わたしの身体 〜15年の間、燻っていた思いをここに
私は海外に住んでいる。
今日、子宮がん検診に行ってきた。
病院で、担当のナースのお決まりの説明(検査の目的や流れなど)を一通り聞いた後、私は言った。
「毎回この検査が怖くて泣いてしまいます。今日もそうかもしれません。それでも検査を進めてください」
この一言を言うだけで、これまでの15年くらいのアレコレを思い出して情けない気分になり、泣きそうになっていた。ナースは同意し、一番小さい器具を使うことにしようと提案した。(検査器具を膣に突っ込む必要があるため)
これまで、検査がうまくいかなかった理由はこんなだ。
・性的なトラウマのカウンセリングを受けろと提案され、紹介状を書いてもらった先の機関には、そういうサービスがなくなっていた。
その上、私が問い合わせるまで何ヶ月間も放置されていた。
・紹介状を書いた医者からその後、「紹介状を出せる機関はないから自分で探してくれ」と言われた。
・何年も経ち、今の病院で紹介状をもらい、さらに何ヶ月か待って、やっとセラピーを始めたものの、最初の1-2回で「これは、役に立たないのでは・・」と疑問を持ってしまった。
いつも疲れている私はセラピーに出る事がとても苦痛で、2回ほど欠席。改めて予約した時はセラピストが来ていなかった。受付で「メールで問い合わせてみます」と言われたが、結局、連絡は来なかった。
ベッドの上で寝転がっていると、検査が始まった。私はナースに「ゆっくりやってほしい」と頼んだ。
検査の途中で、私はやはり泣き出し、ナースが器具を押込もうとした時に恐怖で叫んでしまった。ナースは悪い人ではなかったが、今までの他の殆どの医者やナースと同じように不器用で、態度や手順が強引に感じた。ナースは検査が流れ作業的に終わるのを期待していたようで、私の様子を見て当惑していた。
ナ:泣いたり叫ばれたりしたら、これ以上検査はできません。
私:泣くのは恐怖を感じるからで、叫んだのは、ゆっくりやってくれって言ったのにゆっくりじゃなかったからだ。
ナ:私はゆっくりやった。
私:あなたにとってゆっくりでも、私にとってはそれはゆっくりじゃない。もっとゆっくりやってほしい。
ナ:一番小さい道具を使ってるんだ。こんな状態では検査はできない。私は15分しかないんだ。別の人を予約し直してくれ。
私:どうか進めてくれ。今日終わらせてください。いつやったって、泣くのは毎回同じだから。ここの予約を取るのも医者と話すのも毎回面倒なんです。
ナ:いいですか、ここはあなたのかかりつけ医ではなくて、そこから依頼された別の機関だ。あなたのかかりつけ医の事は私にはよくわからない。でもとにかく私にはこれ以上できない。
私:今日終わらせてください。またこの状況を繰り返したくない。私はこの検査をやり直すために予約し直したり検査を待つことにまた手間をかけるのは疲れてしまうんです。
ナ:自分で挿入してくれ。
そう言われて、私は自分でやろうとする。使った事のない器具で、使い方も指導されず、なかなか器具が入らない。なんとかゆっくり押し込もうとするが、ナースはすぐに痺れを切らす。
ナ:足を開いて。
私は体が強張っているが足を開こうとする。
ナ:もっと開くんだ。言うことを聞いてください。あなたが叫ぶから検査ができない、もう服を着てくれ。
私:私の言う事を聞いてないのはそっちの方だ。
私は言い返した。
私:私の言うことをちゃんと聞かないで、遮ってばかりだ。怖いのに叫ばない事はできない。私もできる限り努力してるんだ。
ナ:じゃあどうしてほしいんだ?
