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なるの台本置き場

【男2:女2】アトランティスは秘室に睡る

2023.10.29 13:00

男2:女2/時間目安40分



【題名】

アトランティスは秘室に睡る

(アトランティスはひしつにねむる)



【登場人物】

エマ・カーター:遺失物調査団 特級調査員

リル:人魚/カナロアの弟

ダニエル・クルス:エマの上司/調査団の司令官。

カナロア:人魚の一族の王。



(以下をコピーしてお使い下さい)


『アトランティスは秘室に睡る』

作者:なる

https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/48938962

エマ(女):

リル(男):

ダニエル(男):

カナロア(女):




-------- ✽ --------






001リル:何か探し物?


002エマ:えっ……?


003リル:何か探してるなら僕が手伝ってあげるよ。



(ほんの少し間)



004エマM:誰もいないはずの海に、人影がひとつ。



(ほんの少し間)



005リル:あの〜?


006エマ:人、魚……?本当に……?


007リル:あ、人間は人魚が嫌いなんだっけ。えっと……。


008エマ:あの!


009リル:何?


010エマ:人魚様はどこから来たのですか?人魚様は何処に住んでいるのですか?人魚様は普段何をなさっているんですか?人魚様は御家族とかいらっしゃるのですか?(※途中で止める)


011リル:(※途中で遮る)ちょっとちょっと!ストップ!順番に答えるから!


012エマ:あっ……すみません……つい。


013リル:ふふ……あはは!君、面白いね!


014エマ:エマって呼んでください。貴方のことはなんとお呼びすれば?


015リル:僕はリル。好きなように呼んでくれ。


016エマ:リル……海の神の名前ですか。


017リル:君も、名前の通り頭がいいね。


018エマ:そうですか?


019リル:面白い。


020エマ:あっ、そうだ。ここにいると別の人間がリル様を見つけるかもしれません。そうなるとまずいことになるので、えっと……。


021リル:まずいこと?


022エマ:人魚様ご本人に言う事ではないと思うのですが、王都沈没後、人魚様を見たら通報するようにとお触れが出ているんです。


023リル:言わないとどうなる?


024エマ:……リル様は王城跡地の裏側が、崖になっている事をご存知ですか?


025リル:あぁ、海が特別深いところだね。


026エマ:はい。そこは人魚様と通じていた者を罰する場所として使われているんです。『罪人は人魚の元へ』と。


027リル:ふふ……人間らしい。


028エマ:申し訳ありません。


029リル:どうしてエマが謝るの?


030エマ:王都沈没は人間の欲深さが招いたと聞いております。皆、人魚様が悪いと言いますが、私はそうは思えないんです。


031リル:そう。……ふふ、気に入った。エマの探し物、これからは僕が手伝ってあげる。


032エマ:何故それを……?


033リル:その胸元に付いてるマーク。それを付けている人が毎日海に来ては沈んだ物を陸に持って帰るんだ。エマもその仲間だろう?


034エマ:その通りです。


035リル:それでさ、僕とこのまま話していていいの?エマが罪人になってしまうんじゃない?


036エマ:他の者は皆(みな)特別任務に出ておりまして、このエリアには私しかいないのです。今日のところは大丈夫ですが、この先何があるか分かりません。ですからこの辺りには近付かない方が宜しいかと。


037リル:エマはさっき僕が言ったことを忘れたの?僕は探し物を手伝うって言ったんだよ。


038エマ:しかし、見つかってリル様に何かあっては。


039リル:じゃあまた見つからないように声をかけるよ。それでいい?


040エマ:はい。分かりました。


041リル:次はいつ来るの?


042エマ:2日後の夜にまた参ります。


043リル:2日後だから……太陽が2回ほど沈んだ時、だね。分かった。


044エマ:では、そろそろ。お気を付けて。


(リルが海に戻る)

(エマが座り込む)


045エマ:あはは……人魚様って実在したんだ。







046カナロア:リル!……リル!


047リル:姉さん?どうかした?


