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更夜飯店

茶の味

2018.09.12 03:51

茶の味

2004年8月9日 渋谷 シネマライズにて

(2003年日本:143分:監督 石井克人)

野山に囲まれた一軒家に住む春野家の人々は、なんだかそれぞれ誰にもいえないモヤモヤを抱えている。

それは悩みや不満でなく、なんかモヤモヤしたもの。高校1年生になった一(ハジメ)は、女の子のことで頭がモヤモヤ~。

小学校1年生の幸子は、巨大化した自分が時折現れるのに、モヤモヤとしたものを感じている。

東京でミキサーをしているアヤノ叔父(浅野忠信)は、昔振られてしまった同級生に会おうかどうか、モヤモヤ~もう、30歳だというのに・・

そして家族は縁側に座ってモヤモヤ~っとしながらお茶を飲む。誰も玄関から出入りしない。縁側からふらふらと入ってきて、縁側に腰をおろして、ふわ~~~~。縁側で昼寝したり、囲碁をしたり、お茶を飲んだり。

父は催眠療法士(三浦友和)、母は最近、昔の仕事だったアニメーションの作画に忙しい。

一人マイペースで自分を楽しんでいるのが、オジイ(我修院達也)。母にアニメのキャラクターポーズを相談されて、シャープな動きをしてみせる。「な~んであなたは三角定規なの~♪」と歌いながら「だって三角定規だも~ん」と幸子に三角定規の格好をさせる。お風呂では「あなたお湯ですね」を熱唱。息子の漫画家が自分のCDを出したいといえば、ユニットに参加して歌い踊る。(歌は「山よ」)・・・そしてオジイが家族一人一人に密かに残したもの。。。

いろいろなエピソードを上手くやんわりつなげ、シュールな映像をはさみながら「誰も主人公ではない、でも、家族みんなが主人公」という世界はかなり気持ちいいです。シュールでアンニュイでそれでいて甘さがない。

巨大化する自分がどうしたら消えるのかなぁ~と思う幸子は、アヤノ叔父がハジメに語る「のろいの森」の怪談話から(アヤノ少年にとりつく幽霊が寺島進・・・・・これがいいのですよ。いいですよ。ほんと)、鉄棒で逆上がりが出来たら、自分の分身が消えるかもしれない・・・と逆上がりの練習を密かに始める・・・そして見事成功したときに咲き、大きく広がる向日葵の花。もう、広がりすぎっていうくらい、大きくひろがる。そのイメージの逸脱ぶりって凄いですね。

出てくる人、皆いいカンジなのですが、特に幸子役の坂野真弥ちゃんがいい。(撮影当時6歳)台詞らしい台詞ないのですが、お母さんに「サチコ~~~」って呼ばれたときの「んぁ・・」という答え方。巨大化した自分をぼ~~っと見つめるアンニュイな目。ぼ~っとした表情がとても自然で、石井監督が「彼女は天才。6歳でアドリブができるし、演出を理解できる。このヒトは人間的にオレより上」とまで言わせてしまっているのです。(反面、ハジメ役の佐藤君にはとても厳しかったらしい・・・)

そしてなんだか家族にとけこんじゃってるアヤノ叔父の浅野忠信の透明感って凄いですね。

浅野くんは石井監督の前2作『鮫肌男と桃尻女』『Party7』の主役をやっていますけれど、ますます透明になってきました。

幸子とアヤノ叔父が座布団枕に縁側で昼寝するっていうシーンの透明感とわけわからない幸福感がたまりません。

前作から4年経ってしまっているのですが、この間に石井監督はタランティーノ監督の『キル・ビル』のアニメキャラクターを担当したり、CM作ったりしていますが、去年、『レボルーション6』の初日のトークゲストに出てきて、「『キル・ビル』の脚本を読んで、あ~こういう世界はオレはかなわないなぁ~と思って、今、栃木で『茶の味』っていう映画作ってます」と話していました。

確かに『鮫肌男~』はタランティーノ風味だし、『Party7』はシュールな笑いでいっぱいの密室劇でしたが、3作目でこういう世界を作り出すとは思わなかった。でも相変わらずの豪華な脇役陣は変わりません。次はどうなるのかなぁ~~~と楽しみです。

ちなみに「山よ」「三角定規のうた」「あなたお湯ですね」は石井監督による歌詞。私は「あなたお湯ですね」が好きです。