8月15日(水)『歌舞伎座8月第三部、連盟三五大切』
歌舞伎座の8月公演は、三部制で、今日はその三部である、盟三五大切(かみかかてさんごたいせつ)を観た。源五兵衛を幸四郎、芸者小万を七之助、三五郎を獅童が勤めた。
鶴屋南北の名作だが、江戸時代の忠義と言う言葉とその中味を、皮肉なものとして南北は描いている。忠義の為に、百両の金が次々に人の手に渡り、金が渡るとともに殺人事件が起こる、金と血で塗られた忠義という概念が、江戸時代だけでなく、今の世でも実に馬鹿馬鹿しいものだと感じさせるように鶴屋南北が仕組んだ芝居だと思った。
舞台は、川に浮かんだチョキ舟から始まる。深川芸者の小万と船頭三五郎が乗っている。七之助の小万は、伝法なしゃべり方と色気を見せるが、獅童の船頭が淡白、子供まで作った夫婦仲とは思えない。獅童は江戸っ子らしいしゃべり方が薄く、船の中で芸者である女といちゃつき、セックスも仕掛けようという色模様には見えなかった。
そこに源五兵衛が船に乗り、川の上で擦れ違う。源五兵衛は、実は塩谷の浪人不破数衛門で、仇討ちに参加する金を工面しようとしている。幸四郎の源五兵衛は、顔が白塗り過ぎるのと、声が暗すぎる。小万と三五郎の舟の中の話で、源五兵衛から、小万が相当の金を搾り取っている事が分かる。川の上で、入れあげている子万とばったり擦れ違うが、源五兵衛が、小万に相当金を使っているはずなのに、船頭と小万がいちゃ付いている姿をみて、嫉妬心もなく、何も感じないのは不思議だ。
こうして最初に主要な登場人物が現れ、関係が明瞭になるので、舞台を見やすい。小万を中に置き、亭主の三五郎と、小万に入れ込む浪人源五兵衛の関係が良く分かった。
この芝居の面白い所は、源五兵衛が、叔父から敵討ちに加わるため100両の大金を貰い、これを知った三五郎と小万がグルとなって、大掛かりな芝居を打ち、この100両を奪いとる場面だ。
当然ながら源五兵衛は、小万と三五郎が夫婦関係にある事を知らない。小万が田舎の侍から身請けされる話が進んでいて、このままだと小万は田舎侍に引かれてしまうと、三五郎は、源五兵衛に切々と訴えるが、訴える言葉が江戸弁になっていないのと、テンポがないので、言葉で攻め切れないのが難点。
源五兵衛の手元には叔父から、討ち入り参加の資金としてもらった百両の金がある。三五郎の話に乗せられて、源五兵衛は、小万が田舎の侍の身請けされる現場に連れ込まれてしまう。討ち入りの為叔父が用立ててくれた大事な100両である。しかし、三五郎の言葉に乗せられ、結局大事な百両を、小万の身請けの金として出してしまう。三五郎役の獅童の金を出させる芝居が単調で、源五兵衛を言葉で追い詰めていく芝居が苦しい。
結局、源五兵衛は、討ち入りを取るか(忠義)、女を取るかの選択を迫られ、女を取ってしまった事になる。源五兵衛は、討ち入りと言う忠義を捨てて、好きな女と過ごす事を選んだのだ。
しかし話はこれで終わらない、金を出した瞬間に、三五郎が、小万は俺の女房だと啖呵を切る。源五兵衛は、ここにきて、ようやく100両の金を騙し取られたと知るのである。三五郎が源五兵衛から100両と言う大金を騙し取る、追い詰め感が面白い芝居である。
私は、源五兵衛が、追い込まれていくこの幕の芝居が好きだ。だんだんと追い詰められていき、100両もの大金を、女の身請けの為に、出さねばならないように心理的に追い込まれる源五兵衛、そして追い込んでいく三五郎。小万を身請けしようとする侍、悲しげな小万、部屋にいる全員が、協力して、源五兵衛が100両の金を出さざるおえないように仕向けて行く、このあたりの追い込み方が好きだ。役者の腕の見せ所である。
忠義を取るか、女を取るか、さんざん悩ませ、女を取る方に、全員協力して進め、結局女を取らせる。忠義より女かと、江戸の人達は、忠義なんてそんなものだろうと思っただろう。
三五郎の獅童の江戸弁がぎごちなくて、ただでさえ嘘っぽい芝居が、余計に嘘っぽくて、これでは源五兵衛を追い込められないのではないかと思った。
騙されたと知りその夜、源五兵衛は、三五郎の家を襲い、怒りに任せて、五人を惨殺してしまう。役人の手入れが入ると、家来が身代わりになり、捕縛される。忠義の為に命を捨てる下僕が悲しい。橋之助が好演した。