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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

十字軍後1-バイバルスの快進撃

2018.09.16 09:05

第8回十字軍の撤退後、マルムーク朝のバイバルスは快進撃を開始する。最大の目標は、聖ヨハネ騎士団の大要塞「クラック・デ・シュバリエ」である。30mの外壁に7つの塔を備えて堅固な土地に聳える要塞はまさに難航不落。しかしバイバルスは71年4月8日、偽のトリポリ伯の撤退命令を出し、騎士団を撤退させた後、この要塞を陥落させた。

その後、テンプル騎士団の要塞、ドイツ騎士団のモンフォート要塞を次々に落としていくバイバルスに、イスラムは英雄と讃え、欧州は「カエサルの如き英雄、ネロの如き暴君」と恐れた。シチリア王シャルルは、73年バイバルスと10年10カ月の休戦条約を結び、残りのアッコ、トリポリの十字軍国家は一息つくことができた。

アッコにはまだ英国皇太子エドワードの軍が残っていた。これを目ざわりと思ったバイバルスは、72年休戦交渉中に、新しく傘下に収めたアサシン教団に暗殺をさせる。エドワードは、毒塗りの短剣で刺されたが、危うく一命をとりとめ、9月に帰国せざるをえなくなった。

この休戦を利用してバイバルスは、モンゴルのイルハーンに勝利を収め、スーダンにも勢力を広げた。彼は十字軍とモンゴルを撃退し、レヴァントと北アフリカのイスラム圏を再び強固にして、1276年、崩御した。欧州から悪魔のように言われたバイバルスだが、富に執着せず、弱者救済に努めた良きスルタンだったようだ。

下はギュスターブ・ドレ作「エドワードとアサシン」王妃に毒を吸い出して助かったという逸話もある