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九条 顕彰・台本置き場

声劇台本『LostSummer,run away』BL版

2023.09.21 14:25

声劇台本『LostSummer,run away』BL版


作:九条顕彰


△はじめに…

こちらは声劇台本となっております。

この作品は著作権を放棄しておりません。

台本ご使用の際は、作品名・作者名・台本URLを分かるところに記載してください。

コピー・ペースト等での無断転載、自作発言、二次創作はおやめ下さい。

ネット上での生放送での声劇(ツイキャス等)のご使用に関しては自由です。

※YouTube等での録音した音声投稿(シチュエーションボイスや、ボイスドラマとしての音声投稿)や有償での発表(舞台での使用等)に関しては、作者の方に相談してください。

ネット上での上演の際、台本の使用報告はなしでも構いませんが、なにか一言あるととても励みになります。飛んで喜びます。

物語の内容にそっていれば、セリフアレンジ・アドリブは自由です。

ただし、大幅なセリフ改変・余計なアドリブを多く入れることはおやめ下さい。

↓↓↓下記ページでも台本載せております。

こちらでもよろしくお願いします。

https://9454996806.amebaownd.com/



この物語はフィクションです。

実在の人物・地名は一切関係ありません。




比率

男:2



上演時間:60分




STORY

父親を殺した少年と、事故で娘を失った男の、決して許されない恋と、死への旅のお話。




登場人物

小阪夏希(こさか なつき)

18歳。父親を殺した少年。


冬野雄也(とうの ゆうや)

33歳。事故で妻と娘を失った男。



役表

小阪夏希:

冬野雄也:








〇本編セリフ〇





雄也(M):ある日、帰り道に猫を拾った…あれは酷い雨の夜だった…路地の片隅で、小さくうずくまっていて、雨に濡れた毛並みがキラキラ光っていた…金髪の綺麗な猫だった




──降りしきる雨の中、1人の少年が路地でうずくまっている




雄也:…あの…きみ…こんなところで何してるの?


夏希:…あ?


雄也:いやっ…その…こんなオッサンが急に話しかけてきてごめんな?…ただ…なんというか……傘はないのか?


夏希:…ない


雄也:そ、そう…友達は?


夏希:…いない


雄也:そ、そうか……お、親御さんは?お母さんとか、お父さん、迎えにこないのか?


夏希:……。


雄也:…何があったのか分からないけど…雨も酷いし、夜も遅いし…親御さんもきっと心配してるだろうから、もう家に帰った方が…


夏希:しつこいな!帰らないって言ってんのがわかんないわけ!?いいからもうほっといてくれよ!!


雄也:…ごめん…けど、それは出来ない


夏希:は?


雄也:その制服…見た所、君、高校生だろう?理由はなんであれ、子供がこんなところで1人、雨に濡れてうずくまって、しかも家に帰らないなんて…余程のことがあったんでしょ?


夏希:……。


雄也:君にとっては、僕の言動はお節介かもしれないけど…でもここは暗いし、それに雨も降ってるし、そんなじゃ風邪ひくぞ…他にどこか…泊めてくれる人とかいないの?


夏希:…いないよ、そんな人……それにオレ、もうあの家には帰れないから


雄也:え?それ、どういう意味?


夏希:…別に、なんでもいいだろ…あんたには関係ないのに、なんでそんなにしつこいんだよ?…あんた、もしかして、警察の人かなんかか?


雄也:まあ、そうだな…そこの駅前の交番で、警察官として働いてるよ


夏希:ふーん…そうなんだ…


雄也:そんな事より、どうする気なんだ?俺から親御さんに連絡してもいいんだが…


夏希:今は家に誰もいないから、電話しても出ないよ……それよりさ、オジサンの家に泊めてくれる?


雄也:え?


夏希:いや…お互い、初対面だけどさ…なんだろう…オジサンなら信用出来そうな気がして…オレ、今お金もってないから、ホテルとか泊まれないし…ダメかな?


雄也:……今日、一晩だけだぞ





雄也(M):あの酷い雨の日の夜、猫を拾った…金髪の、酷く毛並みが良い、綺麗な猫だった…これが、あいつと俺の、ひと夏の旅の始まりだった




夏希(タイトルコール):『LostSummer,run away(ロストサマー、ランナウェイ)』





──次の日





雄也:…ん…?…あぁ…もう朝か……いくら非番とはいえ、早めに起きなきゃな……あれ?俺、なんでソファーで寝てるんだっけ…?


夏希:あ、オジサン、おはよぉ!


