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七枝の。

台本/Don't rain on my parade!(男2)

2023.10.19 07:29

〇作品概要説明

主要人物2人。約30分。深夜雨のバス停で死んだはずの同僚に出会う話。臆病な男が勇気を振り絞る英雄譚。あるいは、カタストロフィーの一歩手前。性別改変可。


〇登場人物

南雲千歳:幽霊あるいは村雨の幻覚。自称神。

村雨博樹:南雲の元同僚。大学の同期。根暗。


〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。

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作者:七枝


本文


〇雨の降る深夜のバス停にて。電柱の下、傘もささずに村雨がたたずんでいる。両腕で大きなボストンバッグを抱きかかえ、うつむいている。

SE:足音。

〇南雲登場。


南雲:雨、やみませんね。

村雨:………

南雲:傘ささないんですか?

村雨:……わ、わたしですか?

南雲:(馬鹿にしたように)あなた以外ここに誰かいますか?

村雨:……え……えっと。

南雲:風邪ひいちゃいますよ。傘がないなら、この先のコンビニで買ってきてはいかがでしょう?バスがくるまでまだ時間ありますし。

村雨:放っておいてください。

南雲:ん?

村雨:私にかまわないでください。

南雲:親切で言ってるのに。

村雨:…………

南雲:無視ですか。

村雨:…………

南雲:驚いたなぁ。あんた、それでも社会人ですか?あ。もしかして無職でした?すみません。

村雨:………やめてください。

南雲:(無視して)せめて返事するときぐらい人の顔みたらどうですか。小学生だってそれぐらいできますよ。

村雨:…………

南雲:地面に面白いものでもあるんですか?暗くてよくみえませんけど。それとも、なんかみえちゃう系のひと?

村雨:やめてって言ってるでしょう!

〇村雨、顔をあげて南雲をみる。

村雨:……え。な、なぐも?

南雲:お。ようやく顔あげたか。

村雨:どうして、ここに……いや、それよりお前、死んだはずじゃ……

南雲:あんたさぁ、質問に質問返すなって学校で学ばなかったの?

村雨:え、

南雲:まあいいや。とにかく傘買ってきなよ。みじめな顔がもっとみじめになってる。

村雨:……いい。

南雲:はあ?

村雨:放っておいてくれ。

南雲:いやいや。濡れ鼠のあんたの横で俺だけ傘さしてたら、やな感じでしょ。

村雨:ならどっかいけよ。

南雲:ここに用があるんだけど。え、もしかしてバス停が何のためにあるかご存じない?

村雨:うるさい!消えろ!俺の前にでてくんな!

〇村雨、腕をふりまわし南雲を押す。

南雲:うわ、怖~!

村雨:あれ、感触がある……?

南雲:暴力はやめろよ、暴力はさぁ。これだからオタクくん、ダメなんだよ。

村雨:なんで……

南雲:あ?

村雨:幻じゃ、ないのか。

南雲:何?俺のこと幻覚だとでも思ってたの?痛いねぇ!

村雨:だって、お前死んで……

南雲:お化け出た~って?そーいうの信じちゃってる感じ?

村雨:……お前、何だよ。

南雲:神様。

村雨:は?

南雲:聞こえなかった?神様っていったの。敬えよ、人類。

村雨:はあ!?

南雲:ふっ、あほづら。

〇南雲、村雨にでこぴんする。

村雨:痛っ

南雲:仕方ないから、俺の傘にいれてやるよ。泣いて感謝しろ。

村雨:やめろ、触るなっ

南雲:あ。でもあんま近く寄らないでね。あんた、ドブみたいな匂いする。

村雨:よ、寄るわけない。

南雲:そ。よかった。

村雨:…………

南雲:…………

村雨:……神様、って、

南雲:ん?

