戦場の中で
戦場の中で
Maarek Hob(In the Battlefields)
2004年11月24日 有楽町朝日ホールにて(第5回東京フィルメックス)
(2004年:レバノン=フランス:90分:監督 ダニエル・アルビッド)
舞台となるのは1983年内戦時のレバノンですが、映画の中では戦闘や戦場は一切出てきません。
町に住む、比較的裕福な一家の家族模様です。
しかし郊外では戦闘が続いており、爆撃や爆撃機の「音」は、ことあるごとに聞こえてきます。戦闘は音だけで表現しています。
12歳のリナは、戦争のことなどあまり関係なく暮らしているけれども、家庭の中、父と母の不和、叔父、叔母たちとの諍いが絶えない。ということで、タイトルの戦場とはずばり、家庭です。
内戦中ということで、学校にも行かず、一番の友達は18歳のメイド、シハム。シハムは、厳しい叔母が雇っているメイドだけれどもリナにとっては姉であり、友達であり、時には母のように感じています。しかし、シハムはボーイフレンドと遊びたくて仕方ない。
そこでリナを連れて、デートに行きます。そこでリナは「外の大人の世界」を見ることになってしまい、内心興味津々。
家族の喧嘩がよく出てきますが、あ、爆撃だ!というと喧嘩は中断、家族は地下に避難して「音」を聞いている。家族の喧嘩を描くにしても爆撃の音でさえぎられて、なんとなく中途半端でおわってしまい、それがつもりにつもって・・・というアイディアが秀逸です。
父は無神経、母は神経質で、自分の事ばかりでリナの事は、あまり深く考えていないようですが、実は12歳なりに色々な物を見て、考えているのです。そこら辺の描き方がとても丁寧。
ダニエル・アルビッド監督自身の経験から、だそうですが、実際、町中に住んでいる人は戦闘なんて目にしたことがない、でも音はよく覚えています、と話されていました。
リナはおとなしくて比較的従順だから、親に反抗するということはない分、その中に鬱積しているもの、とても大きいと思います。
これはレバノンだから、内戦だから・・・ということに関係ない「戦場」ですね。そこが、世界の誰が観ても共感を得られる所だと思います。リナ役の女の子が見つめる時のまなざしの強さ、とても印象に残りました。