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更夜飯店

2046

2018.09.09 11:24

2046

2004年10月23日 錦糸町シネマ楽天地にて

(2004年:香港=中国=フランス=イタリア=日本:監督 ウォン・カーワイ)

ウォン・カーワイ監督はわがままで贅沢で勝手な監督。そのわがまま、贅沢、勝手が気持ちよくなる映画を、映像を作り出すことには右に出る者はいないのではないか、と思わせる、香港60年代トリロジー完結編です。

『欲望の翼』『花様年華』でそれぞれ彷徨っていた人々は、今回は映画の中の近未来小説『2046』の登場人物たちと二重に重なって彷徨います。冒頭、小説『2046』の文章が、木村拓哉のモノローグになって、〈2046〉へ向かうミステリートレインが動き出す。〈2046〉では何も変わらない、過去を愛しく思う者には理想郷であり、過去を忘れたい者には耐え難い場所。しかし〈2046〉から戻ってきた者はいない・・・唯一戻ってきたのが、タク(木村拓哉)。しかし、何故戻ってきたのかは本人も答えられない。何故なのだろう。

そして舞台は60年代の香港、『花様年華』の続きになります。美しい人妻(マギー・チャン)との恋愛が成就しなかった新聞記者チャウ(トニー・レオン)は新聞記者から小説家になる・・・そして見つけた『花様年華』の時と同じ「2046」号室。このアパートには姉妹(フェイ・ウォンとチャン・ツィイー)がいる。

2046号室の前の住人は『欲望の翼』のルル=ミミ(カリーナ・ラウ)

そして繰り返されるのは『花様年華』で、カンボジアにたどり着いたチャウの「誰にも言えない秘密を木に穴をあけて話す。そして土で蓋をしてしまう。そうすれば秘密は永遠に秘密になる」

いつしか小説を書いているチャウはミステリートレインの乗客、タクと重なり、女性たちは皆、客室乗務員のアンドロイドになって現れる。彼女たちは機能が悪くなっていて、感情が出るまでに時間がかかる。笑うにも泣くにもしばらくしないと表情にならない。

シーンは唐突に切り替わり、登場人物たちは、香港を離れ彷徨う。チャウは凧の糸が切れたように女遊びにふけり、アパートの妹と情事を重ねる。その女遊びに本気になっていく妹。姉は日本人のビジネスマン(木村拓哉)と恋に落ちる。「一緒に行かないか」と話すけれど、姉の反応は遠すぎたり、近すぎたり・・・安定するということがない。一緒にいて、とすがる妹にチャウは冷たい。

過去がいつまでも忘れられないチャウの刹那的な生活。

時間を止めてしまうような編集の仕方、目眩がするような色合いと不安定なアングルのカメラ、美しいチャイナドレスに身を固める女達、あてどなく彷徨う男達。色々な人が次々と現れ、彷徨い、また出て行ってしまう・・・その贅沢さ。

何もかもが浮遊していて落ち着くことのない人間をある意味、きちんと描いています。

それぞれの人物たちに結末はあるけれども、どれが本当の結末なのかはわからない。その「わからない」が気持ちいいという不思議な迷宮。

コン・リーの黒い手袋、チャン・ツィイーの高いハイヒール、フェイ・ウォンのぴかぴかと光る靴の裏。

言葉は北京語、広東語、日本語がお互い通じ合う・・・言葉の壁を一切とりはらってしまったアジアの混沌。

私はこの混沌ムードが味わえれば、この映画はいいと思います。意味ばかり追求しても答えはない、それが答えのようだから。