CEO 最高経営責任者
CEO 最高経営責任者
首席執行官
2004年10月20日 銀座 松竹試写室にて
(2002年:中国:116分:監督 ウー・ティエンミン(呉天明)
今年開催されたアテネ・オリンピックでも、中国の勢いというのは目を引いたのですが、経済の面でも発展はめざましいものがあります。
雑誌『フォーブス』や『プレジデント』に載るような「話」ではあるのですが、この映画で描かれているハイアール・グループのCEO(Chief Executive Officer)チャン・ルエミン氏は「映画やテレビなどの映像化で自社をアピールする気はない。宣伝するための映像作品は必要ない」と言ってハイアールを描くこと、ハイアールの名称を使うことに反対したそうです。ね?これだけでもう雑誌の電車吊り広告のコピーになるでしょう?
1985年青島の家電メーカー、ハイアール社の工場は800人の従業員と147元の負債を抱えた零細企業。そして工場長にリン・ミンが就任するところから映画は始まります。時代的には文化大革命が終わって何もかもが白紙になってしまった時期。
まず、ドイツの企業から設備投資を受けようとドイツを訪れるリン・ミンとその片腕の女性副工場長ですが、そこで言われる言葉は「中国は工業では遅れている。花火は世界で一番だが、工業で我々に追いつくには50年かかる」
数百年前の発明品だけが中国の取り柄なのか・・・深く傷つくリン・ミン工場長ですが、その後17年間で年間売り上げ806億元の巨大メーカーグループ、特に冷蔵庫のアメリカ市場の3~4割を占める企業に成長する、その過程を描いています。
中国では高級品は外国人向け、粗悪品は中国人向け・・・という中国人の従業員の固定観念を壊すため、粗悪品の冷蔵庫を従業員の目の前で全てハンマーで壊してしまうのです。(これは中国では有名な逸話らしいです)そして製品に等級分けはしないという方針を打ち出す。
何よりも高い品質を!を目標に資金繰りに苦労しながら着実に事業を拡大していくのですが、いつもあるのは「中国は人件費が安い、安く物が作れる、金さえ出せば中国の企業は飛びついてくる」という外国企業の目。ハイアール社に提携や合併を持ちかける企業はたくさん出てきますが、結局、「下請け産業」・・・どんなにいい条件を持ちかけられても、商標は中国のハイアール社であることにこだわります。
先入観で見下されることには決して甘んじない。その姿勢が潔くて純粋にかっこいい~と思います。
部品だけ作らせて、商標は有名外国ブランドが当たり前の市場で、中国の国営企業でもない一企業は入り込む余地はない、ように思えます。
また、世界の目も厳しいけれど、「中国は下請けが当たり前」という国の風潮にも対抗することになります。国営企業には低金利で融資を持ちかけるけれど、一般企業は融資は受けられない。しかし、熱意でその融資権を獲得。
監督の目は常に、1人の働く男の謙虚でかつ理想に燃える反面、常に先を読む分析力・想像力の強さを強調しています。
しかし次々と襲ってくる壁の数々に、時には意見よりも断行、と決断力を示す勇気も熱意あふれて描いていて、その意気がびしびし伝わってきます。
ヨーロッパ市場に参入するとしたら、一番基準の厳しいフランスから手をつける。楽な道は選ばない。結果的にはその後がスムーズになるのでした。
そのストレートさがとても気持ちいいというか、高揚するというか・・・
1985年当時通訳兼右腕だったチャンは、ハイアール社がアメリカ企業と合弁の話が持ち上がるあたりでグリーンカード欲しさとハイアールの将来に見切りをつけてアメリカ企業に転職してしまいます。
そして後に、それなりに成功したチャンがリンと出会った時に「金を稼ぐだけになってしまった。あのころの気持ちはなくなった」と言います。その気持ちとは?と聞かれて「主人公の気分」と答えるところが説得力ありますね。
自分が主人公の気分で働いてみたい、と思いますね。
今、企業で猛烈に働いている人は映画を観る余裕なんてないかもしれませんが、これは中国の国民意識高揚だけの映画ではなく、どんな仕事でも働く人全ての人に通用する映画です。
中国映画らしい志の高さとプライドの問題がよくわかる映画でもありますね。