村雨:なんの冗談だよ。笑えない。

南雲:冗談じゃないけど。

村雨:信じられない。

南雲:は?村雨のくせに生意気だな。

村雨:ど、どうみたって南雲の顔だし。

南雲:特別美形にしたらこの顔になったんだよ。

村雨:口悪いし。

南雲:格下に気をつかってやる必要ある?

村雨:……俺のこと、知ってるし。

南雲:それは、あんたに用があるからだな。

村雨:…………なんで。

南雲:それ、そのボストンバック。

村雨:………

南雲:何入ってんの。

村雨:……関係ないだろ。

南雲:関係あるから聞いてんの。

村雨:…………ない。

南雲:声ちいさくて聞こえな~い。

村雨:関係ない、って言ってんだ!お前はもう死んでるんだから!!

〇間。

南雲:……いきなり大声だすなよ。

村雨:…………ごめん。

南雲:謝るならやるな。うっとおしい。

村雨:うん……

南雲:あのさ、話進まないから質問こたえてくれない?

村雨:…………

南雲:だんまりかよ。

村雨:……………

南雲:(舌打ち)あんた、都合悪くなるといつもそうだよな。

村雨:やっぱり、南雲でしょ。

南雲:は?

村雨:神様とか、噓。お前、南雲だろ。またそうやって俺をからかってんだ。

南雲:うそじゃないですぅ。神様ですぅ。

村雨:死んだってのも、嘘なんだろ。

南雲:………死んだよ。南雲千歳は死んだ。葬式来ただろ。

村雨:みてたのか?

南雲:空の上からね。ほら、俺神様だから。

村雨:あほか。

南雲:じゃあ、別にいいよ。なんでもいい。天使でも妖怪でも異星人でもあんたが信じられるやつにしてよ。

村雨:なんだそれ。

南雲:とにかくさ、俺はあんたを止めにきたわけ。

村雨:止めに……って何を。

南雲:わかってるくせに。

村雨:…………

南雲:(一呼吸おいて)あんたが言わないなら言うけど、そのカバン中に入ってるの、研究所から持ち出したアンプルだろ。中身は開発中のM-307ってとこか?そんで、今からそれもって警察やら頼れる古巣やらに行くつもりだ。違う?

村雨:……っ!

南雲:ビンゴだ。

村雨:ちがう。

南雲:いいや、当たってるね。俺にはわかる。

村雨:何様なんだよ。

南雲:神様。

村雨:(ためいき)

南雲:いいか?そんなことやっても無駄だから。いますぐ研究所に返してこい。

村雨:……なんで。

南雲:またそれ?何何なんで期なの?赤ちゃんなの?

村雨:だって。

南雲:だって、なに?

村雨:……………

南雲:言っとくけどな、お前の証拠隠滅方法はかなりお粗末だったからな。親会社なめすぎ。監視カメラもハードディスクもデータ消去したぐらいじゃいくらでも復旧できるし、すぐ追手がやってくる。どこ駆け込んでも無駄。大人しく帰って社畜やってろグズ。

村雨:……グズって。

南雲:そうだろ。

村雨:俺が、お前のいいなりだと思ってたら大間違いだからな。

南雲:あのなぁ、

村雨:見て見ぬふりとか、やだし……

南雲:そんな正義感あるやつだったっけ?

村雨:お前に俺の何がわかるんだよ。

南雲:大体わかるよ。いかにも万年便所飯ですって顔してるし。

村雨:そんなことしない!

南雲:似たようなことしてたじゃん。東棟の物置裏だっけ?

村雨:………便所じゃない。

南雲:厳密に言えばそうかもね。いつもどおりウジウジうずくまって「おれのせいじゃない」とかなんとか言ってればよかったのに。

村雨:もう、できない。

南雲:馬鹿だなぁ。

村雨:………お前のほうが、馬鹿だ。

南雲:はあ?