私:私は最初から、ゆっくりやってくれ、検査をやってくれ、それしか言ってないだろう。
しばらくこのような会話が続き、結局は無理で、後日、別の機関で検査をすることになった。私はぐったり疲れて、家に帰って夕方まで寝てしまった。他にやりたい事あったのに。私が子宮がん検診で泣いてパニック状態になるのは、何のせいか。私が神経質な性質なだけか?私はどうしたら楽になれるんだろう。
性的トラウマのためのカウンセリングを受けるように言われたのは、医者に性的トラウマがないかと聞かれて、それっぽい昔の思い出を話したからだ。
私が5歳くらいの時に、暗い倉庫で、いくつか年上だった友達のお兄さんに、膣に指を突っ込まれたり(それか自分でやる事を強要された?記憶があやふや)、おしっこをして見せろと言われた。恐怖で体が固まった。当時、この件を母親にうまく説明できなくて「次は断れ」とだけ言われた。「それができたら苦労しないのに」と思い絶望的な気分になった。その後もう1度だけ同じ事がおこった。例えば今、これを何も知らなかった父親に言ったりしたら楽になるんだろうか?
性にまつわる嫌な思い出は他にもいくつかある。
痴漢にも何度もあった。夜道で後ろから知らない男に羽交い締めにされてどこかに連れて行かれそうになった事もあった。(叫んで追い払った後、警察を呼んだ)
ありふれた事かもしれないし、関係ないことかもしれないが、男性教師の体罰もあった。父に殴られたことは何度かある。繰り返し蹴られた事が1度ある。私が風呂に入っている時に耳の遠い祖父が風呂に入って来ようとするのが薄気味悪かった。夜道で男性2人組のひったくりにあって意識を失い倒れていた所をパトロール中の警察に保護された事もある。
性行為も得意ではなくてなかなか苦労してきたけど、そういう人は結構いる気がする。私が付き合った男の人達は基本、みんな優しかった。むしろ私の方が酷いことをした。
自分は性被害者とかサバイバーとか言うほどじゃ全然ないなと思う。みんな小さな暴力や体罰の経験があると思う。友人の中には、もっとずっと明らかに酷い性的被害にあった人達がいるが、パートナーを作ったり、1人は子供もいて、私より強く、幸せそうに生きている。1人は裁判を起こし、もう1人はいつか本を書くと言っている。
今となっては、子宮がん検診の時に泣いてしまう理由は、性的トラウマというよりはむしろ、今いる国で医療を受けることのめんどくささ、言葉のちょっとした壁、セラピスト、医者やナースの態度、などを含めた医療システム全体に対する不信感と、その他のフラストレーションのような気もする。
15年の間に受けた医療サービスを振り返ると文句は色々出てくる。
・私の話を聞いて治療方針に反映したとしても、次に会う医者は経緯を知らない違う人になる。(総合的判断をしろという方が無理だ)
・マニュアル的な対応。(人の顔を見て!)
・1回の面談では1つの症状についてのみ話せという。別件は別で予約しろと言う病院の方針。(治療の対象は病気1個1個じゃなくて人だぞ?)
・検査で症状の原因が見つからないと「問題ありませんでした」と言う医者。(問題はあるけど原因を見つけられなかっただけだろ)
・受付に提出した申請用紙がどこかで消えてシステムに登録されていない。気づいた医者がその事に驚かない。謝罪もしない。(それでいいの?)
妥当な治療を受けているのか、いつも不安が残る。苛立ちや怒りを見せたり泣いたりすると、医者に敬遠される。医療システムが事前に準備しているものを受け取ることしかできない。患者がそれにうまく合わせられないと、治療を受けることができないし、できても自分に必要なものじゃなかったりする。
私は、「強いもの(医療システム)に自分をうまく合わせられないと、社会から守られないこともある」と言うことを実感し続けた。
医療システムを利用する際に、患者側に求められるリテラシーのレベルが結構高くて、自分がそれに達していない気がする。ただ、こんなことを医療に関わる人たちが認識さえしていてくれたら、人はもう少し安心できるのではないかという気がする。現状、どうもそうは感じられないが。
私が医療の提供側の苦労を知らず、神経質なクレーマー気質で、被害者意識が強いから愚痴や文句が多いのだろうか。小川たまかさんの『たまたま生まれてフィメール』で医者にかかることの大変さを書く章「自分の具合悪さは自分にしかわからない」を読み、大いに共感したのでこれまで15年の間、燻っていた思いをここに残すことにした。