患者さん、リハ専門職向け:Evidenceから見た急性腰痛(ぎっくり腰)になったらすべきこと、すべきでないこと。~理学療法士が勧めるぎっくり腰対策~⑤
おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
数回のシリーズでぎっくり腰になった際にどういうことをすべきか?ということを書いています。 前回までで概要と、注意点、ぎっくり腰の原因に関して書きました。
まず、全体として最も大切なことは、
『受け身』になって治療を受けるのではなく、自力で治すという意識をもって行動することです。
何故かというと、前回の記事でも書きましたが、
世界は腰痛をより心理的な問題として捉えなおしています。
マッサージや、ゴッドハンドによる『してもらう治療』は症状改善を遅らせる可能性があります。専門職の人間を上手く使って、『患者さん自身が中心となった治療』というのが現在までに人類が辿り着いた最も有効な治療です。
では、具体的に。
1.まず、重篤な疾患を除外してもらう。
Red flag という、チェック項目リストがあります。
原因不明の体重減少 → がんの疑い
ステロイドの使用や発熱 → 感染の疑い
のように、重篤な疾患の可能性を調べます。この流れは基本的には医師が行うものと同様のはずです。
2.Red flagに当てはまらない腰痛の場合は、レントゲンやMRIなどの画像診断は必要『ない』。 心配だから、MRIやCTやレントゲンを使って撮影して欲しいな~と思う心理は理解できます。しかしながら、ぎっくり腰に対しては、これらの画像検査はデメリットがコストを上回ります。
①CTやレントゲン撮影による被爆。即健康に悪影響を与えるという程ではないですが、不必要ならわざわざ被爆する必要はありません
②コスト。当然これらの画像診断は高価ですので、不必要な検査は患者の財布も、国の財政も圧迫します
③撮影することによる症状緩和のデメリット。原因ははっきりしませんが、レントゲン撮影をしたグループの方が、症状改善が遅れるというデータがあります。
研究チームは、仮説として「画像を見ながら、医師が『あなたの腰はここが悪い』と指摘することで、患者が恐怖心を覚えて、自ら体動を制限することで症状改善が遅れるのではないか?」と言っています。
3.重篤な疾患がないことがわかったら、安静に『しない』
仕事を含めて、可能な限り普通の生活をして大丈夫です。どうしても痛くて動けない場合でも安静は3日未満が望ましいです。その根拠となっているのが下記のデータです。
4.痛みが引いてきたら、『怖がらずに』体を動かす。
ヨーロッパのガイドラインがどのようなことを勧めていて、逆にどのようなことを「しない方が良い」としているのかを図で纏めました。
運動療法(ストレッチ、筋トレ、有酸素運動)は、慢性的な腰痛に対しては非常に重要な治療ですが、ぎっくり腰に対して、効果的かどうかは議論が続いています。 行う場合は、どの運動でもよいと思いますが、最も大切なことは『怖がらずに動く』ことです。
前回の記事で“近年、腰痛の原因として脳の機能変化が注目されている“と書きました。
実は、腰は人体の中で最も強固な部位の一つです。大きく曲げる、ねじるといった運動程度で壊れるものではありません。
痛すぎない程度でねじるなどの運動を行うことで、脳に『この運動はやっても大丈夫なんだ』と再学習してもらうことが大切です。
マニュピレーションというのは、下記の様な方法で体をねじって、軽く『ポキッ』と鳴らす徒手療法です。一部の論文では効果的とされていて、イギリスの徒手療法の修士コースで教えている所もあります。 やり方はこんな感じ。
ただ、冒頭にも書いた通り、このような『誰かにしてもらう治療』は、あくまでも、痛みが強い時に症状をコントロールするために行うもので、最も大切なことは、患者さん自体が主体で『怖がらずに動くこと』です。
長くなりましたので、次回に続きます。ようやく次回がこのシリーズの最終回です(;'∀')
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
理学療法士 倉形裕史
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