不器用が愛おしい 『オオカミのはつこい』
-不器用が愛おしい-
『オオカミのはつこい』
文:木村 裕一・絵:田島 征三 / 偕成社
思わず微笑み、思わず吹き出し、なんだかほっこりする、
それらにあるのは、「かわいい」を感じる心の中の根っこ。
不器用で、一所懸命で、そのまんまでいいんだよ、が伝わる絵本。
躍動感とピュアさを感じる絵のタッチが、
主人公のオオカミの心と一体になって、より一層愛おしさを増す。
不器用って、
恋って、
かわいくて、
なんて素敵なんだ。
そして、なにより・・・
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『オオカミのはつこい』
オオカミはこのもりでいちばんつよいどうぶです。
そんなオオカミがのはらをズンズンあるいていると、
「ん?」
むこうにしらないオオカミがいました。
「なんだあいつは?ここはオレのなわばりだぞ。」
ドンドンとあしをふみならしてちかづいていくと、
「えっ!」
オオカミはドキンとしました。
くるりとふりむいたそのオオカミは、なんとすてきなメスのオオカミだったからです。
「ああ、こんなにかわいいメスにあったのははじめてだぜ。」
オオカミはいつかこんなひがくるのをまっていました。
「よし!オレといっしょにこんやのつきでもみないかって、いってみるか」
オオカミはメスオオカミのほうにあしを1ぽふみだしてかんがえました。
「でも、まてよ。こんなにかわいいんだもの。
オレなんかよりもっとかっこよくて、すてきなともだちがいるかもしれない。いやなかおをされたらどうしよう。」
オオカミはやっぱりやめることにしました。
「でも、せっかくであったんだし、このままかえったら、いつかオレがしぬときに、ああ、あのときどうしてなにもいわなかったんだって、こうかいするかもしれない。」
オオカミはやっぱりいくことにしました。
「でも、ことわられたらいやだな。
オレなんかよりもっともっとつよいオスがすきにちがいない。」
オオカミはやっぱりやめることにしました。
「でも、まてよ。」
オオカミは、じぶんがもりでいちばんおおきなクマともともだちで、
ハイイロオオカミだってやっつけたことをおもいだしました。
「ぐふっ、そのはなしをしたら、きっとおれのことをすてきっておもうかも。」
オオカミはやっぱりいくことにしました。
オオカミはズンズンとあるきはじめました。
メスオオカミがすぐめのまえです。
オオカミのむねがドキンドキンとしてきました。
「よし、いまだ!」
オオカミはおおきくいきをすいこむと、
「やあ、じつはオレってすごいんだぜ。」
いいうつもりでしたが、くちからでたのは、
「や、やあ、おはよう。」とひとこだけ。
あとはダーッともどってきてしまいました。
オオカミはなさけなくなりました。でも、すぐにきをとりなおして、
「そうだ。うまくしゃべれなくても、かっこいいところをみせればいいんだ。」
オオカミはじぶんがえものをつぎつぎにつかまえるところをあたまにうかべました。
メスオオカミはきっと、「まあ、すてき!」っていうにきまってます。
さっそくメスオオカミのちかくにいくと・・・・・。
いました、いました。
しげみのなかにえものがみえかくれしています。
オオカミはえいっととびかかりましたが、
ノネズミはぱっとにげてしまうし、ウサギはさっとあなのなか。
ここだ、とおもえば、またあちら。
そうかんたんにつかまってくれません。
「えい!あ、こら!まて!こんどはそっちか。」
そのすがたは、まるでおどけておどっているみたいです。
とうとうオオカミは1ぴきもつかまえられずに、めをまわしていました。
「ああ、もうだめだ。」
オオカミはあたまをかかえました。
「よし、こうなったら。」
オオカミは、ハイイロオオカミをやっつけて、つよいところをみせようとかんがえました。
おおごえでよんでみると、すぐにハイイロオオカミがやってきました。
「おれさまになんかようか?」
「おまえなんかまたぶっとばしやる!」
「よし、くるか。」
オオカミはハイイロオオカミにたいあたりしようとはしりだしました・・・・・が、
「うわっ!」いしにつまづいて、「あ~れ~。」