雄也:…!(あぁ、そうだった…思い出した…昨日、この子をうちで保護して…それで…)


夏希:オジサン、昨日は泊めてくれてありがとな!お礼と言っちゃなんだけど…朝ごはん作ったんだ、簡単だけど


雄也:…ふーん、意外と気が利くね


夏希:何だよ、その言い方


雄也:いや、なんか…さ


夏希:…?…あー、なるほど?オレが、夜遅くにあんなところに居て、家出してて、しかもこんな金髪だから、オレの事、どっかのヤンキーだと思ったわけだ


雄也:うっ…ごめんね


夏希:ははっ!ううん、いいよ、別に、気にしてない!……それに、そういう目で見られるのは、もう慣れてるし


雄也:…ねえ、これから、どうするの?


夏希:え?


雄也:昨日、言ってたじゃないか、「あの家には帰れない」って…家庭の方で何かあったんだろ?他にどこか行く宛てとか、あるの?


夏希:……


雄也:…まあ、細かいことは、朝ごはん食べてからにしようか、せっかく作ってもらったのに冷めたらもったいないからね


夏希:…うん…そうだな





雄也(M):そう言いながら、テレビの電源をつける、いつも見ているニュース番組にチャンネルを切り替えたその手が、ぴたりと止まってしまった…とあるニュースが目に付いて離れなかった…あまりにも衝撃的な事実に、俺は一瞬、その事件を受け入れる事を拒んだ…





雄也:…政治家の、小坂議員が、何者かに殺害された…?


夏希:…!?


雄也:なんで…いきなり……あの男が…(小声)


夏希:あ、あの!!


雄也:?


夏希:オ、オレ…その、さ、その番組好きじゃないんだっ…だから、その…他のチャンネルの見ようぜ!


雄也:え?けど、今はどこも朝のニュース番組くらいしか※


夏希:※い、いいから!!とにかく、違うのにして!!


雄也:わ、わかったよ…というか、なんでそんな慌てて…





雄也(M):消そうとテレビにもう一度、目を向けたその時、とある写真が目に入った…未だ行方不明、と書かれた文字と共に映し出されたそれは、目の前にいる、金髪の少年と瓜二つだった





雄也:え…?…これ…もしかして…きみ…?


夏希:っ…!


雄也:きみ、まさか…小坂議員の息子…


夏希:やめろ!それ以上言うな!!


雄也:っ!


夏希:……っ…なんで…なんでだよ…もう…っ…見るな!オレの事なんか…もう、ほっといてくれよっ…!


雄也:ちょっ!落ち着けっ!大丈夫、もう、大丈夫だからっ…

(雄也、夏希を抱きしめてなだめて)





雄也(M):何かに怯えるように震えている少年を見て、俺はなんて声をかけたらいいのか分からず、ただ強く抱き締めた。




──数分後





雄也:…どう?あれから、少しは落ち着いた?


夏希:…うん…


雄也:そう、なら良かった


夏希:…ごめん…オレ…


雄也:謝らなくていいんだよ


夏希:……オレ…


雄也:ん?


夏希:…もう、出ていくよ…


雄也:え?


夏希:これ以上ここにいたら、きっと、オジサンに迷惑かける…さっきの…ニュース見ただろ?ここにいるのがバレたらきっと、報道の人とか…ケーサツとか、いっぱい来る、から


雄也:い、いや、でも…


夏希:色々ありがとうな!


雄也:…っ!


夏希:…オレ、人にはあんまり恵まれなかったけど、さ…けど、オジサンみたいな優しい人も、まだ居るんだって、知れただけでもよかった!


雄也:…




雄也(M):その無理をしたような笑顔に、俺はなぜか惹き付けられてしまった




夏希:…じゃあ、さよなら


雄也:…!なぁ、待ってくれ…!


夏希:…なに?


雄也:…何があったのか…教えてくれないか?


夏希:え…?


雄也:え、って…だって、君のお父さんが殺されたんだぞ…俺だって警察だ…警官として、放っておけないよ…それに、お父さんの死について、君は何か知ってるんだろ?


夏希:…っ…


雄也:それと…ほら、昨日言ってたじゃな…か、俺なら信用できるって……絶対誰にも言わないって約束する…だから、何があったのか、教えて欲しいんだ


夏希:…ほんとに?


雄也:え?


夏希:ほんとに…絶対、誰にも言わない?


雄也:…ああ、言わない、墓場まで持っていく、約束だ


夏希:……わかった…じゃあ、話すけど…びっくりすると思うよ…多分


雄也:それは聞かなきゃ分からないでしょ?


夏希:…うん…あの、さ…


雄也:うん


夏希:…オレ…人を、殺したんだ


雄也:…え?




