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Ryouko Aomasa/蒼政涼子 Piano Home page

骨折日記7(最終章)〜愛しいヒギー〜

2018.09.05 14:43

ヒギーと共に暮らすようになってから気付いた事が、色々ある。

「普通に歩けるって凄い事なんだ」

足が折れていては、家のトイレに赴く事すら一仕事なのである。

インドア派の私だが、インドアでありながらやはり、足は使っていたのだな…


それから、

「今迄生きて来た内で、一番、見ず知らず人に優しくして貰った」

乗り物で、席を譲って下さる方のなんと多かった事か。

電車内、お仕事帰りの、疲れ切った目をしたサラリーマンの方が、わざわざ少し離れた私の所まで来て「座って下さい」と一言。

私は一駅だけの移動だったので、御礼と共に丁重にお断りした。

夜の混み合いまくる時間帯の東西線。一度誰かに席を譲れば、そこから、座れない可能性の方が高いのに。

 

私が優しくして貰った、と今まで感動していたが、書きながら気付いた。

ヒギーが優しくして貰っていたのだ……。

「ヒギー、お前、ずるいぞ!私より、人に優しくして貰って!この」

『ダッテ、ヒギーダカラ。』

「ぬぬ…」


それから、外をノタノタ歩いていて、目に止まった景色もある。

道路脇の空き地とも言えぬ位の小さなスペースにひしめく、背の高い雑草の群れ。

その群れの中に、毅然として立つ、一本のムクゲの木。胸のすく様な白い花を幾つも咲かせ、夏の風に身を任せて揺れる様子は、それはそれは美しく、胸を打たれた。

「こんな所でも、こんなにも白く咲くんだな」

ヒギー、お前はギブスに守られてノンビリとしているが…少しはムクゲ殿を見習いなさいっ!

『ヒギーノ包帯モ、白イ』

そういうんじゃ無いけど、ま、所詮私の分身の考える事は知れている。


朗読なみさんとの本番。

ギブスを取り外され、テーピングでカチカチに固定されたヒギーは、無事役目を終えた。

その夜、お風呂で少しムクムクしたヒギーを洗い、労った。

「ヒギー。良い子にしてて偉かったぞ」


最近、ヒギーはよく眠るようになった。

ヒギーの足に体重をかけても、飛び上がる程の痛みは感じられない。

色はまだ紫だし、やはりギブスを長時間取ったままだと痛みは出る。

それでも、折れた直後2.3日の地獄とは比べ物にならない。


「ヒギー。お前が居なくなっても、忘れないよ。一緒に頑張ったもんね。でも、居なくなった後で、また会いたいか、て言われたら、まあ、会いたくない。ごめん」

『謝ルナ。オレモ会イタクナイ』

ヒギーは少し痩我慢をしている様でもあるが。そんなヒギーが可愛いのだ。


「ヒギー、いつか、ヒギーの事を、朗読劇にするよ。友達がね、ヒギー物語、聞きたいって。リクエスト貰ったんだよ!良かったね」

『トモダチ…リクエスト、沢山キタ?』

「…一人です」

『……』


あと少しの間であるが、

私は、ヒギーと呑気に暮らして行く構えである。