村雨:会社に逆らって、上司に意見して。だから殺されるんだ。馬鹿だ。

南雲:ころされた?なにそれ、オタクくん被害妄想激しすぎ。南雲千歳は事故死ですぅ。会社帰りに酔っ払ってたところをサラリーマンの車に跳ね飛ばされたんですぅ。製薬会社に勤めているエリートなら新聞ぐらいきちんと読めよな。

村雨:嘘だ。

南雲:嘘じゃないって。

村雨:南雲は、酒苦手だろ。

南雲:どこ情報よ。

村雨:見てればわかる。

南雲:ストーカー?

村雨:笹井課長も知ってた。

南雲:は?じゃあ飲みの度に飲まされたのって……くそ、あのパワハラクソ爺……

村雨:研究所の皆知ってた。だからあれは見せしめだ。職場の全員わかってる。

南雲:じゃあなんでそんなことすんの。

村雨:…………

南雲:せっかくの見せしめ、心に刻めよ。個人で組織と戦って勝てると思ってんの?

村雨:思ってない、けど。

南雲:けど、何?

村雨:警察なら……

南雲:手まわってるんじゃないの?南雲千歳が事故死じゃないって言うなら。しらんけど。

村雨:大学に相談したり、とか。

南雲:万年便所飯に頼れるようなツテあったんだ?おどろき~!

村雨:…………

南雲:悪いこと言わないから今まで通り知らんぷりしてろよ。んで、何年かして辞めて穏便に暮らせばいいだろ。なにがそこまであんたを急き立てる?

村雨:べつに。

南雲:別にじゃわかんないって。

村雨:わかってもらう必要ない。

南雲:そんな態度だからプロジェクト外されそうになるんだろ。

村雨:うっ

南雲:ま、今思えば外された方がマシだったな。こんな危ない橋渡ることになるんじゃ。

村雨:……ああ。

南雲:悪かったな、余計なことして。俺が誘わなきゃ何も知らずにいられたのに。

村雨:え?

南雲:……って、南雲千歳ならいうだろうな。

村雨:まだ続けるのか、その設定。

南雲:設定とかじゃないから。ガチだから。

村雨:だいたい何で神様。

南雲:神様のいうことなら、信じるんだろ。

村雨:何の話?

南雲:昔、言ってただろ。サワセン(沢村先生)の試験のとき。

村雨:?

南雲:覚えてないのかよ!大学時代だよ。ゼミであったろ、何の菌かあてるやつ!なかなか上手く培養できなくてさ~

村雨:ああ、お前がシャーレひっくり返したやつか。

南雲:な、南雲千歳がな。

村雨:南雲千歳が俺の一週間かけて育てたシャーレ、ぶっこわしたやつか。

南雲:そうだよ!そのぶっこわしたやつだよ!悪かったな!

村雨:思い出した。そのせいで俺だけ提出遅れたんだ。追加レポートまで書かされた……

南雲:その時お前言っただろ、「神様しか信じない」って。

村雨:そ、そんなこと言った?

南雲:言ったよ。せっかく俺がサワセンからヒントもぎとってきたのに、あんたこっちも見ないで「そんな情報いらない」って言ってさ。なんで?って、聞いたら「神様しか信じない」って言ったじゃん。

村雨:あ、ああ~……

南雲:なにその顔。

村雨:き、気にしないでください……

南雲:ふーん。……あ、もしかして、アレってオタクくん特有のやつ?漫画とかアニメのセリフ?

村雨:………

南雲:マジかよ。ダサ。

村雨:ぐっ!黒歴史……

南雲:なんだ。そーいうことね。村雨くんは、大学生にもなってアニメのセリフを引用して、人の好意を踏みにじったわけね。はいはい。

村雨:も、元はといえば南雲が悪いんだろ!

南雲:そーかもしれないけど、フツー正面切って「信じない」とか言う?こっちは詫び入れに来てるのにさぁ。

村雨:お、俺はわるくない。

南雲:あ~あ。気にしてたのな~バカバカしい。

村雨:……気にしてたのか?

