千の天使がバスケットボールする。
2018.09.04 07:30
中原中也、日本の近代詩人の中では、今なお多くの読者を得ている、魅力あふれる詩人。
帽子の下からのぞく黒い瞳は、どこか寂し気で、でも何かを強く訴えかける、そんな印象をもたらし、私たちの心をとらえて離しません。
中也の詩の中で、一番好きな詩は何か、と問われれば、私は「宿酔」が大好きです。「酔い」が「宿る」と書いて、「しゅくすい」あるいは、「ふつかよい」と読みます。
ふつかよいの朝、覚醒と酩酊の間を、ふらふらとさまよう感覚を、中也は、「千の天使がバスケットボールする」と表現しました。なんとも鮮やかな比喩です。若さの光と影を、シュールで美しく、それでいてどこか物寂しさの漂うイマージュで表しているのです。
30歳という若さで世を去った中也、永遠の青春の時を、いまこの瞬間も、歩んでいるのかもしれません。
何かに「酔う」とい感覚は、大人になってゆくプロセスで、初めて味わう感覚ではないでしょうか。酒に酔う、芸術世界に酔う、恋に酔う、喜びや悲しみに「酔う」etc。
あるいは、何かに思い切り酔ってみたいとき、この詩、中也の「宿酔」を思い起こすかもしれません。
調布FMラジオ「神泉薫のことばの扉」2018.6.23放送分アーカイブにて、中也の「宿酔」、ぜひ聴いてみてくださいね!