フィレンツェ大聖堂⑤
フィレンツェ大聖堂を見上げるブルネレスキ像
前回は、フィレンツェ大聖堂のドーム工事について、内部仮枠を使わずに進める手法をご紹介しました。今回は、ブルネレスキが工事の過程で発明した様々な機械について、取り上げたいと思います。
ブルネレスキが発明した機械の数々は、 当時の人々の関心を集め、 レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめとする、多くの科学者や芸術家達が競うように、それらの詳細なスケッチを残しています。それらの中でも、1420年にブルネレスキが作成したとされる大ウィンチについては、多くの資料が残っていて、復元模型等も制作されています。これは、2頭の牛を使って、円盤を水平に回転させ、それを歯車によって、ロープ等でモノを吊り上げる垂直方向の力に変換させる装置です。歯車を取り換えることで、さらに運動の速度を変えたり、荷物の上げ下ろしを反転させることが可能になっています。
ブルネレスキは普段から余暇の時間に、目覚まし時計などの、複雑な工夫をこらした機器をたくさん作って楽しんでいたそうです。また水上輸送の技術にも興味を示していて、1421年には、おそらくドーム建築に使用する大理石運搬のための特殊な船を考案し、特許を取っています。(ちなみに、この船には、「のろま」という呼称が付けられていました)
これら機械を見ていると、ブルネレスキがいかに周到に工事手順を考えていたか、想像できるのではないでしょうか。事前にすべてを見通せていたわけではなかったにしても、彼は何か課題にぶつかる度に、類まれな瞬発力から大胆なアイデアをひねり出し、実験を繰り返しました。そうして、伝統に縛られた職人仕事からは生まれようがなかったような、新しい手法や道具を発明し、ひとつひとつ課題を解決していきました。それは芸術家というよりも、冷徹な技術者の姿でした。当時の人々はそれらを驚きのまなざしで見つめ、現代の研究者からも、ブルネレスキの技術的着想は、近代科学のめばえであると評価されています。