我々は皆道半ばで倒れる
【wording】
スティーブ・ジョブズの妹で作家であるモナ・シンプソンがスタンフォード大学の教会で執り行われたジョブズの追悼式で語った一節。
“We all — in the end — die in medias res. In the middle of a story. Of many stories.”
「我々は皆――必ず最後には――道半ばで倒れるのです。物語の途中で。たくさんの物語の途中で」
“ in medias res” ラテン語で、「物事の中途へ」という意味で、中途から語りだす文学・芸術技法のことを指す。次のa storyも気になる。LA在住のスマート・ガイに訊ねてみると……。
ーー人生とは沢山のストーリー(stories)の積み重ねでできている、そして今のストーリ(a story)の途中でと 言っているのでしょう。 of many stories のofが自分の人生の積み重ねのofだと思います。送る言葉ですから詩的に情感を込めている。 もっと穿って言えば、ジョブスだから「輪廻転生」思っていたかも。それをモナは聞いていたかも。つまり、いくつもの人生を生まれ変わって、いま「今生」に生きているという認識ならば、stories は「過去生」で、単数のa storyが今生とも読めますね。で、次の「来世」へーー
モナはジョブスの血を分けた兄妹です。
シリアからの留学生であったアブドゥルファター・ジョン・ジャンダリとジョアン・キャロル・シーブルは、1955年に結婚より先に男の子を授かり、厳格なキリスト教徒であったキャロルの父親がジョンのイスラム教を嫌って結婚はできなくなり、その胎児はお腹の中にいるうちに養子に出されることになった。そしてジョブズ夫妻の養子になり、スティーブ・ジョブズと名付けられた。
その後ジョンとジョアンは1957年に結婚し、モナという娘が生まれた。だが、彼らはモナが若い時に離婚した。
1980年代にジョブスは実母ジョアンを追跡し、そして見つけた。彼女はシンプソンという人と再婚していた。そして、モナ・シンプソンというジョブスの実の妹がいることを伝えた。
兄妹(ジョブス30歳、モナ28歳)は1985年に初めて出会い、兄妹愛と親しい友情関係を育んだ。
ジョブスはマンハッタンで定期的にモナに会っていた。モナは「兄と私はとても仲がいいし、私は彼をとても尊敬している。」と話し、ジョブスは「私たちは家族だ。彼女は世界中で最も親しい友人だ。私は毎日彼女と電話したり話したりしている。」と話していた。
シンプソンはすでに彼らの父親ジョンを見つけ出していた。その時にはコーヒーショップを経営していたが、かつて、ジョンは、シリコンバレーの有名な地中海料理のレストランを経営していたことがある。
「バレーの連中はみんな来ていた。ああ、スティーブ・ジョブスもね。彼はチップを素晴らしく弾んでくれる上客だった」。
なんと波乱万丈の人生であったのだろう。そのロスのエンジェルが「storyにhisがついてhistoryになる」と付け加えた。たしかにスティーブ・ジョブス自身が煌めくようなHistoryだ。
はなむけの言葉を送る者もモナ以外誰もいないだろうとも思う。