048カナロア:どこに行っていた。どれだけ探したと思っている。


049リル:ただの散歩だよ。考え事しながら泳いでたら遅くなっちゃった。


050カナロア:はあ……ただでさえ人間があちこちにいるというのに何をやっている。何かあってからでは遅いんだぞ。


051リル:心配かけて悪かったよ。


052カナロア:まさかまた人間を見に行ったわけではなかろうな。次期王ともあろう者がそれでは(※被せ)


053リル:(※被せ)僕は王にはならないよ。


054カナロア:……何故。


055リル:そんな堅苦しい役目なんてごめんだよ。僕は自由でありたい。それに……僕は姉さんみたいに冷静に物事を判断して争いごとを鎮めるのなんてできない。姉さんもわかってるでしょ?……そういうの向いてないんだ。


056カナロア:そうか。……お前には期待していたんだがな。


057リル:……ひとつ聞いてもいい?


058カナロア:なんだ?


059リル:姉さんはどうして人間が嫌いなの?


060カナロア:……奴らは私の宝を二度も奪ったのさ。


061リル:それで海を荒らしたの?


062カナロア:あぁ。奴らは私の宝に手を出したんだ。都を滅ぼすには十分過ぎる理由だろう。


063リル:でも姉さんは人間を愛していたじゃないか。


064カナロア:……奴らとディランを一緒にするな。奴らは彼を……いや、もう終わった話だ。私は人間を愛してなどいない。


065リル:姉さん……。


066カナロア:じゃあ私は少し泳いでくるから……リルも、人間には気をつけなさい。また食事の時に。


(少し間)


067リル:……嘘つき。







068エマ:遅くなり申し訳ありません!


069ダニエル:また遅刻だぞ、カーター。


070エマ:申し訳ございません。


071ダニエル:報告会議の時間は守るよういつも言ってるだろう。


072エマ:はい……。


073ダニエル:次遅刻したら、一月(ひとつき)は事務仕事を手伝ってもらうからな。


074エマ:はい……。


075ダニエル:特級調査員の椅子を狙ってる奴は山ほどいるんだからな、精々その椅子を取られないように。


076エマ:はい……以後気を付けます。


077ダニエル:(溜息)……じゃあ報告会議始めるぞー。



(少し間)



078エマM:報告会議、なんてのは名前だけで。会議という名前を借りた、ただの自慢話だ。それぞれが海から持ち帰ったものを自慢し合うだけ。……持ち帰ったと言っても、お貴族様の家にあった大きめの家具や絵画等。後に廃棄されるそれらを持ち帰ることに何の意味があるのか、私には分からない。



(少し間)



079ダニエル:おいカーター、聞いているのか。


080エマ:は、はい。


081ダニエル:(溜息)で、カーターは何を持って帰ったんだ。報告しろ。


082エマ:……今日は3番街のワトソンさんの日記と5番街のブラウンさんのパイプを。


083ダニエル:……ふふふ……あはははは!!!なんだそれ!!!そんなゴミを持ち帰ったのか!!!我らが特級調査員様は!!!あっはっはっは!!!!!


084エマ:そんな……!


085ダニエル:次はもっと意味のあるものを持ち帰って来るんだな!!!あはははは!!!!!



086エマM:……何のための遺失物調査員か。私はもう分からなくなっていた。







087エマ:……。


088リル:エマ?


089エマ:……(溜息)


090リル:エマ!


091エマ:はい?!?!


092リル:大丈夫?今日はずっと顔が暗いよ。


093エマ:も、申し訳ありません。


094リル:謝る必要はないよ。……何かあったのかい?


095エマ:いや、そんな。……何も。


096リル:何も無い顔ではないね。……ねぇエマ。少し泳がないかい?


097エマ:私の足じゃリル様に到底追いつけませんよ。


098リル:僕が手を引くから何ら問題はないよ。エマは波に身を任せていればいい。


099エマ:分かりました。


100リル:じゃあ行くよ。



101エマM:そう言ってリル様は私の手を掴んで泳ぎ出しました。いつの間にか嫌だった事なんて全部忘れていて。……私も人魚になれたらなんて、叶わぬ願いを抱いたりして。



(少し間)



102リル:さ、着いたよ。


103エマ:ここは?


