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臍帯とカフェイン

恋人は味噌汁職人(1:1:0)

2023.10.25 07:34

【配役】

汐里:しおり


真守:まもる


ーーーーーー



汐里:もー、なーんも無いじゃん。

真守:うん、全然自炊とかしてなかったから……。

汐里:ダメだって言ったじゃん、ちゃんと自炊はしないと。

真守:難しいんだよ、一人分作るのって。

汐里:別に二人分作ればいいでしょ。

真守:作ってどうすんのさ。

汐里:タッパーに入れて冷凍すればいいじゃん。

真守:いや、それはそうかもだけどさ。

汐里:はぎれわるーい。

真守:……なんか、嫌じゃん。

汐里:はいはい、言い訳言い訳。

汐里:あ、野菜室に茄子ときゅうり発見。

真守:ああ、うん、一応。

汐里:偉いじゃん、よろしい宜しい。

真守:なんか、偉そ。

汐里:実際偉いんです。

真守:なんで。

汐里:わざわざ?まーくんの為に?味噌汁作りに来てあげたわけだし?

真守:……確かに。

汐里:ほら、えらいでしょ。あがめたてまつれー。

真守:ははーっ

汐里:ふふ、うむうむ、よろしい。

汐里:じゃあ、そうだなー、時間もあんまないし。

汐里:今日は茄子の味噌汁にしちゃおっか。

真守:きゅうりは?

汐里:却下。

真守:ダメ?きゅうりの味噌汁。

汐里:ダメでしょ。

真守:でも、冬瓜とか味噌汁にするじゃん。

汐里:まあ、そう、だけど。

真守:あるんじゃない?きゅうりの味噌汁。

汐里:うーん、あるのかなぁ。

真守:ちょっと調べてみる、スマホスマホ……あれ、スマホどこいった。

汐里:トイレの棚。

真守:うそ、見てくる。

汐里:絶対あるから。

真守:……ありました。

汐里:もー。トイレにスマホ持ってくのやめなって言ったじゃん。

真守:いや、なんかこう。暇じゃん、気張ってるとき。

汐里:不潔。

真守:すんません。

汐里:で?あったの?

真守:え?

汐里:きゅうりの味噌汁。

真守:あ、まって、うん、まって、調べてる。あ、ほら、あるってよ。

汐里:どれどれ。

真守:ほら、富山県の一部地域にはあるって。

汐里:ほんとだー。まぁ、でも、そっか、味噌と合わないわけがないか。

真守:そうだよ、ほら、冷や汁とかにも入れるわけだしさ。

汐里:うん、確かに。

真守:入れる?

汐里:入れない。

真守:なぁんで!

汐里:入れたこと無いから。

真守:あー。

汐里:味噌汁職人として、未知の物を作っては行けない。

真守:そうでした。

汐里:覚えるんでしょ?作り方。

真守:まあ、うん、そう、ね。

汐里:歯切れ悪い。

真守:……また、作りに来てくれればいいじゃん、しおがさ。

汐里:……できないってわかってるっしょ。

真守:……そうでした。

汐里:……ほら!しょんもりしない、しょんもり。

真守:しょんもーり。

汐里:何その顔。

真守:しょんもりの顔。

汐里:ぷっ……

真守:あ、笑った。ひっでーんだ。

汐里:笑わせにきたのまーくんじゃんか!もー!

真守:好きだよ、しおの笑った顔。

汐里:やめてって。

真守:好きだもん。

汐里:今日はそういうんじゃないじゃん。

真守:だめなの?好きでいたら。

汐里:だめだよ。

真守:そっか。

汐里:そうだよ。

真守:そういうもん?

汐里:そうだよ?

真守:……そっか。

汐里:うん。そういうもんだよ。

真守:……わかった。

汐里:物分かりがよくてよろしい。

真守:ん。

汐里:……さ、茄子を切ろうかね。

真守:俺やるよ。

汐里:当たり前です。

真守:うん。これ、どのあたりから切ったらいいの。

汐里:まあ、ぶっちゃけ好みではあるけど。ヘタの部分は切り落として。

真守:了解。

汐里:……うまくなったね。

真守:なにが?

汐里:包丁。

真守:そんな事ないよ、全然してなかったし。

汐里:そうかな。結構うまい気がする。

真守:あんがと。

汐里:ヘタ、落とせた?

真守:うん、おっけー。

汐里:生ごみの日、いつだっけ。

真守:え、わかんない。気にしてなかった。カレンダー見てみて。

汐里:もー。えーっと、今日は8月の……

真守:16日。

汐里:おっけ。うん、火曜日だから、明日ちょうど生ごみの日じゃん。

真守:よかった。

汐里:いつもどうしてたの、ゴミ。

真守:……。

汐里:……適当に出してた?

