珈琲時光
珈琲時光
2004年10月1日 渋谷 ユーロスペースにて
(2003年:日本:103分:監督 侯考賢(ホウ・シャオシェン)
小津安二郎生誕100周年を記念した映画が台湾の監督による「東京物語」というのはとても新鮮ですね。
日本人ではない監督の目に映る東京は静かで、古き良きものがまだたくさん残っていて美しさがあふれています。
東京というと、『ロスト・イン・トランスレーション』が渋谷や新宿の高層ビルやネオンサインなどを見ていたように、侯考賢監督の目に映る東京は路面電車、電車、古本屋、喫茶店・・・視点の違いでしょうが、観ていて落ち着くのはこちらの映画の方です。
ひとりの女性を通して、友人、その両親の様子を静かに眺めるそれだけの映画。会話も日常会話がほとんどで事件も何も起きない、淡々とした日常。
監督の視線が優しくて、なんとも言えない郷愁がわいてきます。
この映画はお茶の水、神保町、有楽町、日暮里、雑司ヶ谷・・・まだまだ下町の雰囲気が残っているところが舞台になります。お茶の水から見る電車・・・中央線、総武線、丸の内線が横から下から交錯して走っていく・・・そんな風景は私は子供の頃から見慣れた風景なのですけれど、普段見慣れているものをこうして改めて見てみるととても不思議な風景です。
電車の中から見る外の風景。すれ違う電車。街の古い柳の木の豊かな緑。
東京という都会の古さを見つけ出す、そんな映画です。
喫茶店も昔ながらの喫茶店・・・一杯の値段は今流行のコーヒー・ショップよりは高いかもしれないけれど、そこに座ってゆっくりと本を読んだり、会話をしたり・・・珈琲を通した時間が過ごせる場所。私は未だにそういう喫茶店が好きなのですが、そのゆったりとした落ち着いた雰囲気に浸れる世界です。
主人公を演じた一青窈は、地味でなく派手でなく自分のスタイルをきちんと持っている女性ですが、孤独を孤独と感じない強さと頑固さを感じさせる・・・子供が出来ても1人で育てていくと言い切る、そんな一面も持っています。
友人、肇の浅野忠信は古本屋なのですが、そんな背景がぴったりあう不思議な透明感を持っていて、知的でやはり孤独です。孤独と孤独が一緒にいても依存にならない透明感が出ているのに驚きますが、それも風景のひとつ。
両親も娘が1人で子供を育てるということに戸惑いますが、かける言葉が見つからず、見守るだけですが、静かな中でも迷いと戸惑いが立ち上ってくる、小林稔侍と余貴美子が自然で上手いです。
これは東京物語というひとつのファンタジーですね。