【承継事例】個人商店の資産承継
(情報保護の観点で一部脚色しています)
【登場人物】
花子社長
花子さんは個人商店を営む女性。旦那さんが亡くなられてからは娘と息子に手伝ってもらいながら事業を続け、小さいながらも安定した経営を行っている。
ただの小さな商店であれば、「資産」については承継対策をわざわざお金をかけて行う必要があるのか、という話になってくるが、花子さんの場合はそうではない。
そう、花子さんの家は代々不動産を所有するオーナーなのである。所有する複数の不動産こそ、花子さんが承継を考える一番の理由である。
不動産が法人所有であれば、その株式をどう分けるか、という話になるわけだが、花子さんのケースでは不動産は商店とは関係なく、あくまでも個人での事業。このまま将来的に対策をしない場合、花子さんの所有する不動産の所有権は、法定相続割合にて分割して娘と息子に分かれることになる。つまり、兄妹で同じ不動産を半分ずつ共有で持つという事だ。
現状、花子さん一家は家族皆仲良く、幸せに暮らしている。だからこそ花子さんはこんな願いを持っていた。「私がいなくなった後も、兄妹仲良く過ごしてほしい。」
花子さんは遺言により、自身の資産の分け方を考えることにした。会社の株式は長男、こちらの不動産は長女、金融資産は~というように、こどもたちに平等に、且つ、受け取った側が困らないような形での承継を私と一緒に考えていった。
私と一緒に、と申し上げたが、花子さんは私のことを、承継のプロとしての役割以上に、この件唯一の話し相手(私は基本聴く側)として頼ってくださった。なぜなら花子さんは、ご自身が書いている遺言の内容はご家族には内緒にしていたからだ(遺言の内容をご家族に言わない方は結構多い)。
遺言を見たことがある人は分かると思うが、遺言には最後に遺族へのメッセージを書く欄がある。そこには、別荘として持つ地方のマンションを兄妹2人で仲良く使ってほしいこと、2人の親で幸せだったこと、そして、今後もずっと仲良く兄妹家族共に幸せに暮らしてほしいこと等が書かれていた(初めてそれを読んだとき、一人で会社で涙したのはここだけの話だ)。
「死んだ後のことなど考えられるか」と何の対策もせずに後から仲の良かったご家族の関係性が悪くなる、という事例は正直物凄く多い。しかもそれは次の、その次の、とずるずると後世に引き継がれ、問題は複雑になっていく。だからこそ、自分がいない未来に想いを馳せ、家族の幸せを願い今の自分の時間を割いて考えることは、尊いしなかなかできることではないなと感じる。
よく生命保険のことを「人生最後のラブレター」なんていう保険会社がいるが、遺言こそまさにそれだな、と思う。そうした「想い」を持てる方こそ、私が役に立ちたい、と思える人である。