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更夜飯店

Tommy トミー

2018.09.01 01:52

Tommy トミー

Tommy

2005年2月4日 DVDにて

(1975年:イギリス:111分:監督 ケン・ラッセル)

イギリスのロックバンド、WHOのピート・タウンゼントが作ったロック・オペラの映画化。

台詞は全くなしで全て歌です。ロック・ミュージカルというのは最近見かけなくなりましたけれど、『ジーザス・クライスト・スーパー・スター』『ヘアー』『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(ロックといえるかわかりませんが)カルト的人気を持つ『ロッキー・ホラー・ショー』など70~80年代はたくさんありました。

そんな中で、センスがずば抜けて個性的、出てくるミュージシャン豪華、名曲ぞろい・・・というのがこの『Tommy』ですね。

あらすじは簡単です。戦争で夫を亡くした美しい未亡人(アン・マーグレット)が息子トミーを連れたキャンプで、キャンプの支配人をしている男(オリバー・リード)と出会い、結婚。しかし、ショックな場面を見てしまったトミーは、心因性の盲目、耳が聞こえない、口がきけないという三重苦になります。

青年になったトミー(WHOのボーカル、ロジャー・ダルトリー)を治そうと、怪しげな伝道師(エリック・クラプトン)、麻薬の女王、アシッド・クィーン(ティナ・ターナー)にみせ、またイジワル従兄弟や変態叔父さん(WHOのドラマー・キース・ムーン)にいじめられても、何も感じず何も見えないトミー。しかし、ピンボールの才能があることからチャンピオンになって、世界の寵児になってしまう。

・・・と文字で書いてしまうと、あ~なんてつまらないんでしょ。

30年前の映画ですから、音楽も当時のロックを知っている人にはなつかしい感じ。特撮といっても今ほど高度ではない・・・のですが、やはりケン・ラッセルのセンスは30年先、いや100年先を読んでいました。今、観ても全く古くない内容なんですね。

むしろ、今の病んだ心、家族関係の崩壊、戦争、暴力、権力、刹那的な流行、話題、信仰心といったものに対する問題の解答をずばり、描いてしまっているのです。

一曲が1エピソードという形をとっていて、まるで絵本の頁をめくるように次々とリアルで爆裂したイメージが飛び出るロック絵本。

しかもエリック・クラプトンはヘロヘロ~だし、ティナ・ターナーは顔、唇、手足、全身ぶるぶるぶるぶるふるわして圧倒するし、ピンボールの前チャンピオンのエルトン・ジョンは、笑ってしまうくらいデフォルメされてます。(歌う曲は名曲「ピンボールの魔術師」だよ~)

一曲でエピソードを語ってしまう上手さが一番光っているのは、「サリー・シンプソン」という曲です。スーパースター、トミーに憧れて憧れて・・・家を飛び出る少女サリー・シンプソンのいきさつを歌って、トミーがどれだけ権威を持つようになったかをてきぱきと描いています。

大人達があれこれと大騒ぎするなか、1人"see me, feel me, touch me,heal me"とトミーの心の叫びが繰り返されても誰も聞こえないし、トミーを治すこともできない。そのむなしさもしつこいくらい繰り返されます。

母親役のアン・マーグレットが素晴らしく美しいのですね。どんなに恵まれた生活になってもトミーの心の傷を作ってしまった罪悪感から逃れられなくて・・・という役ですが、女優捨ててますね、というくらいの熱演ぶりでも、どこか冷え冷えとしたクールさがあります。

そしてラストへ向けての開放感。トミーはなにもかも捨てて自由になるのですが、ロジャー・ダルトリーが若々しくて、痛々しい姿から解放されたあたりの映像と音楽は凄いものありますよ。

私はこのサントラ何度も聴いて、歌詞覚えてしまっている状態なのですが、言葉というのは音楽と一緒に覚えるといいんだなぁ、なんて今更ながら思ってしまいました。