104リル:嫌な事があった時に僕がよく来る場所。


105エマ:人間の街を見に来られるんですか?


106リル:そう。夜ならバレないし、ここから見る街並みは格別なんだ。他の場所はどこも高台に街があるから見えないけど、ここだけは良く見えるんだよ。……いつ見ても綺麗だ。


107エマ:……そうですね。街の中にいては見れない景色ですね。


108リル:それはこちらも同じ事だよ。


109エマ:どういう事ですか?


110リル:昔はみんな、海を綺麗だって言ってただろう?それと同じ。僕達は外から海を見ることは無いから、海の綺麗さが分からない。けれど、人間は海の綺麗さを知っている。


111エマ:なるほど。確かにそうかもしれないですね。


112リル:だからね、僕は思うんだ。人間も、人魚も、少し欲張ってしまっただけなんだって。


113エマ:……え?


114リル:あの日の事さ。人間は、アトランティス欲しさに海底神殿に入り宝物庫から海の秘宝を盗もうとした。そして人魚は、愛する者欲しさに街を海に沈めた。……どちらも欲張った結果さ。


115エマ:そのような考え方を聞いたのは初めてです。


116リル:エマはどう思う?


117エマ:私の御先祖様が生きていた頃、この街は海神ポセイドン様を信仰する街で、人魚様は神の使いであったと父が言っておりました。この話を知る者は何故か少ないのですが……それはきっと真実で、私達が人魚様の気に触る事をしてしまったから街は海の下に沈んでしまったのだと……私はそう信じています。


118リル:エマみたいな素直な子と出会えて僕は嬉しく思うよ。ただ、僕たちは神の使いなどでは無いから……そうだな……隣人。そうだ、隣人だと思っていて欲しい。


119エマ:そんな!恐れ多いです……!


120リル:そんな恐縮しなくていいのに。……それにしても、顔色が良くなってよかった。


121エマ:はい。……嫌な事なんて全て波にさらわれてしまいました。


122リル:波にさらわれる、か。いい表現だね、気に入った。


123エマ:それは良かったです。


124リル:エマは笑っている方がいいね。


125エマ:そ、そうですか?


126リル:あぁ、とても魅力的だ。


127エマ:買い被りすぎですよ。


128リル:そんな事は無い。


129エマ:身なりもそんなに綺麗じゃないですし。


130リル:身なりがそんなに大事なのか?


131エマ:それは……リル様はとても綺麗だから、この気持ちはわからないですよ。


132リル:(少し考える)……そうだな、私達の中に身なりに気を使うものはいないからな。


133エマ:あっ……すみません、そんな深い意味はなくて。


134リル:(少し遮る)だからエマが僕に教えてくれ。


135エマ:えっ。


136リル:エマは僕の唯一の隣人なんだ。……ダメかな?


137エマ:……いつか、ぜひ。


138リル:……『いつか』とはどういう意味だ?


139エマ:(その問いに思わず笑う)


140リル:何かおかしいことを言ったか?


141エマ:……いえ、リル様とお話するのはとても楽しいなと思いまして。


142リル:それは光栄だな。……あぁ、エマ。今度僕からひとつ贈り物をさせてほしい。


143エマ:そんな!人魚様から贈り物など、頂けません。


144リル:隣人からの、贈り物だ。


145エマ:その言い方はズルいです。


146リル:楽しみにしていてくれ。



(少し間)



147エマM:この贈り物が後に嵐の中心になるなど、この時の私は思いもしなかったのです。しかし、今思えば……あの方が『人魚様からの贈り物』に気づかないわけが無かったのです。







148リル:ここにいたんだ。


149カナロア:リル。何故ここに。


150リル:姉さんがいなくなったから探してこいって大役を任されたからだよ。……また誰にも言わずにここに来たんでしょう。


151カナロア:……あぁ。迷惑をかけてすまない。


152リル:また思い出していたの?ディランさんのこと。


153カナロア:あぁ。……もうすぐ彼が死んだ日なんだ。


154リル:何でそんなこと姉さんが知ってるのさ。


155カナロア:あの日……捕らえた人間を拷問していたらそんな話を聞いてな。……英雄は死んだと。


156リル:英雄、ね。


157カナロア:何が英雄だ。……全てを押し付けただけのくせに。


158リル:(少し呆れたように)どういう意味?


