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すずまき*本と、紅茶と、あの頃と。 #1

2018.09.17 11:00



#1「ハチミツとクローバー」× キャンブリックティー


「ハチミツとクローバー」(以下「ハチクロ」)と出会ったのは、今から12年前。

当時のわたしは、かなり追い詰められた生活をしていました。


大学を卒業し、某金融機関の窓口で働き始めて10年目に突入。

その春、8年以上勤めた居心地の良い店舗から、田舎の小さな小さな店舗へ転勤し、実質その店舗のNo.2の地位にいました。

だらだら仕事をしてちっとも帰ろうとしない上司と、会話のキャッチボールができない後輩の間に挟まれながら、20時21時は当たり前、日によっては22時くらいまで続く残業の毎日。


一方プライベートでは結婚して3年。

突然(でもなかったけれど)個人事業主となった夫(今の夫とは違う人です)の収入はほとんどなく、毎日家にいるのに家事は何ひとつしてくれない(わたしも「手伝って」って言えなかったのが良くなかった…)。

残業して帰宅して、ご飯作って掃除して洗濯して…。

常に睡眠不足の状態で、家事の合間に紅茶を飲むことだけが唯一の救いでした。


そんなわたしが「ハチクロ」を読んで思い出したのは、主人公たちと同じ、大学時代。

あの頃は毎日が楽しくてキラキラして、仲間とくだらないことでワイワイ騒いでたよなぁ…。


卒業して10年。

あの頃見た夢は、一体何処へ行ってしまったんだろう?


わたしは、今ここで、一体何をしているの?


家計を支えなきゃ、という思いだけで、好きでも得意でもない仕事に振り回されて。

夫は好き勝手やりたい放題なのに、何故わたしだけが我慢しなきゃいけない?

毎日に流されて、自分が何をやりたかったか、何が好きだったかさえ、わからなくなっていました。


「ハチクロ」の登場人物たちは皆、悩んでも迷っても、自分自身の核、のようなものを持っている。

自分にとって、大切なものは何か、ちゃんと最後には自分の手で掴んでいる。


わたしも、「自分探しの旅」をしなきゃいけないのでは?


…それからわたしは、自分の好きなことって何だろう、やりたいことって何だろう、と自問自答の日々を過ごします。

ただ単にストレスやプレッシャーから逃げるための手段だったのかもしれません。


同じ年の秋から、紅茶コーディネーター養成講座を受講し始め、翌春には資格取得。

その上の資格・紅茶学習指導員にもチャレンジし、こちらも無事資格取得。

同じ春、10年勤めた某金融機関を退職しました。


それからの10年間は、自分でもびっくりするくらい激動の時代となりました。

縁もゆかりもない土地での生活、夫との別居、再就職、離婚、二度の入院・手術、婚活、再婚…。

あの頃には想像もできなかった心穏やかでのんびりした生活を、今は送らせていただいています。


「ハチクロ」の世界は一見甘く、ふわふわしていて柔らかく優しい。

でもただスウィートなだけではなく、ちゃんとその裏に苦さとか辛さ、厳しさや鋭さが隠れています。

人生も同じ、甘くて優しくて、それでいて苦くて苦しい。


そんな「ハチクロ」に合わせたい紅茶は、キャンブリックティー。

キャンブリックティーとは、蜂蜜入りのミルクティーのことです。


キャンブリックティーの水色(すいしょく※液体の色のこと)は、まるで昔大好きで大事に大事にしまっておいた本の、色褪せた紙の色みたい。

蜂蜜はただ甘いだけではなく、どこかほろ苦く、ミルクティーは優しくまろやかだけど、後に残る紅茶の味は、ほんの少し渋い。


あの頃の辛さや苦さを、時間という蜂蜜とミルクが、まろやかに優しく包み込む…懐かしさに似た、キャンブリックティー。


あの頃のわたしに、「ハチクロ」と出会った頃のわたしに、温かいキャンブリックティーを淹れてあげたい。

いろいろあるけど大丈夫だよ、と、ぷっくぷくのティーコゼーで包み込んであげたい。


ああ、今このひとときが、「あの頃の未来」というものですか?


そして今のわたしはまた「ハチクロ」を読みながら、キャンブリックティーを飲んでいる。

次の未来に向けて、旅を続ける。

ビターでスウィートな気持ちを、たくさん胸に抱えながら。


「ハチミツとクローバー」羽海野チカ 著
集英社クィーンズコミックス(2002年〜2006年)






photo & text by すずまき


紅茶コーディネーター、紅茶学習指導員。
普段は某大学で図書館司書(パート)の仕事をしています。
学生の頃の夢は「良妻賢母な司書の小説家」…とりあえず
「妻」と「司書」にはなれました。
書くことが好きで、書き出すと止まらなくなります。






新連載「すずまき*本と、紅茶と、あの頃と。」始まりました


 小さなころから本が友達、なんてひと…

多いんじゃないでしょうか?

かくいうわたしも、そのひとりでありまして。

そして傍らにはいつも、

お気に入りのカップに入った

その日の気分に合わせた飲み物を用意します。

もしかしたらすずまきちゃんの選ぶ紅茶は、

本の世界に入り込むための

魔法のアイテムだったりしてね?


 ー夏色インコ