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美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

死への絶望と生への渇望 ー迫真の人間ドラマー 「難破船」(ウィリアム・ターナー 作 1805年 テート・ブリテン美術館所蔵)

2018.09.16 03:24

(「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2018.5.26>主な解説より引用) 

 この作品は、イギリス・ロンドンにある「テート・ブリテン(Tate Britain・国立美術館)」に所蔵されている。

 嵐を見て描いたかのような、超リアルな荒海の緻密な描写、その場にいたかのようなリアリティ、底なしの海へ放り出されんとする恐怖から、阿鼻叫喚の声さえ聞こえてくるよう。

「かつて世界はこの絵のようなものを観たことがなかった」「海の本当の姿を目の当たりにしたと錯覚するくらいのリアリティ」

 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851年)が、自然の持つ本当の姿を描きたいとの渇望から、新しい風景画への挑戦に挑んだ作品のひとつが、「難破船」である。

 「船」のタイトルであるにもかかわらず、肝心の難破船はどこに描かれているのか・・

その船は、よく観ると画面の奥に描かれている。ターナーが描いたこれまでの風景画には、人物の描写はほとんど見られなかった。この作品でターナーがクローズアップしたのは、難破した「船」そのものではなく、「人間の極限状態における露わなドラマ」「迫真の人間ドラマ」そのものである。

 そこには、画面中央で海に放り出された絶望感で恐怖にうち震える人間と、画面右上で、嵐に立ち向かい、勇敢に救助しようとしている人間(漁師)とのドラマの展開がみてとれる。

 絶望の淵にあっても、光を放たんとする希望の輝きの一端が垣間見える、「人間のドラマ画」がそこにある・・・ 

(番組を視聴しての私の感想綴り)

 イギリスの天才画家・ターナーは、生涯にわたって家族をもたなかった。また、人とのコミュニケーションも不得手であったとされる。彼は絵に救いを求めて、早くも14歳にしてロイヤル・アカデミー美術学校へ入学。

 本作品以前のターナーの絵画には、人が登場することはほとんどなかったという。「風景」「海の絵」そのものを、ひたすら描いていくうちに、ふと描いている「自然また海そのものとは何か」を追求していく。

 その気づきから、本作品「難破船」によって、初めて人間を登場させる。

「海の圧倒的な力」と「人々の死への絶望と生への渇望」を、二項対立させ二重写しにする中で、「自然の本当の姿」を描くとともに、人間のもつ勇敢さ、自らの命さえもかけてまでも、人々を救わんとする希望の光を再現してみせた。

 ターナーのその着眼点の深さというか、「自然の本質」、「人間のもつ弱さと強さの本質」を極めんとする視点には、目を見張った。「嵐の海」を単に描写したのではないのだと気づかされた。

 またこの作品には、イギリスという海洋国家(Ship of State)の威信と輝かしい誇りが、描き込められている。

 テート・ブリテンが、館内の一角を、ターナー作品の常設展示室としている。さらには、毎年「ターナー賞展」と呼ばれる美術展を開催している。ターナー作品は、そのどれもがイギリス国民の誇りとされるほど、評価されていることの証でもあるのだろう。

 写真: 「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2018.5.26>より。同視聴者センターより許諾済。