雄也(M):その言葉を理解するのに、少し時間がかかった…『人を殺した』?…冗談だろうか、からかわれているのか、それとも…




雄也:ま、まさか…冗談じゃ…


夏希:冗談でも、嘘でもないよ


雄也:え…


夏希:本当のことだよ…オレ、殺したんだ…あの男……父さんを…


雄也:!?お、お父さんを!?…じゃあ、さっきのニュースは…君が?


夏希:…うん


雄也:…なんで…?


夏希:…え?


雄也:どうしてお父さんを…殺したりしたんだ?なにか理由があったんだろ?じゃなきゃ、いきなり息子が、お父さんを殺す…なんて出来るわけない…


夏希:…別に…なんでもいいじゃん…理由なんて……あいつが気に入らなかったから殺した、それだけ


雄也:気に入らなかったって…


夏希:オジサンさ、家族は?


雄也:え、なに、急に?


夏希:家族だよ、奥さんとか、いないの?


雄也:…見ての通りだよ、今は一人暮らしだ


夏希:今はってことは、昔はいたんだ


雄也:…!……まあ、ね


夏希:そっか…奥さん、どんな人だった?オジサンのこと、大切にしてくれた?…愛してくれた?


雄也:……ああ、そうだな…優しくて、少し気が強くて…俺にはもったいないくらい、素敵な奥さんだったよ


夏希:そうなんだ……オレさ、分からないんだ


雄也:?


夏希:なんだろ…そういう…家族の愛?とか、人の優しさってやつ?よく分からないんだ…あの男が優しい人だって、親父だって、思えなかった…だって…


雄也:…だって?


夏希:…いや、なんでもない…それで、その…奥さんはどうしたの?出てっちゃったの?


雄也:…いや…亡くなったよ


夏希:…え…?


雄也:去年の夏、交通事故でね…その時、まだ幼かった娘と一緒に…


夏希:…去年の…夏…


雄也:ああ……ん?どうした?


夏希:…いや…ごめん…そうだったんだ…ごめんね


雄也:…?なんで君が謝るんだ?


夏希:…何となく…聞いて、ごめんね


雄也:いや、いいんだ、もう過ぎたことだからさ、だから謝らないでくれ


夏希:…うん


雄也:あの……君は…これからどうするの?


夏希:これから?


雄也:あんなところにいたって事は…自首するつもりはなかったんだろ?


夏希:…オジサン、心の中でも読めるの?


雄也:別に、そうじゃないけど…でも当たってるんだろ?


夏希:…うん…まあ、そう…どっか…誰にも知られないようなところで…1人で死のうと思ってた…


雄也:…


夏希:オジサン、警察官なんだよな…オレの事…捕まえてもいいんだよ


雄也:え?


夏希:だって、オレ、言うなれば殺人の、犯人でしょ?ならさ…ほら!警察官の務めってやつ?果たしてよ…オレの事、逮捕して、警察まで連れてってよ


雄也:…




雄也(M):素直な言葉とは裏腹に、彼の目は涙で潤んで、キラキラとしていた…




雄也:…そうか…そうだな…


夏希:…え、オジサン?


雄也:じゃあ…お前と


夏希:っ…!


雄也:一緒に、行くか…死にに…


夏希:…え?


雄也:俺も一緒に連れてってよ、君の、死出(しで)の旅に


夏希:な、なんで…そんなこと…


雄也:俺は…なんというか…君の心を救いたい…たとえその選択肢が、死ぬ事だったとしても…それで君の心が救われるのなら、一緒にそうしたいと思った、それだけだ…それに…今、君を署に連行していったら…きっと一生、後悔する…


夏希:…けど、いいの?


雄也:何が?


夏希:いや、だって…そんな事言ったら…オジサンまで、巻き込んじゃうんだよ?…オレと一緒に来たら、死んじゃうんだよ…?


雄也:ああ…いいんだ…もう……俺も、家族をなくして、ずっと1人でこの家にいるのは辛かったから…ここには、あのころの思い出が詰まりすぎてる


夏希:オジサン…


雄也:だからさ…俺も、連れてってよ…


夏希:……っ




雄也(M):もちろん、それは本心ではなかった…矛盾しているかもしれないが、彼には死んで欲しくない…出来れば、生きていて欲しいと、心の隅でそう思っていた…しかし、あの日の事故以来ずっと感じていた、心にぽっかり空いていた黒い穴から、もう二度と埋まることの無い感情が溢れ出して…気づいたら、その言葉を口に出していた…




雄也:…何もかも、全部ぶっ壊して…一緒に行こう…




雄也(M):たとえそれが、妻と娘をひき逃げした、殺人犯の息子であっても…





──数日後(間)





夏希:…はあ…

(ため息)


雄也:…ん?夏希、どうした?


夏希:…んー、いや、なんでもない


雄也:…?


