出来る…

でも俺はもう死んでるんだろ?

息をする必要なんてねぇじゃねーか。

なのに、息が上がる…


ってことは…?


空気が、

酸素の方が、

俺を求めてるってことじゃねぇか…!


お前は息をしろと。

息をするように人間(がいちゅう)を殺せと言ってやがる。

求めてる。


生(せい)が俺を、俺の悪逆無道(あくぎゃくむどう)を求めてる…!!


…向こうに光が見えて来やがった。


待ってろよ害虫ども!


ははっ、

あははははははははは!!)



(間)



サン:

死後の世界は天国と地獄に分かれているが、

生の世界は一つだ。その一つの世界に善と悪、二つが共存する。


「生まれながらの悪人はいない」なんて言葉があるが…

ふふふ。笑わせる。


羊水に浸かったまっさらな器に入れ、善。

そこで「善」という人物は失われる。

だが、お前が悟った悪の種は確実に根を張るだろう。


世界を震撼させる狂人となるか、

はたまた芽吹かず枯れ果てるかはわからんが…。


あの神(うつけ)は、

平和を喜ぶ傍(かたわ)ら、狂人による凶行にも

同じ顔で微笑んでいることを、人間共は知る由もない。






了。