真守:……はい。

汐里:ダメじゃん、怒られるよ、大家さんに。

真守:怒られないよ、最近。

汐里:そうなの?

真守:うん。「元気出してね」ってなんか優しい。

汐里:なるほど?

真守:だから好き勝手やってる。

汐里:いや、大家さんの優しさを利用すな。

真守:すんません。ねえ、

汐里:ん?

真守:次は?

汐里:あ、そうだった、ごめんごめん。そしたら茄子は斜め切りして。

真守:斜め切り、了解。

汐里:こう、ずばーって。

真守:ずばー。

汐里:じゃきじゃきーんって。

真守:じゃきじゃきーん。

汐里:じゃきじゃきーんはないか。

真守:うん。

汐里:突っ込めよ。

真守:うん。

汐里:いや突っ込めって。

真守:かわいいなーって思って聞いてた。

汐里:か、かわいいってなに。

真守:そーゆーとこ、なんか、こう、奔放というか。

汐里:ほ、奔放ってなに。

真守:好きだよ。

汐里:ねえ。

真守:しょうがないじゃん、好きなんだもん。

汐里:……しょうがなくない。

真守:生姜入れる?

汐里:その生姜じゃない。

真守:切れたよ、茄子。

汐里:おっけー。じゃあ、水にさらして、5分くらい。

真守:なんで?

汐里:なんでも。

真守:理由が知りたい。

汐里:アクを抜く為だよ。

真守:違う。

汐里:え?なにが。

真守:好きでいちゃいけない理由。

汐里:……だめでしょ、だって、そんなの。

真守:だめじゃないじゃん。

汐里:だめ。

真守:誰が決めたの、そんなの。

汐里:ダメなの。普通ダメなんだよ。

真守:しらにゃい。

汐里:そんな言い方してもダメ。

真守:にゃい。

汐里:まーくん。

真守:やだ。

汐里:……だめだからね。

真守:……やだ。

汐里:……聞き分けないなあ。

真守:そうだよ、俺、聞き分けないの。

汐里:ダメなもんはダメなんだよ。

汐里:世の中はそうやってできてる。

真守:……できてないよ。

汐里:できてるよ。

真守:それは、しおの言う世の中じゃん。

汐里:……。

真守:俺の知ってる世の中では、駄目じゃない。

汐里:……。

真守:ダメじゃないから、好きでいてもいいはずだ。

汐里:あんまり、

真守:なに?

汐里:あんまり、困らせないでよ……。

真守:……ごめん。

汐里:……今のうちに、お湯、用意して。

真守:わかった。お湯。

汐里:ちがうよ、ポットにじゃないからね。

真守:あ、違うか。

汐里:もう。茄子の味噌汁って言ってるじゃん。お鍋に用意するんだよ。

真守:どれくらい?

汐里:どれくらいって?

真守:水の量。

汐里:ああ……200mlくらい。

真守:それで、2人分?

汐里:……1人分。

真守:そっか。じゃあ、400ml。

汐里:ねえ。

真守:2人分作る。

汐里:ねえってば。

真守:これからも、ずっと、二人分作る。

真守:ずっと400ml。

汐里:……そういうところ、嫌い、ほんと。

真守:……ごめん。

汐里:……沸騰したら、出汁、いれて。

真守:うん。どれくらい。

汐里:……一人前、小さじ1ぱい。

真守:じゃあ、2杯だ。

汐里:……。

真守:茄子、もういいんじゃない?

汐里:そう、だね。入れていいよ。

真守:うん。味噌は?

汐里:味噌まだ。

真守:じゃなくて、量。

汐里:小さじ2杯。

真守:わかった。

汐里:……4杯入れるつもりじゃん。

真守:入れるよ、そりゃ。水も400だし。

汐里:余っちゃうよ。

真守:冷凍すればいいって言ったの誰。

汐里:味噌汁冷凍するとかありえないから。

真守:なんで。

汐里:味噌汁職人として許せない。

真守:……っぷ。

汐里:なんで笑ったの?今。

真守:いや、ふふ、ホラ、前にもさ、味噌汁で喧嘩した時に

真守:「味噌汁職人としては許せない!」って怒ってたなって、思い出して。

汐里:そ、そんな事あったっけ。

真守:うん、あったあった。

汐里:えー、いつ?

真守:同棲して、2年目の記念日のとき。

汐里:えー……あー!あったね、あったかも。

真守:でしょ?ふふ、めっちゃ怒ってた。

汐里:怒るでしょ、そりゃ。

真守:いやそれにしたってさ「味噌汁職人」はないじゃん、ふふ。

汐里:あー、笑った、また笑った。馬鹿にしてるでしょ。

真守:ふふ、してない。

汐里:してる。

真守:しお。

汐里:絶対馬鹿にしてるよなー

真守:汐里。

汐里:だめ。

真守:汐里。

汐里:キスしようとしないで。

真守:汐里。

汐里:だめだってば。

真守:……汐里。

汐里:だめだって言ってんじゃん!!!