159カナロア:英雄は龍の怒りを鎮めるために遠征に行き、その旅先で死んだらしい。


160リル:龍の祠に向かったの?


161カナロア:あぁ。水龍の祠に人間がいたと魚達が驚いていたからな。それの事だろう。


162リル:よりにもよって水龍のところに向かうなんて、無謀だとは思わないのか?


163カナロア:その付近で見つかった人間は言っていたそうだ、『水龍なんて本当にいるはずがない』とな。


164リル:……バカなヤツら。


165カナロア:ディランの遺体は見つかってないそうだからな。もしかしたらまだ生きているかもしれないな。


166リル:……そうだね。


167カナロア:リルはどうなんだ?


168リル:どうって?


169カナロア:最近人間と親しくしているんだろう?


170リル:(気まづそうに)話が早いな。


171カナロア:この海で私が知らぬことなどあるわけが無いだろう。


172リル:女王様には叶わないよ。……別に何も無いよ。面白い人間だったからちょっと遊んでるだけ。


173カナロア:そうか。


174リル:それだけ?


175カナロア:ああ。……人間なんかと関わるなって言われると思ったか?


176リル:……まぁ。


177カナロア:……そんなこと私が言える立場じゃないからな。


178リル:いや、まぁそうだけど。


179カナロア:それに、弟とはいえ立派な人魚だ。私が今更言う事なんてない。


180リル:姉さんは僕のこと認めてないんだと思ってた。


181カナロア:認めない者に王の座を渡そうなんて酔狂な考えは持っていないさ。


182リル:そっか。


183カナロア:さぁ、皆の元に戻ろう、長く城を空けすぎた。


184リル:……姉さん?


185カナロア:何だ?


186リル:いや、何も。


187カナロア:変なやつだな。……ほら、帰ろう。







188ダニエル:おい、カーター!居るんだろう!どこ行った!


189エマ:はい、お呼びですか。


190ダニエル:ちょっとこっちに来い。話がある。



(少し間)



191ダニエル:入れ。


192エマ:話とは何でしょうか。


193ダニエル:心当たりがあるだろう。


194エマ:心当たり……?特にありませんが。


195ダニエル:本当か?今ならまだ通報しないでやるが。


196エマ:……なんの話でしょうか。私は通報されるような事は何もありませんが。


197ダニエル:ほう。……これはなんだ?


198エマ:……なんですか、この写真は。


199ダニエル:善良な市民が匿名で送ってきたものだ。


200エマ:……それで、この写真がどうしたのですか?


201ダニエル:とある調査員と人魚が仲良く話している証拠写真だ。


202エマ:……はぁ。


203ダニエル:……お前だろう、カーター。


204エマ:これが私だという根拠は?


205ダニエル:これが撮られたのはお前の担当エリアだ。それに加えてこの時間、外に出ていたのはお前だけなんだよ、カーター。


206エマ:そんなものいくらでも改ざん出来ますよね。


207ダニエル:善良な市民を疑うと?


208エマ:そう言うことでは……!


209ダニエル:では他に海のバケモノと仲良くしている市民がこの街にいると!そう言いたいのか。


210エマ:そんなことは言ってません。その写真は私ではないと申し上げているだけです。それに、こんな暗い写真でこの人が人魚であるとなぜ断定出来るんですか。


211ダニエル:この写真の場所で肩まで出るように浮くには身長が2.5メートルはないといけないなぁ。海を自由に動けるあのバケモノでない限りありえないんだよ。


212エマ:そんな憶測で人が裁けるとお思いですか。


213ダニエル:あぁ。俺は調査団の中でも上の方だからな。無いものもあったことに出来るんだよ。


214エマ:調査団の名が聞いて呆れますね。


215ダニエル:お前はなにか勘違いをしていないか?


216エマ:何をですか?