南雲:まあね。それまで俺、わりと無条件で人に好かれてたから。

村雨:………

南雲:あからさまに引いた顔しないでよ。わかるでしょ?

村雨:なんでそんな自信満々なんだよ。

南雲:顔?

村雨:うげぇ。

南雲:あと親が金持ちで~器用で~運動神経もいいし。

村雨:喧嘩うってんのか。

南雲:そりゃあ、多少やっかみも受けたけどね。大体のやつは俺を敵にするより、味方にした方がいいのわかってたみたいだし?生育環境いいボンボンだったから、正面きって喧嘩売ってくるような馬鹿もいなかった。

村雨:馬鹿でわるかったな。

南雲:うん。新鮮で面白かった。

村雨:…………

南雲:村雨みてるとさぁ、どうしてそんなに馬鹿なのかなって不思議だったよ。無駄に敵つくるようなこと言うし、そのくせネガティブだし、どんくさくて金もない。

村雨:お、おれはお前が嫌いだった。

南雲:だろうね。俺は嫌いじゃなかった。

村雨:………そういうとこが嫌だったんだよ。

南雲:めんどくせぇな。

村雨:嫌いだ。嫌いだった。……でも、神様じゃなくても信じたよ。

南雲:それもなんかのセリフ?

村雨:馬鹿にすんな!

南雲:してないって。今はね。

〇間。

村雨:………南雲のデスク、片付けたから。

南雲:は?勝手に何してんの?いじめ?

村雨:課長に整理しろって言われたんだよ!……んで、これ、みつけて。

〇村雨、カバンを少し開けてUSBを取り出す。

南雲:あ~……USBね。新薬についてまとめたやつ。よくみつけたね。

村雨:あやうく捨てるとこだった。

南雲:あんた几帳面だからなぁ。ご丁寧にゴミの仕分けしてる姿が目に浮かぶよ。

村雨:市民の義務だろ。

南雲:テキトーにやりゃいいのに。それ、どこまで読んだ?

村雨:全部。

南雲:うわ、暇人。

村雨:暇じゃない!これでも毎日深夜残業してた!

南雲:それはあんたが鈍くさいせいだろ。え、職場で読んだの?

村雨:お前のMac借りた。きな臭かったから。

南雲:ああ、俺のリンゴちゃん。元気にしてる?

村雨:昨日も元気にクラッシュしてた。なんであんな中古品つかってんの?

南雲:かわいいだろ?

村雨:非合理的だ。

南雲:ってか、お前にもそれぐらいの危機管理能力あったのね。

村雨:俺をなんだと思ってるんだよ。

南雲:カモ。

村雨:かも?

南雲:鍋背負って、食材そろえてきた鴨かな。

村雨:おまえっ!

南雲:は~い、怒らない、怒らない。そんで?それ見てどうしたんだよ。

村雨:……わかるだろ。

南雲:ここに至るまでに誰かに相談したか、って聞いてんの。さすがのあんたも、新薬の盗みに入る前に、検証したり、証言の裏とったりはしたんだろ。

村雨:それは……まあ。ヒトの培養細胞で検証した。

南雲:結果は。

村雨:レポートのとおりだったよ。およそ18時間で発症、平均120時間で消滅。時間がなかったから、サンプルはそう多くないけど、USBの中に追加レポートをまとめてある。

南雲:ん。

村雨:反応薄いな。

南雲:元は俺のレポートだしね。

村雨:俺たちが携わっている製薬会社で、こんな作用がでる薬は製造予定にない。

南雲:そうだねぇ、表向きはなんだったっけ?脱毛薬だっけ?