夏希:なんでもないって!ほら、早く行こうぜ!…っぅあ!

(夏希、派手にこけて転びそうになる)


雄也:!っと、大丈夫か?怪我ないか?

(雄也、夏希を抱きかかえる)


夏希:あっ…うん、大丈夫…ありがと…//


雄也:ん、どういたしまして


夏希:…


雄也:…夏希、顔、すこし赤いけど、大丈夫か?


夏希:っ!う、うん!平気!


雄也:そうか、具合悪かったら言えよ?


夏希:うん、ありがとう




雄也(M):あれから数日たった夏の昼下がり…俺たちは「海」を目指していた…俺はあの日、口座からおろせるだけ金を引き落とし、夏希と共に、あの家を出た。少ない貯金ではあったが、それでも、その気になれば海外にだって行ける金額だった…だが、彼は海外に飛ぶのは嫌だと言い、ただ一言「最期に、綺麗な海がみたい」とそれだけ言った。





夏希:…それにしても…雄也さんがオレと一緒に来るって言うなんて、思ってなかったなあ


雄也:え?


夏希:だって、これじゃさ、まるで心中(しんじゅう)旅行だよ?…オレたち、この間、出会ったばっかりなのに、その出会ったばかりの2人が、いきなり心中しようとか…なんか…不謹慎(ふきんしん)だけど、笑えてきてさ…


雄也:ま、まあ…確かにな…というか、ほんとに不謹慎だぞ、それ…


夏希:ふふ、ごめんな!…でも…なんか、なんて言うのかな…こういうの…幸せだなあって思う


雄也:幸せ?


夏希:そう…オレ、さ…雄也さんと出会う前…本気で、1人で誰にも、オレの存在を知られずに死のうって思ってた…でも、あの時…雄也さんと出会って、一緒に行こうって、死のうって、言ってくれた時…なんかさ…ひとりじゃないんだなって…だから、オレ、幸せ者だなって思って


雄也:…?…そんなに、死ぬ事が幸せなのか?


夏希:いや…そういう事じゃなくて……なんか、雄也さんって、結構まじめすぎだよな


雄也:へ?どこが?


夏希:っ…あはは!変な顔!おもしろ!!


雄也:な、なんなんだよ…いきなり…調子狂うな…というか、今の話の何が面白いんだ?


夏希:あははっ!…はぁ〜、も〜、雄也さん、いいオトナでしょ?自分で考えてください〜


雄也:…オトナだって、コドモでいたい時もあるんですぅ〜、俺にだってわかんないこともあるんですう〜


夏希:あはははは!何それ!(笑)


雄也:…ったく…ふふ(笑)


夏希:はぁ〜、なぁんか、久しぶりにこんな笑ったなぁ……あ、ところで、さ、本当にこの近くに綺麗な海ってあるの?というかオレたち、一体どこに向かってるんだ?


雄也:ああ、伊豆(いず)だよ…なんでも、秘境って呼ばれてる場所があるみたいなんだ、俺も行ったことは無いんだけどさ、すごく綺麗だって有名な場所で…多分、もう少しで着くはずだよ


夏希:ふーん、秘境かあ…きっと、すごく素敵で、綺麗なところなんだろうな…


雄也:…あぁ、そうだな…




雄也(M):そう言いながら、悲しそうに笑い、俯(うつむ)く彼の姿を見て、今にも煙のようにどこかに消えてしまいそうで、何故か、とても怖くなった…




雄也:…な、夏希


夏希:ん?なに?


雄也:ん…は、早く行こう…(手を差し伸べ)


夏希:!


雄也:…あ、や、やっぱり、こんなオジサンと手を繋ぐのは嫌だよな…てか、男同士だもんな!はは、ごめん、忘れて…


夏希:…っ、あはは!何言ってんの、雄也さんっ!(手を繋ぎ)


雄也:っ!?


夏希:ふふ!手を繋ぐのなんて、男同士だって関係ないよ!ほら、行こうぜ!雄也さん!


雄也:…お、おう


夏希:…ふへへ


雄也:な、なんだよ?


夏希:いや、父さ…っ……あの人とも、子供の頃とか、こうやって手を繋いで歩いた事、なかったからさ…暖かくて、でっかい手だな…雄也さんの手、安心する…


雄也:…!


夏希:…ほんと、どうして…運命って残酷なのかな……雄也さんみたいな人が…オレのお父さんだったら…良かったのにな…


雄也:…そんなに、その…冷たい、お父さんだったのか?


夏希:…んー…冷たいというか…なんというか…あれを「愛」って呼ぶんなら…多分、あの人は相当、歪んでたんだろうなって、思う


雄也:…それ、どういう事…




雄也(M):その時、タイミングがいいというか、悪いというか…突然、俺のスマホが音を立て、鳴りだした




雄也:!?