217ダニエル:我々が所属している遺失物調査団はバケモノが沈めた街に残った物を探す事が仕事だ。……それは表向きのな。


218エマ:表向き?


219ダニエル:特級調査員は別の役割があるんだよ。


220エマ:特級調査員は海に沈んだ理由を探り、過去を繰り返さないために調査をするのが仕事では?


221ダニエル:今自分で言ったじゃないか。


222エマ:え?


223ダニエル:海に沈んだ理由を探るんだよ。それはつまり海の秘宝を探す事だ。


224エマ:海の秘宝……?


225ダニエル:アトランティスだよ!アトランティスは海神の加護を受けている海の宝だ。


226エマ:この街が沈んだ時、怒った人魚を止めるために人間が贈ったネックレスが宝ではないのですか?


227ダニエル:そんなわけが無いだろう。人間が贈ったものなどあのバケモノたちが大事にしているわけが無い。


228エマ:そんなことはないです!


229ダニエル:お前に何がわかる。


230エマ:少なくともあなたよりは。


231ダニエル:それは罪の告白という事でいいか?


232エマ:いえ。


233ダニエル:……それなら取引をしよう。私は通報をしない。その代わりにアトランティスを探せ。


234エマ:私になんのメリットがあるのですか。


235ダニエル:私が通報すればお前は海の藻屑だ、カーター。……返事はすぐじゃなくていい。何が最善かちゃんと考えることだな。


236エマ:……失礼します。


237ダニエル:返事を楽しみにしているよ。

 






238リル:エマ!君にこれをあげるよ。


239エマ:これは?


240リル:僕が産まれた時に持っていた真珠だよ。


241エマ:そんな大事なもの頂けません。


242リル:いいんだよ、エマは特別だから。







243ダニエル:カーター。心は決まったか?


244エマ:……その取引、受けようと思います。


245ダニエル:そうか。お前が賢いだけのマヌケじゃなくて良かったよ。


246エマ:アトランティスについてどこまで分かっているのですか。


247ダニエル:……アトランティスは海底神殿にある。







248カナロア:リル!お前、真珠をどこにやった!


249リル:どこだっていいだろ。


250カナロア:いいわけが無いだろう!あれは、私達の命と同じくらい大事なものなんだぞ。あれが無くなったらどうなるか、知らないわけじゃないだろう?


251リル:……知ってるよ。


252カナロア:なんでそんな……母の元に還れなくなるんだぞ?!







253エマ:リル様はどうして私を助けて下さるのですか?


254リル:僕がそうしたいと思ったから。


255エマ:泳ぎの遅い人間への同情では無いのですか?


256リル:別に同情じゃない。そうだな……しいて言うなら、これは償いだよ。人魚が犯した罪への償い。


257エマ:そう、ですか。







258エマ(無線):こちらカーター特級調査員。これより最終探査に入ります。目標地点は……海底神殿。

 






259リル:エマ、今日はどこまで行くんだ?


260エマ:今日は深めに潜るつもりです。


261リル:なにか捜し物?


262エマ:ええ、宝石を探して欲しいと依頼がありまして。


263リル:深いところなら僕も手伝えるから後で教えてね。


264エマ:はい、お願いします。……あれ、あの神殿は何なのですか?


265リル:ああ、あれは海底神殿だよ。


266エマ:あれは街が沈んだ後に出来たものなのですか?


267リル:何年も経ってあの形になったんだろうね。僕も詳しくは知らないんだ。


268エマ:……そうなんですね。


269リル:入ってみたい?


270エマ:……え?


271リル:いや、エマの目が太陽見たいにキラキラしたから。興味あるのかなと思って。


272エマ:端くれなりにも調査員ですから。気にならないと言えば嘘になります。


273リル:人間は難しい言い方をするね。素直に行きたいって言えばいいのに。


274エマ:すみません……。


275リル:ほら、行こう。


(少し間)


276リル:さ、ここが海底神殿だよ。


277エマ:すごい……思ったよりも明るいんですね。


278リル:不思議だよね。海底なのにここだけ光が届いてるんだ。


279エマ:これ……飾られている物はどれも人間が使っていたものでは?


