世界で一番悲しい音楽
世界で一番悲しい音楽
The Saddest Music in the World
2004年11月27日 有楽町朝日ホールにて(第5回東京フィルメックス)
(2003年:カナダ:99分:監督 ガイ・マディン)
ガイ・マディン監督は特にサイレント映画が好きなようで、わざとサイレント映画のような雰囲気を持たせつつ、現代の政治経済を皮肉るような独特の世界観を作り上げているところが見所かと。
1985年に書かれたカズオ・イシグロのオリジナル脚本は、ロンドンが舞台。
ペレストロイカの影響で崩壊した東西ドイツの経済・・・特に東ドイツに西の資本主義・・・酒、ビールといったものが流出するかもしれない所をじっと伺っているイギリスの資本主義を皮肉ったものを監督の故郷であるカナダの北部の街、ウィニペグ、時代は1930年代、大恐慌時代に移し替えています。
大恐慌時代というのは、アメリカでは禁酒法の時代で、カナダは酒類には自由だったのですね。
そこでカナダのビール会社が、アメリカからの酒の要望があるだろうと見込んであるイベントを企画する。それが「世界で一番悲しい音楽」を国別で競うコンテスト。勝利者には高額の賞金、コンテストに勝った国はビールのプールにダイビング!という禁酒法に苦しんでいるアメリカから見たら、とっても贅沢なことを見せつける訳です。
・・・といった背景は映画を観ている間は全く気が付きません。これは後になって、そうだったのか~と思う部分です。
特にアメリカに対するイジワルな視線ですね。
ウィニペグに滞在しているブロードウェイの演出家、その父と兄、イベントを企画する謎の女。この人物関係を中心にして描かれます。この父と兄と弟・・・父がカナダ代表、兄がセルビア代表、弟がアメリカ代表となってコンテストで争うことになるように、とっても仲が悪い。そこには親子、兄弟で「女性」を奪い合うという複雑な事情がからんでいて、とにかく憎み合っている。
何故コンテストが「悲しい音楽」を競うのか・・・というのも実はこの弟(とってもお調子もので、独善的)のせいなのですが、コンテストを思いつき、主催する美しい謎の金持ち女、イザベラ・ロッセリーニが、この弟のせいで不幸な身の上になっている・・・しかし彼女は自分は悲劇の女、不幸な女・・・と悲劇に酔いしれているような怪演ぶりで怖いけれど笑ってしまう、ひとりよがりの悲劇ごっこの延長なのです。ですから国別のコンテストも笑いを誘う珍妙なものの連続。
モノクロが突然カラーになり、外は雪に閉ざされた閑散とした街なのに会場はビールに酔った人々であふれかえっている、そこで悲しい音楽を競う、バカげたことを堂々とやって悦にいっている金持ち、ガラスにビールを満たした脚に狂喜する女・・・ホラーのようで実に皮肉に満ちた笑いでもって不思議な人々を描く・・・ガイ・マディン監督のセンスって誰にも真似できないものがありますね。