【Caravan/HARVEST PARK】茅ヶ崎の美しい里山のための第一歩。
サーフタウンとして知られている茅ヶ崎。南の海に対し、北は田畑などの美しい里山が広がっている。その美しい里山を残していくために自分たちにできることは何なのか。その答えのひとつがフリーフェスだった。
文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
––– 「HARVEST PARK」を開催しようと思った、そもそものきっかけから聞かせてください。
コロナ禍に田んぼで米づくりをはじめたのが大きかったですね。ミュージシャンが時間を持て余し宙ブラリンになってしまったときに、八一農園の(衣川)晃たちが、本気で米づくりに取り組んでくれるんだったら一緒にやろうと言ってくれて。彼はファーマーなんだけど、畑だけで米は作ってなかったんです。主食である米を自分たちでつくることができたなら、精神的にも折れずに暮らしていけるんじゃないかって思って。コロナという見えないものによって仕事は減ってしまったけれど、米だけは家族分あるぞっていう状態を作りたいよねって話してて。
––– 田んぼにしろ畑にしろ、一度借りたら簡単には止められないから。
テレビでは感染者数が増えたとか第何波に入ったとか言ってるけど、田んぼでは米が健やかに育っている。春には小さかった稲が秋には実っていくし、鳥や虫や微生物もいっぱいいて、自然体系も美しい。健やかな空気感が田んぼには広がっている。米づくりが自分のメンタルを支えてくれて。
––– ライブをやること自体が悪者になっていたし。
自分は音楽に救われてきたんだけど、それをやることがすごく悪みたいなムードになってきていて。
––– 社会に蔓延していたネガティブさを田んぼがポジティブに変えてくれていた?
結局、大騒ぎしているのは人間だけでさ。俯瞰して地球規模で見たら、コロナは大きな問題じゃないなって思えて。ちゃんと植物は育っているしね。もちろん人にとってはリスクもあって甘く考えてちゃいけないんだけど、田んぼをやって本当に良かったと思ったんですよね。田んぼに行くとフラットな気持ちになって家に帰ることができた。その田んぼがあるのが、茅ヶ崎の北側のエリアなんです。田んぼをやることによって北側に行って、そこにあるいろんな問題も見えてきて。
––– 茅ヶ崎のイメージって海ですよね。
茅ヶ崎はビーチタウンでサーフタウン。海辺はキラキラしているんです。いろんな光も当たるし、お祭りやイベントもいっぱいある。けれど北側の田んぼや畑は夜になると真っ暗で、冷蔵庫や自転車などポイ捨てレベルじゃない不法投棄が多い。
––– 田んぼや畑にもゴミが捨てられているんですね。
食べ物をつくっているところにゴミが捨てられているっていうことが、シンプルに悲しくて。それをどうにかしようっていう動きが茅ヶ崎市にもあまり見られないんです。だったら自分たちでアクションを起こせないかと思ったんですね。
––– その思いが「HARVEST PARK」につながっていった?
その一歩目として、5月から里山クリーンという里山をゴミ拾いをしながら歩くっていう活動をはじめたんです。今も月に1回ですけど続けています。美しい田園風景を見て歩くのって気持ちいいんですよ。ゴミを拾うことで気持ちよさはさらに大きくなっていく。日頃からゴミ拾いをしている自分たちが公園を借りてフリーイベントを開催する。イベントに遊びに来てもらうことで、「海辺だけじゃなくこの辺もいいよね」っていう身近に感じてもらえればなって。
––– 実際に行くことで自分の場所になったり自分事になったりしますから。
イベントでゴミを捨てるなっていうことを声高に言う気はまったくなくて。純粋に、収穫祭として1日をみんなで楽しく過ごせたらなって。いろんな音楽も見られるし、楽しいワークショップもあるし、美味しいご飯もある。おじいちゃんもおばあちゃんも小さな子どもも、誰もが参加できる手づくりの地域の祭り。そして小さなお土産として、この近辺ではゴミなどの問題があるっていうことを持ち帰ってもらえたらなって。
––– フェスに関してはいつぐらいから動きはじめたのですか。
実は米づくりをはじめた4年前にイベントやろうよっていう話をしてたんです。それで市役所とか公園側に掛け合ったりしてたんだけど、そんなこうしてるうちにどんどんコロナが蔓延してきちゃって。
––– 会場はどんな公園?