夏希:…?電話?出ないの?


雄也:い、いや…


夏希:オレはここで待ってるからさ、出なよ、大事な電話じゃないの?


雄也:…わ、わかった…出てくる、ここでちょっとまっててな


夏希:うん!行ってらっしゃい!



雄也(M):俺はなるべく彼から距離をとり、スマホを手に取る…見たことの無い電話番号からだった…



雄也:…もしもし…?…え、い、石塚刑事…?あ、はい、覚えておりますっ、お久しぶりです




雄也(M):電話の主は、警視庁の『石塚真琴』という人物だった…以前、妻と娘の事故の件で色々とお世話になった、若いエリート刑事だ…どうやら、小阪議員の殺人事件の資料が警視庁に回ったらしく、今回は、夏希の件で、俺に電話をかけてきたという…刑事の勘と言うやつなのか、鼻が利く、というのか…今回の小阪議員殺人事件で、いの一番に俺の事を思い出したらしい





雄也:な、夏希くん…?さあ……俺もあの男に息子さんがいたなんて全然知らなくて…ええ、はい……分かりました、なにかわかり次第、またご連絡します…はい、では…




雄也(M):ピッ…と電話を切る音が、何故か物悲しく聞こえた…それはまるで、7日目の蝉の声のようだった…



夏希:あ、おかえり!


雄也:お、おう…おまたせ、夏希


夏希:…ん?どうかした?


雄也:いや、なんでもないよ…それより、またせたお詫び


夏希:へ?


雄也:はい、これ、アイス


夏希:!わああ!すげえ嬉しい!


雄也:暑い中、待たせたからな


夏希:あ!しかも半分に割るやつだ!


雄也:1人1本買うより、これの方がお得だろ?


夏希:…ふはっ、雄也さん、意外と家庭的だな


雄也:悪いかよ?1人暮しが長いと家庭的にもなりますぅ〜


夏希:あはは!また変な顔〜!笑


雄也:そんなこと言うやつにはあげないぞ?


夏希:え!待って!ごめんって!もう言わない!


雄也:ははっ、冗談だよ、そんな必死になるなよ笑


夏希:だって雄也さんがぁ…


雄也:ハイハイ、悪かったよ…ほら、どうぞ?

(アイスを半分に割って渡して)


夏希:…ありがとう…


雄也:どういたしまして


夏希:…なんか、こういうの、いいな…すごく楽しい//


雄也:そうか?


夏希:うん!!すげえ嬉しいし!…オレ、こういうことされんの、初めてだ…//


雄也:…また、買ってやるよ、アイス、そしたらまたこうして、一緒に食おうな


夏希:うん!!あ、そういえばさっきの電話、誰からだったの?


雄也:っ!…あ、ああ…職場の人からだ…勤務あるんだから、旅行から早く帰ってこいよってさ…無理な話だよな?


夏希:…!……そっか…そうだね


雄也:さ、いこう!あともう少しで着くよ…夏希が来たがってた、綺麗な海に


夏希:…うん




雄也(M):俺を見上げ、悲しげに微笑む夏希の顔が、頭から離れない…このまま本当に、彼と死んでいいのか…彼の命をここで終わらせてしまって良いのか…俺の気持ちはぐらついていた




雄也:はぁ、はぁ…しかし今日は暑いな…夏希、この坂を登りきれば、もうすぐ見えるはずだぞ、がんばろ


夏希:…うん


雄也:………ん?夏希?


夏希:……なぁ、雄也さん、最後にもう1回だけ聞くよ


雄也:ん?何?


夏希:…本当に、オレと一緒に死ぬ覚悟、ある?


雄也:え…?…当たり前だろ…じゃなきゃ、ここまで来ないよ


夏希:…うん、そうだな…そうだよな!…オレの最期に、雄也さんがそばにいてくれて、良かった


雄也:…夏希?


夏希:さあ!早く行こう!この向こうなんだろ、海!


雄也:あ、ああ…なあ、夏希


夏希:ん?


雄也:…なんで、海なんだ?


夏希:え?


雄也:…最期の場所…どうして、海なんだ?


夏希:あー……おかしな話なんだけど、オレさ、実はテレビでしか見たことないんだ、海…だから、最期にしっかりと、この目に焼き付けておきたくて…あの飲み込まれそうになるくらい…惹き込まれそうなくらい…二度と戻って来れないくらいに、暗くて深くて…蒼い綺麗な海を、さ


雄也:…夏希


夏希:さ、そんなことより!早く行こう!

