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臍帯とカフェイン

劇場版 ふとももと明太子

2023.10.25 12:54

配役2名

性別不問


ーーー

〇:だめ……

●:だめ、じゃないだろ。ここは、嫌がってないように見えるぞ

〇:だ、だめ。まだ海苔を巻かないで…っ

●:おいおい、期待してるんじゃないか、海苔を

●:巻くなんて一言も言ってないぞ

〇:あ…あ…だ、だって

●:正直になれよ、なあ

〇:あ、ああ……だめ……だ、めぇっ……

〇:全然うまく握れないです、大将。

●:本当に不器用だなおまえは。

●:寿司のひとつも碌に握れねぇのか。

〇:す、すいません。で、でもどうしてもシャリがほぐれてしまって……

●:きちんと握れねぇ寿司なんて寿司じゃねえ、わかるか

〇:(好き、のイントネーションで)寿司……じゃない……

●:そうだ、寿司じゃない

〇:私の事……寿司じゃないんですか……

●:ああ、悪いが、そういう風に見ることはできない

〇:ひどい……っ

〇:あんだけ寿司だって、お前が寿司だって、熱く求めてくれたのに……っ

●:…聞き分けのないことを言うんじゃない

〇:嫌よ!!ちゃんと言ってよ!私の目を見て、ちゃんと寿司って言って!

●:…寿司だよ

〇:ほんとに……?

●:ああ、寿司だよ……

〇:……嘘ばっかり

●:…おまえが言えって言ったんだろ

〇:……そうだよ、女の子は誰だって言ってほしいんだよ、ちゃんと

〇:目をみて、お前の事が寿司だ、って

●:……。

〇:……別のこと、考えてるでしょ

●:考えてないよ

〇:うそ、うそばっかり。わかってる。

〇:(奥さん、のイントネーションで)国産でしょ。国産の事考えてたんでしょ。

●:…ちがうよ

〇:私の目を見て

●:……

〇:国産のこと、考えてたでしょ

●:……考えてたよ、ああ!考えてたさ!

〇:ひどい……何よ、何を考えてたのよ、国産の何を考えてたのよ!!!!

●:メバチだよ!!!!!メバチマグロのことだよ!!!!

〇:大将……っ

●:…来る日も来る日も、考えるのは国産のメバチマグロのことばっかりだ

●:でも、お前の事も寿司だと思ってる!寿司だよ、それは間違いない!!

〇:……教えて。

●:……え?

〇:……握り方、教えてよ……。

●:…弟子……。

〇:これが、最後でもいいから……最後に……

●:……わかった。

〇:あっ……

●:後ろから、抱きしめながらが、好き……だったろ

〇:覚えてて、くれたんだ…うれしい

●:……ほら、にぎって

〇:あ……熱い……

●:当然だろ……まだ炊き立てなんだ……

〇:こんなの…はじめて……

●:いつもは、俺が……酢飯にしてるからな……

〇:…いつも、がまんしてくれてたんだ

●:……どうってこと、ないさ

〇:キス……

●:え

〇:大将、キス……

●:な、お、おい

〇:キス、さばいて……?

●:大胆だな……

〇:だって……最後になっちゃうから……

●:……濃厚な、キス、さばいちゃうぞ、いいのか

〇:……うん、して

●:あ…すごい……身がきれいだ

〇:やだ、恥ずかしい

●:もっとちゃんと見せてくれ、さあ、三枚に卸すから

〇:あっ…ああっ、すごい、すごい包丁さばき、キスが卸されてる

〇:中骨も綺麗にはがされてる、すごい…すごい…ああっ

●:ほら、もうこんなに綺麗に卸されてる。ぬらぬらと、身が光ってるぞ

〇:や、やだ、言わないで

●:なんて新鮮なんだ、そのまましゃぶりつきたい

〇:やだ、言わないで、恥ずかしい

●:ほら、よく見るんだ、きらきらと、白く身が、ぷっくりとなっている

〇:い、いや……いじわる……

●:これは天ぷらにしよう、油の準備をしてくれ弟子

〇:合点承知です大将っ!

●:ほら、次はこれだ、わかるな?

