下北山村 森のしごと記 第4回
8月のとある日の昼下がり「金原さん。大丈夫です。まだあと1本あります。大丈夫です。がんばって。」と励ましている私の言葉はとても期待していました。既に一ヶ所に3本打ち込んだ釘が曲がり、4本目の釘を手渡す私には、金原さんのプレッシャーが痛いほどわかります。(村の広報誌8月号参照)でも、一見協力隊員間の美しい気遣いの言葉のように聞こえても、そこには悪魔以外のナニモノでもないどっす黒い期待が込められていたのです。
(マガレマガレマガレマガレ・・・。)
釘は曲がっても笑顔の金原さん(内心どきどき・冷や汗)
画(かく)して、期待どおりに4本目が曲がり5本目でようやくその場を収めた金原さんは、全身汗まみれで息も絶え絶え。そうなんです。やっぱ釘打ちって、体力も精神力も消耗するんです。でも本当に怖いのは私の人間性が蝕(むしば)まれていることかもしれません…。恐るべし釘打ち。
5本目で成功!がんばった証です
さて、今回で4回目の森のしごと記は、広葉樹の植栽についてご紹介します。下北山村の多くの里山では「桧(ひのき)」と「杉(すぎ)」といった針葉樹が育てられてきました。場所によってはそれらの樹木が育つのにあまり適さない場所もあったようで、これらの土地では軒並み生育状況が良くありません。地域おこし協力隊では、こういった土地に適した樹種を選んで植えていく奈良県の事業に積極的に参加しています。その名も「混交林誘導整備事業」です。
【混交林誘導整備事業(こんこうりんゆうどうせいびじぎょう)】
混交林誘導整備事業で伐採された針葉樹の伐採地(パッチ)
パッチ状のギャップをあけ広葉樹を植えた昨年の現地
鹿に苗を食べられないように獣害対策用ネットの整備もしっかり行います
混交林とは針葉樹と広葉樹が混ざった林であることを意味しています。現在下北山村で行われている混交林誘導整備事業は、既にある針葉樹林のうち樹木の生育が良くない場所を選んで伐採し、その開いた場所に広葉樹の苗を植えて育てていく事業です。そもそもの理由として桧や杉の生育が良くないから樹種を変更するのですが、その他に、高さや根の張り方が異なる複数の樹木が存在することで山の土砂が崩壊しにくくなったり、家具や、建築用材や、シイタケの原木などといろいろ活用できたり、病虫害に強くなったりと、多くのメリットがあるようです。
え?桧や杉の生育が良くない場所に広葉樹を植えてもやはり生育が良くないのではないか?ですって?私もそのように思ったのですが、そこは、あまり心配する必要がないようで、土壌の質や日当たりの良さ悪さなど、生育の向き不向きを見極めた樹種を選び、適地に適木を割り振ることでうまく育つそうです。そうか、だいぶつらい環境で頑張っていたんだな。混交林適地の桧と杉は。私も昔つらい職場があったよ(涙々)
広葉樹の種子を苗床に蒔く谷内協力隊員(左)と石丸先輩(右)
さてさて、これだけの紹介でもお判り頂けると思いますが、この混交林誘導整備を推進するためには、相当高度な植物の生育に関わる知識や地質、土壌、水、日光などなど、幅広い自然環境の知識が必要不可欠であるとともに、さらに、日頃から下北山村の里山を歩き木々の生育の良い場所、良くない場所などを把握しているこの地域に特化した超レア情報を併せ持つ人材が必要です。いやいや、そんな想像絶する特異な人いるわけないでしょこんな小さな村に。
えっ? いるのぉ?! つづく
参考:2022年に取り組んだ 混交林誘導整備事業についてはこちら