(夏希、雄也の手を引いて)


雄也:…!……あ、ああ




雄也(M):グッと引かれた夏希の手が、少しだけ冷たくて、少しだけ、震えてるように感じた…




夏希:…っはあ…は…っ!………あ……


雄也:は、はぁ……夏希?なんで急に止まって……っ!…ぁ……


夏希:………綺麗…


雄也:…ん…やっと、着いたな…


夏希:うん…着いたね……綺麗だね、海…


雄也:……あぁ…




雄也(M):遠くから微かに聞こえる、波の音…半分、夕焼け色に染まった空色の水を…登りきった坂の上から、ただ、2人で眺めていた…その時間が、まるで永遠のように感じて……俺は夏希の手を、強くぎゅっと握りしめた




夏希:…雄也さん、オレ、このまま…近くに行ってみたい


雄也:え?海にか?でも、もう暗くなるぞ?


夏希:いいじゃんっ…どうせオレたち…もうここで終わりなんだから


雄也:…っ…夏希…


夏希:行こう、雄也さん


雄也:っ…まって!

(グッと夏希の手を掴み引っ張り)


夏希:っ!?…雄也さん?


雄也:…待ってくれ、夏希


夏希:なんで止めるの?


雄也:……っ…


夏希:っ…なんで止めるんだよ!?


雄也:…っ!…いや、だって…夜の海は危ないから…


夏希:は?危ない?何言ってんだよ雄也さん、これから死ぬんだろ?オレと一緒にっ……まさか、今更、怖気付いた?


雄也:…っ!…ち、ちが……


夏希:違うの?ならなんで止めたんだよ?オレはもうさ、終わる場所を見つけたんだ…オレの、最期の場所に着いたんだよ………さっき聞いたよな、雄也さんに…オレと、死ぬ覚悟、あるんだよねって


雄也:っ…夏希…


夏希:死ぬんだよ、雄也さん


雄也:……


夏希:ほら、行こう

(繋いだ手を強く引いて)


雄也:…っ……あぁ…




雄也(M):グッと、夏希に力強く手を引かれながら…自分の震える手を見つめて、言葉が、声が出なくなった……怖くなったわけじゃない…怖気付いたんじゃない…そう、自分にずっと言い聞かせた…ただ、夏希の顔が…態度が…急に変わった事に…寒気を覚えた




(夜の浜辺にいる夏希)




夏希:……


雄也:夏希…いつまでそんな暗いところにいるんだ


夏希:いいの…このまま見てたいんだよ、海


雄也:……はぁ…(夏希の横に座り)


夏希:……なあ、雄也さん…(雄也の肩に頭を置いて)


雄也:ん?


夏希:…出会った時にさ、聞いてきたよな……なんで、あいつ…父さんを殺したのかって


雄也:…うん


夏希:…あの男さ…お前なんか、生まれてこなきゃ良かったって…言いやがったんだ


雄也:……は?


夏希:お前みたいな、家族の恥さらしは…この家にはいらないって…いきなりオレの事、階段からつき飛ばそうとして…親父に殺されかけた…あいつ結構、酒飲んでたし、酔っ払ってたのもあったのかもしれない…けど…でもさ!…限度って、あるよな…オレ、それで…殺されるって、思って、怖くなったんだ……それで、あいつと階段で揉み合いになって…逆にオレが、階段からあいつを突き飛ばして…そしたら…動かなくなって…


雄也:…そうだったのか……けど、それは…正当防衛じゃないか…


夏希:確かにそうかもしれない…でも、殺意はあったんだ……ずっと、ずっと…この手で……殺してやりたいって思ってたから…


雄也:…お前はよく頑張ったよ…


夏希:……頑張るって、なんだろうな


雄也:…え


夏希:オレさ…学校でも、家でも、ずっと独りで…孤独だったんだ……雄也さんも知ってるだろ?父さん……あいつが、交通事故を起こした事……オレ、それからずっと、友達だと思ってたヤツらからも、先生からも影で、「人殺しの息子」って言われ続けて…あいつも、母さんも、あの日からいつも喧嘩して…家族はバラバラ……あいつはずっと、家で酒ばっか飲んでるし…母さんは、夜になればふらっと不倫相手に会いに行って……オレはどこに居ても、ずっと、独りだった


雄也:…夏希


夏希:……オレも、さ…また昔みたいに戻りたかった…戻りたかっただけなんだ…学校でも、家でも…友達とか、家族とかと、他愛のない話して…オレ自身も、笑って居られる場所を取り戻したかった………でも、オレがいくら頑張っても頑張っても…ほつれた糸は元に戻らなかった………ねぇ、雄也さん…頑張るって、なんなんだろうな…オレのしてきたことって、全部…無駄だったのかな…


雄也:…そんな事ないよ…頑張った分はちゃんと返ってくる…


夏希:…けど…結局、こんな事になってしまった…オレは、本当に人殺しになって…


雄也:夏希、今は何も考えるな…(夏希の肩を抱き寄せる)


夏希:…父さんのせいで……雄也さんの家族も…もう二度と戻ってこないのに…?


