『体幹のインナーマッスルの正しい使い方の学習』は、腰痛治療に重要ではありません④
おはようございます。理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
3回にかけて、『体幹のインナーマッスルの正しい使い方の学習』と腰痛治療の関係に関して書いています。この話は今日で最終回です。
前回の記事では『モーターコントロールアプローチとグレーデットアクティビティの比較に関する論文の結果』に関して書きました。
結論として、単純に言えば、『インナーマッスルの使い方の学習はそこまで重要ではなく、効果は同様で、コスト的に優れているグレーデットアクティビティをまず使うべき』となるかと思います。
しかし、少し深読みすると、もう少し話は複雑です。というところで終わりました。
今日はこの続きです。
忘れてはいけないのが、この研究は、『モーターコントロールエクササイズを支持する研究チームによって行われた研究である』ことです。
つまり、意識・無意識かはわからないものの、『モーターコントロールエクササイズ』に有利なバイアスが働いていた可能性があります。RCTはバイアスをコントロールするための高度に洗練された手法ではあります。ですが、バイアスを完全にコントロールすることはできません。
例えば、製薬会社がスポンサーになっている研究では、通常の4倍、ポジティブな結果が出やすいという報告もあります。つまり、いかにRCTであっても『研究チームにとって有利な結果が出やすい』という方向のバイアスのコントロールはとても難しいんです。
したがって、実際の効果は、モーターコントロールエクササイズは、良くてグレーデットアクティビティと同様、もしくは劣る可能性が高いと私は考えます。
さらに、脱落した人数が、モーターコントロールエクササイズは10人、グレーデットアクティビティは4人です。もしかしたら、効果が無くてやめたのかも知れません。もしくはモーターコントロールエクササイズは複雑なトレーニングですので、付いていけずに諦めてしまったのかも知れません。
脱落した患者のデータをどのように扱ったかは記載が見つけられませんでした。もし、これらの患者データをより厳しく扱うとすれば『効果がなかった』として扱います。そうなった場合、脱落の多いモーターコントロールエクササイズはより不利になります。ただ、これは残念ながら記載がないので、わかりません。
通常、RCTは日常診療と比較してかなり手厚く管理されています。それでもモーターコントロールエクササイズでは1割以上の方が脱落してしまった計算になります。これが通常の診療であればもっと脱落者増える可能性が高いです。
以上から私は、 『インナーマッスルの使い方の学習は、腰痛に対して効果が乏しいか無い。別の方法を考慮すべき』と考えます。
一応、念のため書きます。私は、モーターコントロールエクササイズにも、ホッジス先生を筆頭にした研究チームにも恨みはありません。むしろ、基礎研究から積み上げて、モーターコントロールエクササイズの構築まで行ったチームとして非常に尊敬しています。残念ながら、『患者を対象とした臨床研究でいい結果が得られなかった』というだけです。このようなことは薬の開発でもよくあることです。情熱と費用をかけて、いい所までいったけど最後のところで、いい結果が出ない。残念ながら、この段階でのモーターコントロールエクササイズは腰痛治療として使うことはできないけど、素晴らしいチャレンジだし、また内容を少し変えるなどして再度、臨床試験を行って欲しいです。なんか、上から目線の文章の様な気もして恐縮ですが、いちリハ専門職として、研究チームの皆さんには尊敬と、さらに発展した治療法を待っておりますという気持ちしかありません。
積極的なチャレンジは、医学の発展のためには欠かせません。ですので、モーターコントロールエクササイズの研究チームの取り組みには手が腫れ上がる位、拍手したいです。
ただ、この様な結果を受けても現状のモーターコントロールエクササイズを支持していたり、インナーマッスルの使い方を指導し続けているリハ専門職の方に関してはなんとも言えませんが。。。。
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございました。
理学療法士 倉形裕史