今週の書評で気になった本 10月第3週
10月14日(土)毎日新聞書評欄
10月15日(日)神奈川新聞書評欄より
書名:思い出すこと
著者:ジュンパ・ラヒリ
訳者:中嶋浩郎
出版社:新潮社
価格:2,200円(税込)
ISBN: 978-4-10-590190-5
『大停電の夜に』で日本でも広く知られるようになった、ジュンパ・ラヒリの自伝的な最新作。詩集と紹介されていたけれど、小説のような筋道も伺える。
両親の出身地であるインドのベンガル語、生まれ育ったアメリカ英語、そして共存しえなかったそれらとは別にラヒリ自身が選んで学び創作に用いたイタリア語。本作もイタリア語を用いられている。
後天的に学んだ他国の言語で小説を書いた人は多く、たとえば多和田葉子やグカ・ハンなどがとっさに出てくる。いずれの方も「母語」しか知らない私が持つ視点とは全く異なるものを持っていて、それを小説という形で具現している。
この一冊は、ラヒリがローマで借りた家で見つけた、表紙に「ネリーナ」と書かれたノートに記された詩を、友人の言語訳者に整理して注釈をつけてもらって出来上がったもの、となっている。でも実際はネリーナと書かれたノートもなく、言語学者も架空の人物なのだそうだ。
イタリア語を母語とするものではないと思われる"ネリーナ"に乗せて書かれたラヒリの詩。その重なりの中に何かが潜んでいる予感がする一冊。
毎週土曜の毎日新聞と日曜の神奈川新聞に掲載される書評をまとめて、BOOK PORT CAFEに置いている。
時折、今回のように同じ週に同じ本が紹介されることがある(異なる週になることも当然にしてある)。
同じ本を違う人が評する文章を並べて比べると、同じ本を見ているのに視座が全く異なっていて面白い。そういう読み比べをしてみるのもまた一興だと思う。