雄也:…っ!?


夏希:…父さんのせいで…オレの、せいで…ごめん…本当にごめんなさい…(徐々に涙声になり)




雄也(M):いつの間に気づいていたのか…それとも、初めからわかっていたのだろうか…最後まで秘密にしておこう、そう思っていたことが知られていたことに…俺は戸惑いを隠せずにいた




夏希:…なあ、雄也さん…オレの事…殺したい?


雄也:……え?


夏希:だって、オレ…雄也さんの家族をひき逃げして殺した男の…息子だよ?殺したいって思わないの?


雄也:何言ってるんだっ…思うわけ、ない


夏希:…なんで?


雄也:夏希は夏希で、お父さんはお父さんだからだよ…ひき逃げしたのは、夏希じゃない、お父さんだ、お父さんの罪なのに、それを君が全部背負うのは、償うのはおかしいだろ…?…お父さんの罪で夏希が苦しむのは、間違ってる


夏希:…雄也、さん…


雄也:だから、夏希を恨むなんて絶対しないし、夏希を殺すなんて出来ない…初めに言ったろ?俺は、夏希のことを救いたいって…夏希を助けたい、笑顔でいて欲しいんだ


夏希:…っ…そんなこと…オレ、初めていわれた…(泣)


雄也:…君は何も悪くない、悪くないんだよ


夏希:…っ……(泣)


雄也:…夏希…まだ、死にたいって思うか?


夏希:……わかんない…そんなの…今、頭ぐちゃぐちゃで…わかんないよ……(泣)


雄也:…そうか…


夏希:………雄也さん…オレ…まだ……生きてても、いいのかなぁ……(泣)


雄也:…!当たり前だろ!そんなの、いいに決まってる!……正直に言えば…俺は夏希にまだ、生きていて欲しい…確かに生きていればこれから先、苦しい事も辛いこともあるかもしれない……それでも、命があるだけで…生きてるだけで偉いんだ……生きていいんだよ、夏希


夏希:……っ…(泣)


雄也:……考える時間は必要だよな…俺はちょっと散歩してくるから……その間にどうするか、自分で答えを出してな?

(夏希の頭を撫で、立ち上がり)


夏希:……


雄也:夏希?


夏希:……ん…わかった……もう少しだけ、考えさせてくれる…?


雄也:あぁ…




雄也(M):…夏希は、涙で潤んだ悲しい瞳で夜の海を見つめながら、静かに言葉を口にした…今思えば、それが、いけなかったのかもしれない…彼を1人にさせてしまったことを、俺は今でも後悔してる




夏希:……生きてて、いい…か……




(間)




雄也:ん…もうすぐ朝か……夏希、まだ帰ってこないな……どうしたんだ………行ってみるか




(朝日が昇る前の浜辺)




雄也:夏希ー!おーい!…どこいった?夏希ぃ!どこだ!?なつ…き……っ!?




雄也(M):その光景を見て、俺は一瞬、目を疑った…夏希はもう既に、体の半分まで、海に浸かっていたのだ




雄也:っ!?夏希ぃ!!なんで!?どうして!?


夏希:……っ…雄也、さん


雄也:夏希、ダメだ!行くな!戻ってこい!!


夏希:……っ…


雄也:…っ…何してる…早く、こっちに来るんだ!!

(駆け寄ろうと海へ入る雄也)


夏希:…っ!来るなぁ!!

(ナイフを自分の首に突きつける)


雄也:…っ!?


夏希:来るな!!…それ以上近づいたら、このナイフで首を切る……それに…もう、決めたんだ…オレ……やっぱり…ここで…死のうって


雄也:な…な、に言って…それに、そのナイフ…どこから持ってきた…?


夏希:初めから持ってたよ…あの家を出る前に、持ってきてたんだ…雄也さんには内緒 にしてた…いざって時のためにね…


雄也:…っ…なぁ、お願いだ、夏希……戻ってきてくれ、考え直してくれ!俺はお前に、死んで欲しくない、生きていて欲しいんだ!!


夏希:そんな勝手なエゴでオレを縛りつけんなよ!!!


雄也:……っ…………夏希…


夏希:……大人って、みんなそうだ…子供の意見を、言葉を……最後まで聞こうとしなくて…都合が良くて…見たものしか信じない、聞いたものしか信じない…そのくせ、同情だけは上手くてっ!……みんな…みんな…っ……(←泣き始める)


雄也:勝手はどっちだ!俺は、そんな大人とはちがう!勝手に同じにするな!!


