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inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

あかねいろ(44)意識不明 ー1ー

2023.10.17 14:39

 

 翌日僕は谷杉から呼び出された。

  昨日ゲームセンターで出会ったメガネが、僕が部活をサボっていたことをクラスで吹聴していて、それが部員から谷杉に伝わった。

 「何をやってるんだお前は」

 谷杉は僕にいう。身も心も真っ青になってしまった僕は、全身硬直してしまい何も喋れない。 

「まあ、やめるまでもないわな。やりたいなら、みんなに謝れ」



  その日の練習で僕は谷杉に首を掴まれ、引きづられるようにみんなの輪の中に出されて、昨日部活をサボってゲームセンターに行っていたことを話す。そして、ごめんなさい、という。

  しらけた空気が漂う。別に誰もそんなこと気にも止めていないくて、「吉田は完全にふてくされてるな」という共通認識があるので、特に驚きの様子ではない。それよりも、こんなことで無理やりみんなの前で謝らされていることが、ちょっといつもと違うという雰囲気がある。谷杉は、無茶苦茶なコーチだし、暴力振るうし、理不尽だけど、本質的に生徒を馬鹿にしたり、貶めようとしたりしない。一生懸命やっている限り、最後は「馬鹿野郎だな」と一笑に伏すということがほとんどだった。

  そういういつもの谷杉の様子に比べて、僕への仕打ちは異質なものに見えた。異質なだけに、そこに一体何があるのか、それについて少し戸惑いの感があった。僕の謝罪など、僕も心にもないし、みんなにしたって、別に1日部活サボったからってどうのこうのも無い。



  僕のポジションには、1月から部活に加わった同じ1年生の高田が入った。

  それまでは陸上部で活躍していて、とにかく足が速い。100mは12秒を切る。まだ経験も浅いけれど、センスもよくウイングではたびたび長い距離を走っていた。線は細いけれど、気も強いし、毎日の筋トレグループにもすぐに加わるくらい熱量があった。ただ、センターでのプレーは流石にぎこちなく、特に、ボールを受けるときの腰の高さは外から見ていても少し素人っぽさが拭えなかった。


    3月の春休みに入ってから、春の県大会が始まった。


    初戦は西部地区の連合チームが相手で、ここは試合に出ることが目的のチームなので、相手に怪我をさせないことが1番のテーマだったりした。それでも、メンバーを1.5軍ぐらいに落としながらも、13トライをとって圧勝した。

   ベスト16で対戦するのが県北の有名校で、10年くらい前までは花園の常連校だった鷹川工業となった。僕らの春のターゲットは、ここにしっかりとFW戦で互角以上の勝負をして、勝ち負けに持ち込みたいというところだった。鷹川工業は第2シードで、今年は実力としては朝丘が一歩も二歩も抜けている。けれども、鷹川工業も新人戦では関東大会でも準決勝まで進んでいた。


  ベスト16の試合は県北の私立高校のグラウンドで行われた。高校のグランドだけれども、ハイブリッドの芝のグラウンドがある。ここで、片側の山の4試合が行われ、僕らの試合は11時15分からの第2試合だった。


  1つ前の試合では、勝てば当たるであろう朝丘高校が100点ゲームを繰り広げていた。福田が縦横無尽に走り回っていて、試合に出る予定のない僕は、テレビでも見ているかのように傍観していた。