9月2日(日)『九月歌舞伎座秀山祭、金閣寺、鬼揃紅葉狩り、河内山』
今日は、歌舞伎座九月興行の初日である。注目は福助5年ぶりの復活。歌舞伎座の入り口には、マスコミ対応の窓口が出来ていた。襲名披露初日によく見る光景だが、今日は、中村福助が5年ぶりに、歌舞伎の舞台に戻ってくるので、松竹がマスコミ各社に取材を依頼したのだろう。場内は、福助の歌舞伎復帰を寿ぐ観客で、満員の盛況だった。
福助は、5年前に、脳溢血で倒れ、体に麻痺があるとか、言語不明瞭になっていると伝えられ、歌舞伎役者としての復帰は難しいのではないかとも思われてきた。この間の情報が全くなく、唐突に、歌舞伎のチラシに福助の名前が載ったので、ものすごく驚いたものだ。5年の間、福助の必死のリハビリが大きかったと思う。福助が今月の歌舞伎座に、出演することが決まり、福助ファンは、さぞ嬉しかっただろうし、福助ファンでもない私も喜んだ。福助復活の今日の日を、誰もが待ち望んだのである。
福助の役は慶寿院尼で、金閣寺の最上階で、観客に姿を表す事になるのだが、御簾が降りていて、福助の姿は見えない。御簾の後ろには、福助が座って居る事は誰でも分かっているので、場内からは、「待ってました」「成駒屋」と言う声が、あちこちから飛び、拍手が沸き起こった。1分以上は拍手が途切れなかった。ようやく御簾が上がると、拍手が一段と大きく鳴り渡り、拍手が止まらない。歌舞伎座に詰め掛けた大勢の観客が、福助復活の舞台を寿いでいるようで、私も、『成駒屋』と大きく声をかけて、拍手を続けた。
静々と御簾が開き、座った福助が,白塗りの顔で座っていた。そしてしっかりとした口調で、三つのセリフを、確かな口調で言った。ここでまた拍手が起きる。白く塗られた顔は、少しやつれた感じがしたが、細身の顔は、凛として、表情を崩さず、堂々と演じていた。腕は不自由さが感じられたが、気にならなかった。御簾が降りると、再び会場から大きな拍手が起きた。
福助は、亡くなった芝翫の子供で、橋之助、現在の芝翫の兄で、女形として活躍してきた。歌右衛門の襲名が決まっていたが、襲名直前に、病に倒れて、失意の日を送っていた事だろう。福助本人も、さぞ嬉しかっただろうと推測するが、歌右衛門襲名に繋がる事を期待したい。
金閣寺は、福助が何度も雪姫を演じていただけに、息子の児太郎が、今回は雪姫を演じ、父親を励ましているようだった。小太郎は、若いだけに、縛られた後の、体のひねり、地面に寝た姿が立体的で、寝姿の形が美しく、あまり美形とはいえない顔だが、精一杯の白塗りのメイクをして、熱演していた。私は、児太郎が、初めて綺麗だと思った。芸が上がったのだろう。田だ、刀を持ったところは、男を消しきれず、硬かったのが残念だった。梅玉の真柴久吉は、白塗りで、行儀正しい演技をして、好感をもった。松永大膳は松緑、メイクがうまく、青森のねぶたのような、迫力ある顔だった。
鬼揃紅葉狩は、幸四郎の更科の前が綺麗で何より。若い時代から女形メイクをすると、美しく、隣とした美形になるが、今日も綺麗だった。女形の三役の一つ雪姫だが、幸四郎の雪姫もありかなと、ふと考えた。平惟茂は錦之助、もう持ち役なので、言うことはなし。
最後が、吉右衛門の河内山。吉右衛門の洒脱さが、随所に見られ、楽しい芝居となった。
最後の「ばかめ」は、大きく叫ぶことなく、侮るような、口ぶりで、話していた。ただ初日なので、金が出てきたところで、袱紗を、扇子であけ、金を盗み見ようとしたところで、すぐに、時計の音が鳴らず、少し間が開いたのが残念だった。
河内山が、出雲守を、問い詰めるところ、最後に正体を見破られ、「悪に強きは善にもと、」以下の啖呵は、気持ちよく聞いた。全体として、吉右衛門の河内山は、押し引きを激しく出すと思っていたが、今回の河内山は、割と淡白に進み、聞かせどころで爆発させている感じがした。「大播磨」の声がばんばんかかり、見ていてすかっとして、充実した舞台だった。幸四郎の、終始仏頂面部の出雲守が、いかにも大不満を抑えているようで良かった。