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Evidence Based Physical Therapy - 理学療法士 倉形裕史のページ

(リハビリ版)『常識』だったものが、当初は『そんなわけあるか!!』といわれたデータでひっくり返った話。

2018.09.11 19:56

おはようございます。理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


前回のマネーボールの記事を書いていて、『そんなわけあるか!!』という思い込みはリハビリにもあるよな~と思い当たりました。

対岸の火事ではなく、リハ専門職も襟を正さないといけないなと。。。。


例えばかつて『脳卒中患者のリハビリにおいて麻痺側上下肢の筋力トレーニングはしてはいけない』と考えられていた時代があります。(仮に多少自分の意志で麻痺した手足を動かせる場合でも、筋力トレーニングはしてはいけないと考えられていた時代があります) 


今は流石にそういう事を言う人は少ないでしょうが・・・・・(少ないと信じたい)。 


この『常識』は、数十年前のセラピストたちの『観察』によって作られていました。

 何故かというと、麻痺した手足に力を入れて運動を行うと、こわばりが強くなってしまうと考えられていたからです。こわばりが強い状態で動作を繰り返すことで正常な動作とは異なる形での動作が助長されてしまうと考えられていました。 

脳にダメージを負った患者さんの典型的な姿勢はこんな感じ。 


こうならないためには、こわばりをコントロールする必要があると考えられていました。(リハビリ用語では『筋緊張を抑制する』なんて言います。) 


そこで重宝されていたのが、麻痺した手足のこわばりをコントロールしつつ正常な動作を改めて学習させることができると謳った理論でした。このような理論はいくつかあり、開発者の名前がついていたりします。今も盛んに講習会などが行われているものもあります。


では、実際に積極的に麻痺した手足を使った運動はこわばりを強めてしまうのか??     

   ↓

結果としてはこわばりには影響しないか、むしろ軽減するというデータが出ていて、この議論はほぼ決着がついています。

データが出始めた当初は『そんなわけあるか!!』と考えられていましたが、質の高いデータが出揃うにつれてかつて『常識』とされていたものがひっくり返りました。



なぜこのような誤解が生まれたかというと・・・ 

確かに、麻痺した手足に力を入れるとその時は、手足のこわばりが強くなります(安静にしたり、力を抜くとこわばりはすぐに元に戻ります)。 

また、自然な経過として、脳卒中患者のうち一定数の方が、発症直後は手足のこわばりが非常に弱く、その後こわばりが強くなっていきます。 


『麻痺した手足に力をいれることで一時的に強くなる手足のこわばり』&『自然経過によるこわばりの増加』と『麻痺した手足に力を入れた運動を行うことによる影響』を混同してしまったんだと思います。 



観察によって、この『自然経過』と『運動の影響』を区別することはほぼ不可能です。マネーボールの記事で書いたように三割打者と二割七分五厘の打者の差と同じように、その差はデータの中でしか現れません。 


しかも、麻痺した手足の筋トレを行わなければ当然のことながら筋力はさらに衰えて動作の中での貢献度が下がります。

麻痺した手足を積極的に使用したリハビリは、実はこわばりにも動作自体にも非常に有用なものだったということを質の高い研究が明らかにしました。 



また、高度なテクニックを要する『麻痺した手足のこわばりをコントロールしつつ正常な動作を改めて学習させることができると謳った理論』達は実際の患者を対象とした臨床研究で軒並み有効性に乏しいことが報告されています。 



かつて『常識』とされていたものは、実は患者に対して『害』ですらあったという、リハ業界にとって残念な歴史です。 


『観察』による推論は、このような間違った『常識』を生み出してしまうことがあります。


ですので、科学的な手法でデータを集めて、統計を使って結論を導く必要があります。 



念のため書くと、私が過去のこういったアプローチを開発したセラピスト達と比較して賢いとか優秀だと言う気は全くありません。 


ただ、根拠に基づいた医学(Evidence Based Medicine: EBM)の誕生というパラダイムシフトが起こって、その新しい道具(パラダイム)というかモノサシを使うことができる時代に生きているというだけです。 


脳卒中患者に対して新しいリハビリを開発することは、リハビリの可能性を広げ、患者さんの選択肢を増やしうる素晴らしいチャレンジだと思います。残念ながら結果が伴わなかったというだけです。


あと、評価するための道具(EBM)というかモノサシがなかったから、自身の観察に頼るしかなかったという時代のせいもあります。 


さらに思うのが、もし、開発者達がきちんとした科学者で、かつ現代を生きていれば、自分達の開発したテクニックは『残念ながら患者にとって有益でない』と判断して撤回なさるか、内容を刷新してまた患者さんに応用しなおしてデータを集めようとするんじゃないかなと思います。 



ですので、数十年前にこれらの方法を作り上げた開発者達と、そのチャレンジには敬意をもっています。 

ただ、パラダイムシフトが起きた現代においても、効果が乏しいことが証明されている手法を広め続けている開発者の『お弟子さん達』が何をやっているのかはわかりませんが・・・・・。 


今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございました。 

 理学療法士 倉形裕史 





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