村雨:こんなので脱毛しようとしたら、毛どころか、肌ごと無くなるぞ。

南雲:すっきりするね。

村雨:そんなこと言ってる場合か。

南雲:場合じゃないから、調査したんじゃん。財務諸表のとこは?ちゃんとみた?俺、がんばったのよ~経理の子、口説き落とすの大変だったんだから。

村雨:みた。なんだあの額。一生引きこもって暮らせるんじゃないか。

南雲:発想がオタクくんすぎて笑う。

村雨:……ともかく。うちの会社が怪しげな宗教団体に、多額の献金をしてるのはわかった。

南雲:献金じゃなくて寄付ね。慈善団体への寄付。ま、ちょーっと額がおかしいけど。

村雨:……つまり、

南雲:よろしくないことを計画してるってことだよねぇ、状況証拠的に。

村雨:そう、だよな。やっぱり。

南雲:あんたもそれを確信したから、こうやって馬鹿なことしてるんでしょ。

村雨:………ああ。

南雲:アンプル持ち出す前にさぁ、内部の誰かに相談したりしてないの?

村雨:してない。

南雲:へ?

村雨:なんだよ。

南雲:いやてっきりあんたのことだから、最初は一人で抱え込もうと無駄な努力と時間費やすけど、結局容量オーバーでヒスって、パニック起こして誰彼かまわず泣きついてんのかと。

村雨:人のことをなんだと……

南雲:オタクの便所飯野郎。

村雨:うるせぇ。……誰に泣きつけっていうんだよ。お前がいないのに。

南雲:………ふーん。へ~え。そう。

村雨:なんだよ。

南雲:いや、なに?俺って実は信頼されてたんだなぁって。

村雨:にやにやすんな!

南雲:いやあ。ははは。村雨くんってばツンデレなんだ?

村雨:ほ、他よりマシだってだけだ!あの研究所で元々知り合いだったのはお前だけだったから、だから!

南雲:うんうん。いいよ、言い訳しなくて。あ~そう。それで悩み悩んだ末に、こんな極端な行動にでてるわけね。納得。

村雨:……そうだよ。

南雲:保険はあんの?

村雨:保険?

南雲:警察……は無駄足だとして。大学行ってダメだったら、次どこに行くとか、研究所に戻るための言い訳とか、最悪の場合の逃走手段とか。

村雨:…………

南雲:ないってことね。オッケー。

村雨:まだ何も言ってない。

南雲:あるの?

村雨:ない、けど。

南雲:だろ。ヤケクソからの無手特攻おつかれさま~歴史に学べよ。俺という失敗みてなかったの?

村雨:みたから!こんなことやってんだろ!

〇間。

南雲:……いきなり大声出すなって言ったじゃん。

村雨:そうだよ、俺はオタクの便所飯だよ。いつも自己嫌悪でぐちゃぐちゃだし、要領悪くてどんくさいよ。怖いことはしたくないし、顔はよくないし、親は毒親だし、金も持ってない。でもこんなこと、間違ってるだろ。南雲千歳は、あんなことで死ぬはずないんだ。あんな風に死んでいいはずないんだよ……

南雲:……馬鹿だなぁ、あんた。

村雨:うるさい。

南雲:保険はなくても、覚悟はきめちゃったってことね。

村雨:(頷く)

南雲:そう。引く気はないってわけだ。

村雨:そうだよ。

南雲:う~わ~、めんどくせぇ。あんた頑固だからなぁ。

村雨:南雲があきらめた方が早い。

南雲:なんで俺が諦めるんだよ。俺の方が優秀だろうが。

村雨:死んでちゃ何もできないだろ。それとも墓から蘇る算段があるのか?

南雲:フランケンシュタインみたいに?

村雨:この場合だとせいぜいゾンビだ。

南雲:ゾンビか~…ゾンビはやだなぁ、せっかくの美貌が損なわれる。

村雨:言ってろ。

南雲:はは。

村雨:……南雲は、どうして告発しようとしたんだ?