〇:あ、だ、だめ、それは……

●:もうこんなに赤くなってる、今にもはじけ飛んでしまいそうだ

〇:いや……そんなんじゃない……

●:そんなんじゃなくないだろう、よく見なさい、こんなにぬらぬらと

〇:い、いやっ……だって……お高いやつだから

●:切れ子でもない、バラ子でもない、一本丸々の……太くて、おおきくて、粒一つ一つがこんなにも大きい……

〇:い、いや、だめ!!あ、あ……

●:ほら、クチに出して言ってみなさい

〇:あ……一本丸々の…太くて、おおきくて、粒の立った……「明太子」

●:そうだ、握ってみなさい

〇:あ…ぷにぷにしてる……すごく、ぷにぷにしてる

●:においは…?においはどうだね……?

〇:…すごく…辛そう……

●:そうだ、「辛子明太子」だからな……子供にはまだ早い、辛くて、しょっぱい

●:酒にもあう、「辛子明太子」だ

〇:だ、だめ!!食欲が、で、でちゃう

●:ほら、もっとよく握るんだ

〇:だ、だめ、つぶれちゃう……

●:膜をとって中身をこの皿に移して、あとで軍艦にするから

〇:はい!大将!

〇:あっ……つ、つぶれた明太子が私のふとももに……

●:馬鹿野郎、もったいねえことをするな

〇:ご、ごめんなさい……

●:なめるんだ

〇:…えっ

●:なめなさい

〇:で、でも……

●:なめられないのか?

〇:だ、だって……そんなこと、したことない

●:はやく、なめなさい

〇:は、はい……(ふとももについてしまった明太子を掬い取り、なめる)

〇:あ……おいしい……

●:食品衛生的にはアウトだからな

〇:じゃあなんで舐めさせたんですか

●:味はどうだった

〇:えっ……

●:どうだったと聞いてるんだよ

〇:……おいしかった、です

●:それだけじゃないだろう

〇:そ、それは……

●:はじめてだったんだろう?

〇:は、はい……

●:ほら

〇:う、うう……しょっぱくて、海産物の……味がしました……

●:明太子だから、そりゃそうだ

〇:じゃあなんで言わせたんですか!!

●:ほら!はやく軍艦の準備をしねぇかい!

〇:う、うまくできないんです……

●:まったく、しょうがないな……ほら、まず銀シャリをひとつかみするんだ

〇:こ、こうですか

●:そうだ、いいぞ、うまいな

〇:あ…く、崩れちゃう………

●:優しく、包み込むように握るんだ…強く握ったら、シャリが固くなる

〇:ほんとだ……すごく、かたい……

●:やさしく、形を整えて……

〇:あ、こ、こうですか

●:やればできるじゃないか

〇:う、うれしい……

●:整ったら、海苔を優しく、このシャリの筋をなぞるように巻くんだ……

〇:筋……

●:筋

〇:筋……

●:筋。

〇:筋どこ……

●:横の部分だよ

〇:こ、ここですか……

●:そうだ、なんていやらしい手つきなんだ、海苔が綺麗にシャリを包んでいる

〇:い、いや、いじわる……

●:ほめてるんだよ、綺麗な巻き方だ……

〇:…寿司

●:えっ

〇:寿司……だから、なんだって、できる……

●:弟子……

〇:わたし、いつまでも、貴方のこと、寿司です……大将……

●:お、おまえ……

〇:……もう終わっちゃう、終わりたくない、もっと、もっと私のこと寿司でいてほしい

〇:いなり寿司も、手巻き寿司も、私なんだって作るよ、ねえ

〇:いや、終わりたくない……

●:……終わらせよう、弟子

〇:いや……っ

●:寿司には、終わりがくるんだよ、弟子

●:寿司は、寿司って言うだけじゃだめだ

●:握って、乗せて、味わって、それをお客さんの前に出してはじめて

●:寿司は寿司になる

〇:……

●:最高の寿司を、二人の寿司を、終わらせるんだ、弟子

〇:……はい

●:さっきの赤く、粒のでかい明太子を、そのお前の軍艦に自分で乗せるんだ

〇:あ…だめ、こわい

●:こわくない、さあ

〇:あ、あ、だめ、(軍艦の乗せるところが)狭くて、うまく、明太子が入らない……

●:大丈夫、ほら、落ち着いて、手を添えながら……

〇:あ……乗った……

●:やればできるじゃねえか、これが明太子軍艦巻きだ

〇:すごい……私、できた……

●:……寿司だよ

〇:………大将………。

〇:私も、大寿司(だいすし)……。

〇:キス……して………。

●:あ、キスのてんぷら作るの忘れてた。

〇:もう!!!大将ぅ!!!