夏希:っ…!


雄也:俺は!! ……俺は、本気で、お前を心から救いたい…俺と一緒に、生きて欲しいんだよっ!!


夏希:ゆ…雄也、さ…


雄也:……好きだから


夏希:…っ…え?


雄也:お前の事が好きなんだっ…愛してるんだ…!お前が大事なんだ!おかしいと思われてもいい…本気で愛してる!こんな感情…初めてなんだよ…だから…お願いだ……俺のためにも、戻ってきてくれ……自分のために、生きてくれ…!!


夏希:……っ…雄也さん…ずるいよ、それ……そんなこと、言われたら…


雄也:…夏希…ほら、戻ってこい…

(その場で手を伸ばして)


夏希:……っ…

(雄也の手を取ろうと近づき伸ばすがやめて)


雄也:…?夏希?


夏希:…だめだ、だめだよ…雄也さん…オレ……その手は取れない……だって、雄也さんの手は…まだ綺麗だ……(笑顔で泣きながら)


雄也:な、つき…?


夏希:オレの手は…こんなにも…真っ赤に汚れてるのに…っ…(自分の手を見て)


雄也:っ!何言ってるんだ!夏希は綺麗だよ!!


夏希:…ふふ…嬉しいな…そう思ってくれるのが、雄也さんで…本当に良かった…

(笑顔で泣きながらナイフを首に突き立て)


雄也:っ!?夏希、何をっ…


夏希:いいんだ、もう!…オレ、今、すごく幸せだよ…雄也さん…雄也さんだけでいい…オレの事、綺麗だって、人殺しじゃないって…そう思ってくれるのは…雄也さんだけで…雄也さんが、真実を知ってくれてれば、オレはそれだけでいい…!


雄也:っ!は、早まるな!夏希!


夏希:死ぬのは、オレ1人でいい

(泣きながら微笑んで)


雄也:やめっ…


夏希:さよなら、ありがとう、オレの大好きな人





雄也(M):次の瞬間、夏希は、自分の首を切った…赤い閃光が、首から迸った(ほとばしった)……まるで何かの映画のラストシーンを見ているようだった……俺は、夏希を止めることが出来なかった…その場から動くことが出来なかった……ただ、力なくその場に座り込み……血を流しながら、朝日が昇る海に沈みゆく、彼の姿を見つめることしか……出来なかった…




──それから、数年後(間)




雄也:……ふぅ、今日も暑いな…まるで、あの日みたいだ…



雄也(M):夏希がこの世から居なくなってから、3年ほどの月日が流れた…残暑が続く9月上旬…俺は毎年この月になると、夏希のことを思い出す…あの日拾った、雨で濡れた綺麗な毛並みの、金色の猫……笑ったり、怒ったり、すねたり、喜んだり、泣いたり…コロコロと変わるその顔が、とても愛おしくて……けど、もうどこを探したって…君の笑顔は見えない…君の姿は見つからない



夏希(M):雄也さんっ!ありがとうな!

(明るく、満面の笑みで)



雄也:…最期の夏の…愛の逃避行…か…はは……夏希、そっちでもちゃんと笑ってるか?…俺も早く、お前に会いたいよ…夏希…






エピローグ・プロローグ


雄也:…ああ、石塚刑事…お久しぶりです…あの時はありがとうございました……あれからもう3年も経ったんですね…ところで、知ってますか?最近噂になってる、未解決事件の犯人を探し出して殺してるって言う、殺人鬼…あれ、実は俺なんですよ…嘘じゃないです、証拠も、ここに……なぜ俺に話したか、ですか……そうですね……俺も、もう、疲れてしまったんですよ…だからあなたに、この役目をお願いしたくて…なぜ俺に?って……わかってるじゃないですか…俺達、「大事なものを失ったもの同士」だからです…分かりますよね?…人を殺しても、平気でのうのうと生きてるヤツらが蔓延ってる…そんなクソみたいな世界…俺達の手でリセットしましょう………それじゃあ、後は任せました…さよなら、石塚真琴刑事…



雄也(M):そう言って、俺は石塚真琴の横を通り過ぎ…気づけば、都会の夜の海へと、足を向けていた



雄也:…はぁ…これでようやく…お前のところにいける…待たせてごめんな、夏希…俺も今そっちに行くからな…まってろよ…



───銃声が鳴る



雄也(M):さあ、終わりの始まりだ…




─終わり─ 




あとがき


「死」が終わりなんて、一体、誰が最初に決めたんでしょうね…?