南雲:自社がテロまがいのこと起こそうってのに、放っておくわけにはいかないでしょーよ。

村雨:それは、そうだけど。お前なら先に再就職先探してそうだから。

南雲:まあ泥船と心中はごめんだよね。

村雨:ほら、そう言うだろ。

南雲:あ~…うーん……これ言うのはちょっと気恥ずかしいんだけどさ、俺結婚を考えてる恋人がいて。

村雨:へぇ。

南雲:あからさまにテンション落ちるじゃん。

村雨:葬式にいたどの子だろうって記憶あさったら、それっぽいの多すぎて萎えた。

南雲:すみっこで号泣してたやつ。

村雨:どれだよ。該当件数多いんだよ。

南雲:モテ過ぎてすまない。

村雨:ゾンビになっちまえ。

南雲:はは。あ、でも現状「結婚を考えてる」っていうか「結婚を考えてた」になってるんだけど。

村雨:やめろ。

南雲:それで、その子が言うのね、いっしょになったらこうしたい~とかあれやりたい~とか。

村雨:あっそ。

南雲:もう少しあいづちがんばってくれる?

村雨:オタクはリア充嫌いなんだよ。

南雲:あんたから聞いてきたんだろ。

村雨:はい。

南雲:目が死んでる。

村雨:うるさいな。

南雲:そんで考えたのね、このままこの子と結婚して一緒に住んだら、そのうち子どもが生まれたりするのかな~って。その時、今のままのやり方でいいのかなぁってさ。

村雨:………ああ。

南雲:らしくないよな、とは思うんだけどね。自分の子どもに「こいつは肝心な時に逃げ出すやつだ」って思われたくないじゃん?カッコいい背中見せておきたくて。

村雨:それで現職のまま告発準備してた、と。

南雲:そう。そっちに夢中になりすぎて、恋人には3ヶ月前にフラれたけどね。

村雨:え。

南雲:腹立って、証拠引っさげて課長に八つ当たりしたら一発アウト。

村雨:はあ?

南雲:いやあ、俺としたことが見誤ったよね~

村雨:ばっっかだろ!

南雲:ははははは。

村雨:お前!俺がどんな思いで……!お前がそんな阿呆だと思わなかった!

南雲:いくら完璧な俺でもたまには失敗するわけよ。

村雨:その失敗で命とられちゃ世話ないだろ!

南雲:ホントにな。だからさ、村雨。

村雨:なんだよ!

南雲:こんな俺に、勝手な理想を押し付けるのやめてくれよ。

村雨:……なんだよ、それ。

南雲:お前の計画は無鉄砲もいいとこだ。絶対失敗する。

村雨:やってみなきゃ、わかんないだろ……

南雲:わかるよ。村雨、どんくさいし。

村雨:……………

南雲:機転きかないし、すぐへこむし、立ち直り遅いし、だまされやすいし。

村雨:ながい!

南雲:空気よめないし、不器用だし、

村雨:まだ続くのかよ!もういいよ!

南雲:だから、やめとけよ仇討ちなんて。今時ダサいって。

村雨:……やるよ。

南雲:村雨、

村雨:やるって、決めたんだ。悩む時期は終わったんだよ。

南雲:村雨ってば、

村雨:もうバス来るから。傘いらない。

南雲:きけよ、村雨!

村雨:聞いてる。聞いたうえでやるって決めたんだ。

南雲:殺されるんだぞ。

村雨:かもな。

南雲:お前がやる必要がどこにある!

村雨:ここに。俺が信じたあんたに。……ああ、そっか。そういう意味なら、あんたは俺の神様だったかもな。

SE:バスの停車音。

〇間。

南雲:……バス。

村雨:来たか、ここまでだ。

南雲:いいのか、これが引き返せるラストチャンスだぞ。

村雨:しつこい。さっさと墓に戻れよ。

南雲:足震えてるくせに。

村雨:さよなら、南雲。ありがとう。

〇間。

南雲:…………あーあ。


〇おわり。