真守:……。

汐里:ダメなんだよ。もう、駄目なの、そういうことしたら、駄目なの。

真守:なんで、駄目なの。

汐里:もうまーくんは、私にそういう感情持ってちゃだめなんだよ。

真守:ダメじゃないよ。

汐里:だめなの!!!!!

真守:ずっと、ずっと好きだって!

真守:これからも、この先も、今も、今までも、一秒だって、忘れたことなんてない!

汐里:だめだってば。

真守:これからだって、ずっと、ずっと好きなままだ。

汐里:ダメなんだよ……わかってよ……。

真守:わかんない。

汐里:つらいじゃん、そんなの。

真守:つらくない。

汐里:つらいよ。

真守:勝手に決めつけんなよ。

汐里:決めつけじゃないよ、わかるもん

真守:それを決めつけって言うんだよ。

汐里:決めつけじゃない、絶対そうなる。つらくなる。さびしくなる。

真守:だから!それが決めつけだろって!

汐里:だって私死んでるんだよ!!!!!

真守:……。

汐里:……死んでるんだよ。

真守:いるじゃん、目の前に。

汐里:今だけだよ。

真守:見えなくたって……いるだろ。

汐里:触れられないんだよ。

真守:……。

汐里:まーくんのために、ゴミ出しもしてあげらんない、スマホトイレにあったよって持って行ってあげることも

真守:しお。

汐里:お味噌汁だって、お味噌汁だって作ってあげらんないんだよ。

真守:汐里。

汐里:忘れなきゃダメなんだよ、まーくんは、私の事、忘れなきゃダメ。

真守:無理だよ。

汐里:無理じゃない。

真守:忘れらんない。

汐里:だめ。忘れて。

真守:忘れたくないんだよ!!

汐里:……。

真守:汐里の、はにかむ顔も、俺がだらしなくて、何度も母親みたいに怒るときの顔も

真守:少し気の抜けた言葉遣いも、味噌汁にこだわりが強すぎるところも、ぜんぶ、

真守:ぜんぶ、忘れたくなんか、ないんだよ……

汐里:……泣かないで

真守:好きなんだよ、まだ、ずっと、今も、ずっとずっと

汐里:泣かないで、まーくん

真守:抱きしめたいんだよ、キスだってしたい、その髪に触れて

真守:にへらって笑う顔を!何度だって撫でたいのに

真守:思わない事なんてなかった、思わなかった事なんて、なかった。

真守:毎日、毎秒、何をするときも、何もしないときも

真守:ずっと、ずっと、ずっと!汐里の事ばっかりだ。

真守:ずっと。

汐里:泣かないでよ、まーくん、泣かないでよ

真守:ずっと、汐里のことばっかりだ。

汐里:ふいて、あげらんないの。まーくんの涙、ふいてあげらんないんだよ。

汐里:私、もう、抱きしめてもらうことも、抱きしめてあげることもできないんだよ。

真守:やだ

汐里:さびしくなっちゃうよ、まーくん

真守:やだ……

汐里:絶対、さみしくなっちゃう。その時、私、何もしてあげらんない。

汐里:だから、忘れて?もう、私のこと、好きでいちゃだめ。

真守:やだ。

汐里:……まーくん。

真守:……やだぁ。

汐里:……もう、真守……。

真守:うっ……ぐす……

汐里:……もー、しょうがない人だなぁ……ほんとに。

真守:しお……好きなんだよ……まだ……

汐里:……うん。

真守:汐里……

汐里:いつもはクールぶってたり、気だるさそうにしてるのにさ。

汐里:私の前でだけ、甘えん坊の君が、大好きだった。

真守:……。

汐里:外ではちゃんとしてるのにさ、なんか、ふふ、子供みたいでさ、かわいくて。

汐里:しょうがない人だなーって、あなたの、ぐす、あなたのね、頭をなでるのが、大好きだった……。

真守:うん……俺も……撫でられるの、好きだった……

汐里:よしよし。

真守:……。

汐里:しょうがない人。まーくん、よしよし。

真守:……ずっと、好きだから。

汐里:……うん。

真守:ずっと、変わらないから、それは。

汐里:わかったよ、うん、わかった。

真守:……大好きだよ、しお。

汐里:……しょうがない人。

汐里:……お味噌汁、煮えちゃったよ。

真守:……うん。

汐里:お味噌、いれて。

真守:うん。小さじ

汐里:……4杯。

真守:……うん。

汐里:……大好きだよ、まーくん。

真守:だいすきだ。

0:ふっ、と何事も無かったかのように。

0:汐里の姿は消えた。

真守:……汐里。

真守:……味噌汁、毎日作るから。

真守:毎日。

0:日付は、8月17日になっていた。