絵本『アンガスとあひる』
読書の秋、子供たちが無条件にこの作品を受け入れてくれるでしょう。その理由はこの記事の後半で説明いたします。
物語は外では常に首輪とリードで繋がれているスコティシュ・テリアのアンガスが、繋ぎのない隙を狙い家を飛び出し気になって仕方がない隣の音の正体を突き止めにいくというお話です。
犬を飼っている私にとってみればこの作品は犬のあるあると小さな子供たちのあるあるとが重なって頷ける点が多くあります。我が愛犬も子犬の時には鏡に映る自分の姿を見てはけたたましく吠え、ガラス窓に映る影に驚いて後退りをしたかと思えばすぐに確かめに行くなどこのアンガスと似た行動のオンパレードでした。子供もまたアンガスと同じ行動をし鏡をじっと見たり舐めに行ったり、少し動けばその動きを真似る鏡に映る自分の姿を不思議そうに見つめます。
アンガスのように生垣を超えて音の正体を確かめに行くのは人間の赤ちゃんも同じ。ハイハイをし始めた頃はアンガスのように音の聞こえる方へ音源を確かめに行きます。そしてその音源を何度も確かめ音と距離や音とものとの関係性を記憶するなど多くのことを学んでいきます。主人公のアンガスもまたこの生垣の向こうの音源が誰の発するものかを学び、そこで起こったことを記憶し多くのことを学んでいくのです。
子供たちがこの作品を好んで夢中になり何度も読んでくれるのはアンガスと同じ好奇心を抱いていることのみならず、アンガスの行動自体が子供自身の中に存在していることに共感できるからです。子供の絵本には主題が分からない作品がありますが、その多くが子供自身がその作品の中に自分自身の姿を重ね合わせ投影しているのです。
我が家のやんちゃで困る愛犬も庭に訪れる磯ヒヨドリの親鳥に突かれてアンガスのように逃げ帰るなんてこともありました。時にやんちゃさを抑えるためには衝撃的な経験をさせることも必要だと改めてこの作品で再認識します。人間の子供もそのようなことを経験すると羽目を外すことも少なくなるかもしれません。親もまたこの作品を通して子供の頃を回想して童心を思い出して作品を読んでみるのもいいかもしれません。