パリ組曲㉒ ノルマンディー地方の村
2018.09.10 15:32
バスの揺れにハッとして目を覚ますと8時半。あたりはすっかり明るい。

とはいえ、やはり小雨なのかどんよりとして曇っている。
「起きましたね。」
隣りでミヒャンが微笑んでいた。
「ずっと起きてたの?」
「はい。タニガワさんは寝ていましたね。」
「何してたの?」
「今、こちらの方とお話をしていました。」
そういってミヒャンが通路を挟んで逆側の席を見る。
誰が座っているのかと、谷川も見てみると50代くらいだろうか、夫婦が座っていて笑顔で谷川に会釈をした。
寝てしまっていたことが恥ずかしくなって谷川は慌てて背筋を伸ばして頭を下げた。 奥さんのほうが、一度ミヒャンに視線を送り、すぐに谷川に向けて言った。
「日本語がお上手ですね。韓国の方ということで、ねえ。すごくお綺麗で。本当に、もうテレビに出てくる人みたいで、ねえ。」
おばさん特有の、ネチッこい話し方、空気を読まず他人のことを知りたがるタイプ。谷川は一瞬でそんな雰囲気を感じ取った。と同時に彼は僅かに動揺し、それを隠せなかった。
何か見透かされているような気がした。
ミヒャンとこの夫婦は、ずいぶん話したのだろうか。何を話したのだろう。素直なミヒャンのことだ、先週、空港で出会ったばかりだとか、おばさんが食いつくような話をしてしまったかもしれない。
そういえば空港でミヒャンと出会ってから、こういった日本人の「公」の場に出るのが初めてであることに気付き、周囲の目に対してどうふるまえばいいのか分かっていなかった。
午前10時頃、ディーブ・シュール・メール村にバスは到着した。