280カナロア:……そこで何をしている。


281リル:姉さん。


282カナロア:ここになぜ人間がいる。説明しろ、リル。


283リル:僕が連れてきたんだ。エマは悪くない。


284カナロア:ここは神聖な場所だ。穢らわしい人間の来る場所では無い。


285エマ:あの、ひとつ聞いてもいいですか?


286カナロア:……何だ。


287エマ:ここにあるものは全て人間が使っていたものではありませんか?何故こんな綺麗な状態で保管を……?


288カナロア:お前が知ることでは無い。


289リル:……姉さんは人間が大好きだったからだよ。


290カナロア:リル!


291リル:人間が好きで、愛おしくて、深く愛してしまったから、だからその分傷ついた。違う?


292カナロア:……違う。


293リル:じゃあディランさんのことはどう説明するつもり?愛していないなら、なぜ海を荒らしたの?なぜ姉さんは悲しんだの?


294カナロア:それ、は……


295エマ:ディラン……?それってディラン・カーターの事ではありませんか?(※被せ)


296カナロア:(※被せ)……おい人間。騙したな。


297リル:姉さん何言って、ちょっとどこ行くの?!


298カナロア:奥の扉が開いた。侵入者だ。


299リル:奥の扉って、まさか!


300カナロア:お前たちも来い。



(少し間)



301ダニエル:あはは……あはははははは!!!!!!ついに……ついに手に入れたぞ……あはははは!!!!!


302カナロア:お前……何をやっている。


303ダニエル:あはははは!!!!!!この秘宝は私のものだ……これを王に渡せば……あはははは!!!!!!!!


304カナロア:その汚い手を離せ!!!!!


(カナロアが水を操りダニエルを拘束)


305ダニエル:クソ!身動きが!!!!おいカーター!!何やっている!!!早くアトランティスを手に入れろ!!!


306カナロア:やはりお前も仲間だったのか、人間。


307エマ:私は、その、


308カナロア:もっと早くリルから遠ざけておくんだったな。


309リル:姉さん、落ち着いてよ、エマはそんな事する人じゃない。


310ダニエル:あはははは!!!!!カーター、お前人魚まで虜にしていたのか。でかしたぞ!!!さぁ早くアトランティスを私に!!!!!!


311カナロア:何も触らずに出ていけ!!!また街を沈める前に立ち去れ!!!


312ダニエル:くそっ、離せ!バケモノめ、


(ダニエルが瓶をポケットから出す)


313エマ:それは!……リル様逃げてください!あれは!


314ダニエル:これでお前たちは終わりだ!海は俺たち人間のものなんだよ!!!!!!!


315リル:魚達が!!!


316カナロア:うぅ!熱い……!くっ、お前、何を……!


317ダニエル:海水に反応する毒だよ。ずっと海水にいるお前達には俺たちよりも早く毒が回るだろうな。そこで もがき苦しみ朽ち果てろ。


318エマ:……リル様。アトランティスを彼の手から奪えますか?


319リル:え?……出来なくはないけど……何か策があるの?


320エマ:一刻を争います。お願いしてもいいですか?


321リル:分かった。……おじさん!ちょっと失礼!っと!


(リルがダニエルに体当たりをしてアトランティスを奪う)


322ダニエル:貴様!返せ!それは私が手に入れたんだ!


323リル:はい、エマ。これがアトランティスだよ。


324ダニエル:でかしたぞ、カーター。さぁ、


325エマ:契約は破棄いたします、クルス調査員。


326ダニエル:は……?


327エマ:この秘宝はこう使うものですから。……(呟く)『お願い、この海を元の綺麗な海に戻して。』



328リルM:エマが何か呟くと、アトランティスは暖かい光を帯びて光り始めた。すると毒に汚染されていたはずの海はたちまち元よりも美しく澄んでいた。そして、エマの姿も変わっていた。



329リル:エマ……?


330エマ:はい?


331リル:目の色が変わっているよ。


332エマ:え?本当ですか?


333カナロア:その金の瞳……ディランにそっくりだ。


334リル:姉さん、大丈夫?


