終わらない物語
終わらない物語
Dastaneh Natamam(Story Undone)
2004年11月23日 有楽町朝日ホールにて(第5回東京フィルメックス)
(2004年:イラン=フランス=シンガポール:83分:監督 ハッサン・イェクタパナー)
イランから外国へ違法移民をする人々のドキュメンタリー映画を作ろうとする監督とカメラマンの2人。
この2人が、移民たちを追ううちに巻き込まれてしまう騒動をユーモアをもって描いています。
監督はかつてアッバス・キアロスタミ監督の助監督をしていたということで、車中の映像とか、映画を作ろうとする人を主人公にするとか・・・後で聞くとなるほど、と思います。
違法移民というのは難民ではなくて、色々な理由から自分から望んでヨーロッパの国々に移民したい、と思っている人たちなので、その理由は様々。経済的なもの、許されない結婚から、離婚して子供を取り返して・・・などなど。
最初は、バスに許可を得て乗り込んで撮影しようとしても皆、黒の仮面で顔を隠している。取材はダメだと言われ、バスから放り出される。しかし2人はヒッチハイクをして、国境へ向かう彼らの後を追う。
警察に見つかった時にとっさに、「これは映画のロケなんですよ、皆役者なんですよ」という監督の機転から、2人はこの一行になくてはならない人になってしまうという皮肉とユーモア。
風景はのどかで、一見ピクニックしているようでもありますが、内心は皆、ドキドキです。
しかし、彼らはとにかく国を脱出すればあとはフランスやイタリアでいい生活、自由な生活が出来る、と安直に考えているようでもあります。国境を越えれば、物語はめでたしめでたし、なのだ・・・と。
監督とカメラマンは、彼らと同行していく内に、国境さえ越えればいいのか?という疑問を抱く。一行の中にも国外に逃げるのを辞めようといいだす人も出てくる。その人間模様がテキパキと描かれています。
映像はあくまで明るく、クリアであまり緊張感はないように見えますが・・・国境近くになると緊迫したムードになります。
監督は違法移民を肯定も否定もしない、と言っていますが、他の国なら楽園なのか?という素朴な疑問からです。
映画の中の映画監督もそれに気づき、この物語は終わらない、いつまでも続くのだ、とカメラマンに持ちかけます。
先の見えない展開、意外な心変わり、緊張感とのどかさの出し方、とてもスムーズで引き込まれる映画でした。