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小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 1

2023.10.14 22:00

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 1

 高鋼が一人いるだけで、前回は天皇暗殺というかなり重い話でありながら、うまく話を進めることができていたのであるが、今回はその話がなかなか前に進まない。陳文敏にしても、大沢三郎にしても、高鋼を通じて中国共産党のトップにその話が伝わってしまうということが、なんとなく話を重たくさせていた。そしてそれが二人がどこか今までと異なる関係になったかのような会話しかできない状態になっているのである。

「やはり日本側から漏れたのでしょうかね」

「まさか。そんなことはないでしょう。そもそも、日本側から漏れていたら、日本の天皇を殺す話なのですから、もっと大きな話になっていたに違いありませんし、きっとマスコミが大きく動いていたに違いありません。」

 大沢は、高鋼を通じて中国のトップに、日本側の不手際があったといわれるのは避けたいと思っていた。何しろ、そのうち日本はなくなり、中国の傀儡政府として自分がこの日本の支配者になると考えていた大沢にとって、中国から任せることができないなどと思われることは絶対に避けなければならないのである。その意味では、前回の天皇暗殺の失敗は、中国側が何らかの形でかんよして、そちらから漏れたことにしなければならないのである。

「しかし、大沢さん。中国側といっても、共産党のトップも、あまり詳しく計画までは知らなかったのですから、そのような意味では中国側から話が漏れるようなことはなかったと考えるべきでしょう。いくら中国共産党でも、知らないことは話すことなどはできませんよ」

 陳文敏は、これ以上自分の立場が悪くなるようなことはない。次は自分は投獄されるか、暗殺されるかのどちらかでしかないのである。そのような内容であるところで、中国共産党を擁護する必要はない。しかし、一方で本当に共産党が関与して秘密が漏れたとは思えない。

「では日本であると」

「そこで今回は松原さんを呼ばなかったのです。」

「松原隆志を・・・・・・ですか。」

 松原隆志。改めて言えば、日本における共産党革命を推進している「日本紅旗革命団」のリーダーである。はっきりいって、日本の中で最も天皇を暗殺したいと思っている男であり、また、前回も爆弾などをすべて仕込んでいる。それどころか、京都の事件の前に、福岡の地下鉄爆破事件も、またその前の皇居石垣破壊事件や霞が関爆破事件などを起こしているのである。その意味では松原自身は全く疑うような人間ではない。

「いや、松原とは言わなくても、松原の部下や、またはすでに引退している野村秋介などは怪しいのではないでしょうか。」

 陳文敏は、そのようなことを言った。

 そういえば、大沢も不思議に思ったことがあった。

「そういえば、会場でうまくゆかず、平城京公園に場所を移した時に、関係ないはずなのに野村秋介が若い衆を何人か連れてきていた。なぜ野村はあそこにいたのだ」

「野村ですか」

 陳文敏は、野村秋介を直接知らない。そのころ日本にはほかの人が日本の華僑の代表として来ていたのである。

「そういえば、その野村も京都の木津川の会場に来ていた。手伝いに来たとか言えば、理解はできるが、何故平城京公園などに来ていたのであろうか。観光で偶然などということはあり得ない話ではないが、ににわかに信じられるような話ではない。そのように考えれば、日本紅旗革命団の中で松原は何らかの内容の開示があり、その内容が組織の中のどこからか政府に漏れたというように考えるべきではないか。その確率はゼロではないのか。」

 大沢は、つぶやくように言った。

「あの松原の団体が原因かもしれませんね」

 陳文敏もそういうことにした。高鋼の手前、そのように行ってしまうのが最も良い。しかし、陳文敏はやはり共産党のトップか、人民解放軍はが何らかの形で日本人に漏らし、それが大使館などから政府につながったとしか考えられなかった。 

 それにしてもこの二人は、どうしても自分の行動に問題があるとか、何か反省するということが全くできない人々らしい。

「で、どうするんです。陳さん。そもそも次はやらないのかな」

「いや、やりますよ。いや、次に失敗したら私も命はありませんよ。」

 陳文敏は、食事に手を伸ばすふりをしながら、ちらっと、高鋼を見た。しかし、高鋼は全く微動だにしない。本当に人間なのかと疑ってしまうほどだ。

「命がなくなるのは、なかなか大変ですね」

 大沢は、笑いながら、やはり高鋼の方を見た。こちらは遠慮したり、見ることを隠したりするようなことはない。少し厳しく、また、俺のことも監視するつもりかというような、疑いの目でしっかりと目を向けた。そのような厳しい目で見ているにもかかわらず、高鋼はどこを見ているか、そもそも目が見えているのかもわからないほど、全く動かなかった。

「で、次はどんな風に」

 このような話は、本来ならば声を潜めて行う話だ。どこに聞き耳をたてられているかはわからない。しかし、大沢は全く警戒心もなく大声で話した。

「次は、秘密が漏れても問題が内容にやらなければなりません。」

「なるほど」

 大沢は「秘密が漏れても問題がない内容」というのがなんだか全くわからなかった。まだ、暗殺の延長線上であろうと思っている。そのことから、普通に酒を飲み、そしていつも通りに料理をとっていた。象牙に似せたプラスチックの箸では、油が強く餡がかかっている料理は取りにくい。しかし、中華料理というのは、本物の素材は中の方に入ってしまっていて、衣がついていたり、その上に餡がかかっていたりというように、なかなか料理の中心であるはずの「素材」に行き着くことが難しい。また、素材だけになってしまうと、料理が急においしくなくなってしまう。まるで、中国人の話し方や仕事と同じで、表面の方は非常によくとりつくろうのであるが、本質の部分はあまりおいしくない。

「その為には、日本の協力者は少なくして、なるべく中国の人を使いたいと思います。」

「私は協力しなくてよいのかな」

「いえ、大沢先生にはお願いしなければならないことは少なくないのです。しかし、松原さんではちょっとよくないかもしれません」

「ほう」

「日本に対して宣戦布告をしようと思っていると、伝わっております」

 この陳文敏の言葉を聞いて、さすがの大沢も息をのんだ。その瞬間、箸で掴んでいたはずのエビのチリソース和えが、机の上に落ち、そのまま床にまで転がった。そのルートにちょうど赤い線が、まっすぐないようでいて、ところどころぶれてしまっているかのように線ができた。

「戦争をすると」

「もちろんです。戦争ならば、松原さんを使う必要あありません。いや、使うとしても、その役目は全く違うところになるかと思います」

 確かにそうだ。テロリストに戦争は無理なのである。

「それで松原君は呼んでいないのか」

「まあ、すぐに戦争になるわけではありません。しかし、何があってもよいように準備をしておかなければなりません。その内容はこんな感じです」

 陳文敏は、やっと本題に入ったかのように話し始めた。