335カナロア:ああ。熱さも痛みも引いた。……人間、名前は?


336エマ:エマ・カーターです。ディラン・カーターは私の祖父です。


337カナロア:孫……ディランは?ディランはどうしている?


338エマ:祖父は私が小さいときに亡くなりました。


339カナロア:そう、か。ディランが。


340エマ:人魚様。


341カナロア:カナロアだ。名前で呼ぶことを許可する。


342エマ:……カナロア様。この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。今日のところは一度帰らせては頂けませんか?……後日、全てが終わったら、ゆっくりお話をさせてください。私の事、そして祖父の事も。


343カナロア:……ああ。そうしよう。……この男はどうする?


344エマ:一度こちらで罰してからお渡ししてもよろしいでしょうか?『罪人は人魚の元へ』ですから。







345エマ:罪人、ダニエル・クルス。別部隊に所属している調査員による調査の元、様々な不正行為や犯罪行為が発覚した。よって、海落刑(かいらくけい)とする。……なにか申し開きはあるか?


346ダニエル:私は王のためにやったんだ!!それに、バケモノを退治しようとして何が悪い!!!!私は悪くない!!!!


347エマ:貴方が海に放った毒は後に海の生物を死滅させる恐れがあるものでした。後の人間の未来を破滅に追い込む行為だったのですよ。


348ダニエル:クソ……アトランティスさえあれば……あれさえあれば、世の理など全て覆せたというのに……!!!


349エマ:力に溺れた人間ほど醜いものは無いですよ。……さぁ。もういいでしょう。……罪人を人魚の元へ!


350ダニエル:やめろ!!!!!!!







351リル:姉さん、エマが来たよ。


352エマ:リル様、カナロア様。ご無沙汰しております。


353カナロア:改めて礼を言わせてくれ。海を助けてくれて本当にありがとう。


354エマ:いえ。祖父のおかげでもありますから。


355カナロア:その、ディランは人魚を嫌ってはいなかったのか?


356エマ:全く。祖父がずっと言っていたんです。街が沈んだのは自分のせいであって、人魚様は悪くないと。


357カナロア:……そうか。


358エマ:あとこれ……遅くなりましたがお返しします。


359カナロア:アトランティスは私にはもう不要だ。


360エマ:でも、あれほど……


361カナロア:アトランティスをディランから受け取った後、母たちが力を与えたみたいでな。その力は私には扱えない。扱えぬものなど私には必要ない。


362リル:エマが持っていたらいいんじゃないかな?


363エマ:私が?


364カナロア:アトランティスには様々な力が眠っているらしいからな。……後にお前の役に立つだろう。


365エマ:……ありがたく頂戴いたします。


366カナロア:じゃああとは任せたぞ、リル。


367リル:……もう行くの?


368カナロア:ああ。母の元に帰らなくてはいけないからな。


369リル:そう。……気をつけてね。


370カナロア:じゃあな、リル。……元気で。


371リル:姉さんも。


372エマ:カナロア様はどこへ?


373リル:約束の地。


374エマ:遠い場所なのですか?


375リル:そうだね。


376エマ:そうですか。……お帰りになるまで寂しくなりますね。


377リル:もう戻らないよ。


378エマ:え?


379リル:人魚はね、寿命が尽きると母に呼ばれるんだ。母は約束の地にいて、場所は誰も知らない。……不思議でしょう?


380エマ:人魚様の事はまだ分からないことだらけです。


381リル:そっか。……エマ、これからここで暮らすのはどう?


382エマ:私は長くは海にはいれませんよ?


383リル:前にあげた真珠、それを飲み込めば海で暮らせるようになるよ。


384エマ:そうなんですか……。


385リル:でも人間の生活には戻れなくなる。……ちゃんと考えて、海で暮らす決心が着いたらまたここに来て。


386エマ:はい。







387エマN:遺失物調査団の特級調査員が行方不明になりました。その調査員は『探し物をしに行く』と言って海に行ったきり戻ってきておらず、消息は不明です。


388エマ:後記(こうき)。……アトランティスは秘室に睡る。



(終)