きれいないい公園なんですよ。代々木公園とまではいかないけど、近隣の人達の憩いの場。お弁当を広げて食べたり。大きい遊具もあって子供も遊んでたり。
––– 近くの公園ということが「HARVEST PARK」のポイントになっていると思います。
いつもそこで遊んでる人が、「今日はチケットないと入れません」っていうのは、ちょっと違うんじゃないかなと思って。
––– だから入場は無料だと。
結局フリーでやるってことは協力者を募って、趣旨をを説明して協賛金に集めて。本当にいろんな人と会ったんですね。自分はひと昔前の人間だから、メールだけでやり取りしているとどこか不安で。だからちょっとでもいいので会う時間をくださいってお願いして。知り合ってから長いけど、あまり話し込んだことがないっていう仲間も多いんですよね。そんな時間を作ることができて、自分としてはいいことだらけ(笑)。
––– 動くことで新しい何かも見えてきたのではないですか。
論より行動っていうことを、自分の今年のテーマに決めていたんですね。今回はゼロから1へ。一発目での100点満点はあり得ないと思うから、目標としては無事に開催し、無事に終えること。
––– いろんな人に参加してもらいたいという思いが入場無料になっている?
文化の日に開催するのも、ちょっと願いを込めていて。農作物をつくることってクリエーションだと思うんですね。食と農と音楽って、今の自分にとっては必要不可欠なものだし、その3つを軸にしたイベント。子どもたちが「ギターがかっこいい」とか「農業が楽しそう」とか「美味しいものをつくりたいからコックさんになりたい」とか。そんなきっかけになってもらえたらうれしいし、いろんな生き方があるんだよっていうことを見られる場所にもしたいんですね。
––– フェスを主催として自分でやることって、前から考えていましたか?
漠然とCaravan主催のフェスみたいなものをやりたいよねっていう話はしていたんです。だけどそれだとライブパーティーになっちゃうから、それを自分がやる意味があるのかってずっと思っていて。哲学があって概念が生まれて、そのためにイベントをやる。それが目の前に現れたら、後先考えずに動けたんですね。お客さんをいっぱい呼んでパーティーしようよじゃなくて、このイベントの裏にはこういうテーマがあって、こういう問題を解決したい。こういうところに光を当てたいっていう気持ちがあって、それを実現するための音楽を核にしたイベント。それだったら自分がやる意味があるって思えて。体感した自分にしかできないし、俺たちでやろうって素直に言い出せたんです。経済的な目標でやるわけでもなく、承認欲求でやるわけでもなくて。ひとつの得体の知れないムーブメントみたいなものが動いたらおもしろいなって思ってます。
––– 出演するアーティストとイベントを構築するオーガナイザー。意識は変わるものですか。
こんな大変なことをみんながやることによって、イベントが生まれているんだなってやっとわかって。基本的に、はじめは自分たちでやりたい。自分たちでできる範囲のことをやっていきながら、大きくなったらそのときにまた考えればいい。今年はCaravanが出演しなくて、完全に裏方に徹するという年もあっていいし。ライブはやらないけど、おにぎりは握ってますとか(笑)。
––– 「HARVEST PARK」はアクトローカリーの場であると。
自分の手の届く場所、自分のテリトリーを自分たちで楽園にしていくこと。それが今は大切かなって思っています。
シンガーソングライターのCaravanとファーマーの衣川晃(八一農園)。音楽と農というジャンルを超え、未来スタイルのビジョンを共有させたふたりが立ち上げたフリーフェス。茅ヶ崎北部の里山公園をフィールドに、老若男女が集う手づくりの収穫祭を目指して開催される。
開催日:11月3日(金・祝)
会場:茅ヶ崎里山公園多目的広場(神奈川県茅ヶ崎市)
出演:Caravan、Leyona、東田トモヒロ、Keishi Tanaka、Delicious Grapefruits Moon、近藤康平、ほか